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しおりを挟むザクロに追い払われたジョスクが屋敷へ戻る途中で、人影を見た気がした。
「ジョスク様、さっきのありゃ何ですか?
俺はアンタが言った事や指示した事に従ってきたって言うのに、酷すぎやしませんか?」
「あの時旦那様にバレたら、どうなってたと思うんだ!
私が諫める形で収めたんじゃないか」
下男は納得がいかないという表情をしながら、屋敷へ向かっていた。
一番奥まった所からの道中は松明だけが頼りで、暗闇は二人の神経も敏感にさせていた。
二人が歩いているすぐ近くで、他の足音が聞こえた気がした。
「誰かいるのか?」
下男が暗い道とも言えないような雑木林の出口辺りで、手に持った松明をかざしてみた。
「もしかして、バケモノテイトじゃないのか?!
皆がどれだけ探してると思ってんだ!!
迷惑ばっかかけやがって! 出てこいよ! ぶん殴ってやる!」
テイトだと決めつけて、足音がした方へ歩いて行くと、木の間にいたのは黒装束の不審人物だった。
「誰だ!! お前!」
声を荒げた瞬間に、飛び出して来た黒装束の男に下男は首を切られてこと切れる事になった。
「ひぃ!! 何で!」
ジョスクはこの男が自分が依頼して引き入れた賊だと理解したが、下男をいきなり殺すとは思っていなかった。
「バカか、おめぇは。
さすがお坊ちゃん育ちだな」
ゲラゲラと笑う男の後に続いて、何人もの仲間が現れた。
「ボンクラに依頼された瞬間に、この家を襲う事を計画したのさ。
苦労せず入り込める手筈まで整えて貰ってんのに、めんどくさい拉致なんかしなくても大金が稼げるじゃねぇの。
拉致だけして、はい、さようなら、手間賃はこれだけね、なんて話が通るかよ」
「約束が違うじゃないか!! 私の屋敷には手を出さないって!
だから大金を積んだんだ!」
ジョスクが力一杯叫んでも、賊は笑うのを一向にやめなかった。
「お前はその辺の娼館に売っちまうか、口封じに殺っちまうかだが……、足がつきそうだし捨てる方がいいな」
その選択を聞いて、急いでジョスクは逃げようと走ったが、足がもつれてうまく走れなかった。
それでもこの恐怖の中動けたのは大したものだった。
「あはははは、面白れぇ、走れ走れ、それでも走ってんのか?」
足がうまく出せないジョスクの走りを見て、賊たちは揶揄い罵声を浴びせたが、それもでも走って逃げなくては殺されると恐怖が頭を占めていた。
それは、テイトの姿を見て嘲笑い、罵声を浴びせ離れから追い出したジョスクそのものだった。
「もっと面白くしてやろうぜ」
そう言うと下男を殺した賊が、持っていたナイフでジョスクのふくらはぎ辺りを刺し貫いた。
まさに、テイトが負った傷の様だった。
「ぎゃぁぁぁ!! 痛い! 痛い!」
転げまわるジョスクに、芋虫だってもっと早くねぇか、と笑い、そして、早く逃げないと今度はご自慢の顔を切ると嘲笑った。
「助けて、助けて、何でもするから!!」
地べたを這いつくばるジョスクに、そろそろ飽きたと一人が言うと下男と同じように首を掻き切ろうとしたところでザクロが現れた。
「誰だお前ら」
「旦那様! 助けて下さい!! こいつらが襲ってきたんです!!」
ザクロが連中を睨みつけるとその気迫に気圧され一瞬飲まれたじろいだが、すぐに気を取り直した。
「そこの坊ちゃんが俺たちを招待してくれたんですわ」
「嘘だ! 嘘を吐くな! 違う、違うんです!」
ザクロに取りすがろうと這って行くと、更に追い打ちをかけた。
「なんだっけ、バケモノみたいな奴を連れ去って、どっかで始末してくれって言われましてね?
だがしかし、そんな事をするより、こっちのお屋敷のお宝を頂く方が実入りが良いってもんでさ」
足元に転がるジョスクを見た。
「どう言う事だ?」
「そのままの意味でさ。
坊ちゃんはバケモノが嫌い、いなくなって欲しいから捨ててこい、俺らをこの屋敷に招待してやるから好きにしろって事でしょう?」
ゲラゲラと笑い合う連中の言葉に、ジョスクは違う違うと言うだけになっていた。
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