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「神族を相手にはさすがにできんぞ」

 ザクロの力が及ぶ範疇では無かった。

「大丈夫だ。
 神はおろせないが」
「僕がおろす! 僕がやる!」

 二人の間に割って入って、テイトが神をおろすと言った。

「お父様がこれ以上嫌な目に合わないために、僕がやる」

 風の子たちもテイトならと承諾した。

「神族の族長の所へ行って、話をして来なければいけないだけだ。
 テイトの姿を見せたくない」

 神族が風の巫覡を欲しがって何をするか分からない、そういう恐れもあったからだった。

「なら神をおろした姿なら、分からないしお父様の力にもなれるよ」

 神をおろす事で、神の姿へと変化する巫覡は、今では殆どいないという風の子らが、テイトならば変化できるとまで言ってのけた。

「テイトは生まれ直した不思議な魂だから、この世界の神の力が宿ってる。
 だからその眷属になる僕らをおろすと風の神の本来の姿に変化することが出来るよ」

 それを聞いたザクロとトウカは、そういえばそうだった、と納得した。

「今から行っちゃおうよ」

「本当はテイトを行かせたくはないが、トウカ殿の今後の進退を考えれば早い方が良いだろう。
 それに神様がついてるとなれば、神族もヘタな事は出来ないだろうしな」

 それに、とザクロは二人が不在の間に脱獄した、とされた賊の始末をしなければならなかった。

 テイトが風の子らに声を掛けると、リーダー格の子の周りに集まると一つの光の玉になって、テイトの体の中に入った。

 クジャクの羽根色の様な深い緑と黒の髪色から、艶やかな新緑を思わせる透明感のある緑色に変わり、体もどこかのシンボルの様に大きくなった。

「お父様」

 屈んでトウカの前に大きな掌を差し出すと、それに乗せて舞い上がった。

「この光景が普通には見えなくて良かったよ。
 どっかのロボットアニメか、巨人の話みたいだ」

 太陽に向かって舞い上がったテイトの姿を、眩しそうに見つめてザクロが笑った。

「行ってきまーす!」

 



 道中の襲撃をさせたザクロが、合法的に出所させていた事は隠し、賊の連中にはあたかも脱獄をさせたかのように思い込ませていた。
 
「俺たちはアンタの言われた通りにしたんだ!
 これで、解放してくれるんだよな?」

 深夜、大きな漁港の倉庫に潜ませていた連中を外に連れ出すと、開口一番そう言われた。

「あぁ、私もそう暇ではないし、お前たちを監視するのも面倒だからな」

「約束通り、国外へ脱出させてくれ」

「もちろんだ。
 既に船も用意してある。
 表向きは遠洋漁業に出る漁船だが、国外へ出たら好きな国で降ろしてやるように手配してある」

「本当だな?」

「その代わり、二度とこの国に戻って来るなよ?」

「脱獄してんだ、戻ったら捕まっちまう、二度と戻らねーよ」

 そうかと頷いて、彼らを漁船の荷物としてそれぞれを箱詰めすると、船の中へ運び込ませた。
 連中は、船に乗り込み出航後に外から合図をするから、外に出すと言われて息を殺してその時を待っていた。

「おう、もういいぞ」

 木箱の蓋の部分を押し上げて外へ出ると、甲板へ上がり大海原を見て実感した。

「解放されたんだ」

「そうだ、ボスから手伝いの駄賃を預かってたわ。
 これで、海外でもがんばれだとよ」

 そう言ってずっしりと重い大きなカバンを渡されて、中身を確認すると数枚の紙幣に鉄アレイが入っていた。

「これどういう意味だよ!!」

「頭悪いな」

 その言葉を聞いたか聞かないかくらいのタイミングで、海へ落とされた。
 そして、それを倣うかのように、同じように全員が海へ落とされたのだった。

 出国した記録も無く、二度と戻る事の出来ない海に落とされれば、目撃者も無くそれで始末は終了だった。


 
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