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そこにある

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 跪いて懇願しても、状況は何も変わらなかった。
 この世界には多分、神様がいるはずなんだ。
 それなのに、なんで今この時に助けてくれないんだ! 
 
「兄さま、兄さま、ご、ごめんなさい、知らな」
「知らないなら何をしてもいいのか? 彼が逃げようとした? 当たり前だ。
 国から金色の魔法使いとして、母様の顔を知らない国民は生まれたての赤ん坊くらいだろうよ。
 いきなりそんな人が訪ねて行けば、私のことで咎められるとでも思ったに違いないんだ」
 
 だが母様を狙って実際に手を下そうと凶器を持った悪意から、身を挺して守るなんて普通の人にできるだろうか?
 咄嗟に動けるのは訓練された者くらい、もしくは相手を心から守りたいと思う者くらいだ。

「ミラ、今は時間が必要だよ。
 リュリュ、ミラは本当に悪気があったわけでは無いんだ、そこだけは分かってやっておくれ」

 頭では理解していた。
 感情は許さないと、体中を怒りが支配しそうになっていた。

「伯父上、私は彼が息を引き取ったならば、ここを出ていきます。
 そして母様と彼を襲った奴をこの手で始末します」

「兄さま! そんな、やめてよ」

「既に騎士団が警備隊を伴って緊急配備している。リュリュ、すぐに容疑者は捕まるはずだ。
 それに街中で凶行が起きたことで目撃証言も多いから」
「そいつはどんな奴なんだ?」

 半分正気とは言えないような表情で伯父上たちを見回して、頭からすっかり抜けていた犯人の情報を聞き出そうとしていた。

「あ、の、犯人は、しょ、うかんの娼妓だと」

「どこの娼妓だ?」

「えっと、平民というか、傭兵や討伐隊が主に使うような場所で、ダイチと言う者だそうです」

「!、あいつか」

 その時、あの死に際の記憶がまた思い出された。
 ダイチ、大地は義兄の名前だった。
 自分でタツキと名乗って相手はダイチと名乗った。
 義兄だとは到底思えないが、関係者である可能性があったのに、その考えをわざと心の奥底へと沈めたんだ。
 テオドア伯父上への想いを封印するように。

 じゃぁ、なんで大地の名前を名乗ったんだ?
 タツキという名前にダイチをぶつけてきた理由、それに専属にしてくれと言ったあいつに前世でのストーカー野郎を思い出させた。
 
「あぁ、そっか。
 あいつ、ストーカー野郎だったんだ。まるっきり前と同じじゃねーか」

 当時よりだいぶ老けてたせいと、ストーカーの顔なんてそれほど覚えてたわけじゃないし寧ろどうでもいい存在だったからだ。

「何か知ってるの?」

「ああ、私が行っていた娼館の奴だ。
 多分狙いは私だったのだろう。だから、その関係者である母様を襲ったんだ」

「それはエルがこの彼に会いに行ったからか?」

「そうかもしれない、それに狙ったのは母様だけじゃなくて……。
 私の痕跡を辿れる者であれば誰でも彼のところへたどり着けますから」

 長期休暇を取っても家に帰らない放蕩息子を心配して、母様が痕跡を追って彼の元へ行ったのはたやすく想像できた。

「私が狙いだからだ。痕跡が追えなきゃ街中で母様をピンポイントで襲えない。
 きっと彼も標的だったんだ……」

 関係がある人たちを殺そうって思うところなんか、まさにあのストーカーと同じだった。

「決着をつけるべきは、私です。
 一刻も早くあいつを見つけてぶっ殺したら、彼の最期を一緒に過ごしてあげたい」

 さわやかな笑顔でそう告げると、ミラと伯父上は固まった。



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