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しおりを挟むテイトはザクロを待つ間、不安が無かったわけでは無かった。
ただ、逃げ出すようにここから去るのではなく、きちんとお礼を言って風の巫覡として生きるから心配しないでくださいと伝えたいだけだった。
「テイト、大丈夫だよ! あのね、ザクロはちゃんとテイトしか好きじゃないって、だから、あの、ごめんね?」
いつの間にか風の子は随分を人間臭くなっていた。
ついさっきまで面白可笑しいとしか思っていなかったのに、ザクロに怒られテイトの心が震え涙する原因が自分たちだと理解したからだった。
トウカの時は明確な怒りを持っていたが、それは不特定多数の相手に対してで、原因は自分たちでは無かった。
だが今回は自分たちの思いもよらぬ言動が引き起こした事だと、初めて理解したからだった。
「それにね、テイトにはちゃんと教えてあげる。
あの悪い奴、ザクロの事殺そうとして来たんだよ。
だい」
「え?! どう言う事!!」
風の子たちはまたしても失敗した。
「ザクロを殺しに」
「なんで! 何で黙ってたの!」
「だって、だって、ザクロなら大丈夫って思ったから」
「旦那様は前にも殺されそうになって、僕が護ったのに!」
テイトの感情が一気に膨れ上がると、風の子らはそれに引き摺られて風の神として顕現させられた。
「テイト、ごめん。ごめんね! ザクロは大丈夫だから! 落ち着いて!」
テイトに取り込まれてる風の子らが口々に、その動きを止めようとした。
「それに! もうすぐザクロが帰ってくるから!!」
他の風の子らが一大事とばかりに集まって来て、今のザクロがどの辺にいるのか教えた。
「ほんと?」
「本当だよ! テイトのバカ!」
漸くテイトの顕現が解け宙に浮いたまま、風の子らがその周りで文句を言ったり、半泣きになりながらグルグルと取り巻いていた。
「ほら! あそこにいるじゃん!」
風の子らが指さす方向にはザクロが乗り物から降りて、テイトがいるであろう屋敷の庭に歩いて来るのが見えた。
その姿を認めた途端、その場から滑降してザクロの胸へ飛び込んだ。
「うお! テイト!」
「旦那様! ご無事で!!」
テイトを抱きとめながら、ザクロはどこかへ行っていなかったことにホッとし、そして何をこんなに焦っているのかを聞いた。
「ジョスクは旦那様を殺そうとしてたって風の子らから聞いて、いてもたってもいられず風の神として行こうと思ってました!」
呆れるやら嬉しいやら、そして、ジョスクの思惑に驚きながらも、薬物に頭をやられてそれも叶わなかった事を哀れにさえ思えた。
「俺は簡単にはやられないよ」
「何言ってるんですか! あんなに簡単に刺されそうだったのに!!」
過去の襲撃にで命を賭したテイトのトラウマだった。
抱きとめて泣きじゃくるテイトの背中をゆっくりと撫で、抱き上げたまま屋敷の中へと入るとゆっくりと胡坐をかいて座り、泣き止むまで大丈夫だと言い聞かせていた。
「少しは落ち着いついたか?」
「はい……、その、」
「ははは、可愛かったぞ」
その言葉で泣きすぎて赤かった顔が、今度は羞恥で赤くなった。
「その、ジョスクは」
「ん、問題無い。
ただ、薬物に犯されていたのでもう長くはない」
「では、お腹の子は」
「私の子ではないが、医者の進言もあってあいつの体の負担を少しでも取り除いて、安らかにしてやるのが一番だとなった」
「そうだったのですか」
「あぁ、どっかのヒヒ爺が俺の命を狙ってんだろうが、ジョスクを使うとはな」
トウカの件で公爵が逆恨みをしてると言う情報は、既にザクロの元へ届いていた。
「お父様の事で?」
「逆恨みってところだ」
表向きは公爵家へ戻る道で、襲われトウカは命を落としたのだから、ザクロを恨むのは筋違いだった。
だが公爵にしてみれば、その矛先はトウカを息子の元へ呼び寄せたザクロが悪い、という持論があったからだった。
「そろそろ、あのヒヒ爺も隠居させてやってくれ」
ザクロは誰もいない空間に向かって言った。
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