獣神の配偶者～縁を結びし者～

3盲目の医術師

「よく我慢したね、偉かったよ。
　これはご褒美」

「お兄ちゃん、これって」

「うん、僕が作った飴だよ。
　ハーブが入ってるから喉にも良いしね」

「ありがとう！」

　小さな男の子が治った足を不思議そうに見ながら、飴を口に入れて笑顔で走り出していった。

　あれから二年が過ぎた。
　伝染病だと言われていたものは、やはり毒だった。
　この地方一体が飲料水にしている川の上流から流されたものだった。
　川から引いた水に、川の魚、それらを口にした人たちが皆腹痛や嘔吐、そして吐血をした。
　魚を食べた人と水を飲んだ人で症状が出る時間に差があっただけで、伝染病では無かった事を闇魔法師が突きとめてくれ、早急な対応で解毒をしたが大半の村人がその命を落とすことになった。
　その原因である毒を混入させたのが、この辺境と隣接する隣の国の人間だった。
　山や森があるだけの何もない辺境地でも、隣国は欲しいらしくこの地の人を根絶やしにし、自国民を移住させて実質的にこの地を手中にしようとしていた。
　
　僕たちが早期に対応したために隣国の計画は失敗したかに見えたが、その後すぐに攻め込まれた。
　衛兵たちが足りなかった。
　毒や病気の対応だけで、兵士を大勢連れて来ていたわけではなかった為に、劣勢を強いられ僕は隠していた魔法を使わざる終えなかった。

　大量の死体、大勢の犠牲者、そして僅かに残った兵士や医術師に治癒魔法をかけた。

「シャリオ様！　貴方様は一体」

「ただ、魔法が使えるだけの人間だよ」

「いいえ！　このような魔法量に聖魔法も闇魔法も使えるなんて！　
　きっとウィノニダ王も喜ばれます！」

　生き残ったその兵士は僕を讃えたが、ほかの医術師や兵士たちからは、何故、犠牲者や死者が出る前にその力を使わなかったのかと抗議された。

「出し惜しみした結果がこれだ、なんて非道な方なんだ。
　ウィノニダ王もこれを知っていたから、この方を愛さないと宣言されたんだ」

　言われても仕方なかった。
　もっと早く使っていれば。

　そんな事を考えていた時、虫の息だった敵の兵士が後ろから僕を刺した。

「ぐぅ、」

「貴様！！」

　抗議していた兵士は反射的にその敵を切り捨てたが、僕を助けようとはしなかった。

「貴方はこれだけの犠牲を出した張本人です。
　その責任を取って、ここで死ぬのが良いでしょう。
　王にはちゃんと愛する人がいますし、国は何の問題もありません」

「で、は、僕の、死を国際問題に、しないで、くだ、さ……い」

「もちろんです」

　そう告げて、残った兵士と医術師はその場を去って行った。
　
　彼らが見えなくなるのを見届けて、僕は自分に治癒魔法をかけた。
　人にかけるのとは違って、自分の組織を意識して治癒していく。
　ここまで瀕死状態になっても、造形を変える事は出来ないらしく、やっと少しだけ遺伝子も操作した。
　髪の色を白灰色に、そして瞳を銀にした。
　最初に考えていたシナリオとは少し離れてしまったけど、死んだことにして第二の人生は約束されたのだった。

　そして今に至る。

　生き残った盲目の医術師、として。



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