31 / 36
31
しおりを挟む「テイト! あの悪い奴が来てザクロの赤子が出来たって!」
風の子たちが興味本位だけで面白そうにテイトに告げた。
「どう言う事?」
顔色を悪くしたテイトを見て、初めて様子がおかしい事に風の子らは気づいた。
自分たちが面白そうと思った事が、人の間にとっては致命的な内容だとは思ってもいないし、相手を苦しめるとか悲しませるなどと言った、思いやりの感情を持ち合わせていない、人と決定的に違う部分だった。
神と人の交われない感情だった。
「え、テイト、どうしたの?
何で泣いてるの?」
泣くと言う感情は理解できるのか、と今この場にトウカやザクロがいたら風の子らを睨みつけていただろう。
この状況を自分らが齎したとは理解出来ない風の子らがあたふたしてるうちに、テイトは出て行こうと荷物を纏め始めた。
「ちょっと前と同じことしてるじゃん」
呟くと、余計に泣き笑いの様になった。
「テイト、何で? どうして? まだ神事をやってないよ?」
「だって、ジョスクさんが妊娠して帰ってきたらな、僕はここに居ちゃいけないよ思うんだ。
子供の為にも、ちゃんと家族でいた方が良いと思うし、旦那様が嫌な思いをするのは嫌だから」
出会うのが遅かったんだ、とテイトは自分を納得させた。
「それに、僕は旦那様が幸せならそれが一番だし」
心からの笑顔だった。
「待って、ね、待ってて! 僕らがザクロを怒って来るから、それまで待ってて」
テイトは苦笑いをしながら、そのくらいの時間は待っていても良いかもしれない、もしかしたら、期待した部分もあった。
「テイト! 良かった、いてくれた!
ザクロ、凄く怒ってた! テイトを泣かせたって僕らが怒ったのに、それは勝手に話した僕らが悪いって、だからザクロからちゃんと話すから、いて欲しいって」
段々と声を小さくして風の子らがテイトにザクロから言われた事を告げると、すこしホッとしたような顔をしたテイトが風の子らを慰めた。
「僕ら、興味があったから、ただそれだけで、テイトとザクロの運命を変えようとしたわけじゃないんだ!
だから、でも、もしかしたら、僕ら罰が下されるかも! どうしよう、テイト!」
ザクロらしい𠮟り方をしたのだと、テイトは心中で笑った。
「それに、ザクロがヒニンはしてたって言ってた!
ヒニンってってなに?」
万物を越える力を持っていても、言葉をしらない子供の様だとつくづく思い、その説明を濁して終わらせた。
「わかった、ザクロに聞けばいいんだな」
「そうですね、そう言った本人に尋ねるのが一番でしょう」
苦笑いをしながら、ザクロがどんな反応をするのか想像して楽しくなっていた。
「テイト、笑った!
良かった、ザクロに怒られない」
余程きつく言われたのだとテイトも思い、ザクロと話が出来るまでは待つと決めたのだった。
郊外から更に田舎へと入った所に、住宅街がありそこの一角に小さな平屋があった。
「ここか、随分離れた所を探したものだ」
長屋と言った方が正解だろうと思えるほど、小さな平屋が四軒ほど並び、一番奥まった所にある平屋がジョスクにあてがわれた部屋だった。
引き戸をガラッと呼びかけ無しに開けると、中には随分とやつれたジョスクが立っていた。
11
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる