【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん

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決定的な日

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 ロビーに現れた弁護士は、三十代前半もしくは桂たちとそう年齢は変わらないくらいに見えた。

「私、神名川県弁護士会の高坂と申します。
 そちらの御名刺をいただけますか?」

 高坂弁護士はにっこり笑って名刺を差し出すと、相手の名刺を要求した。

「あぁ、私の名刺は生憎……、急だったもので持ち合わせがないので申し訳ありませんが」

「そうですか、ではお名前をうかがえますかね?
 あと、対応した警察官の名刺も共有させてください」

 流れるように相手に圧をかけていくと、しどろもどろになり始めた。

「あんまりいい加減なこと言うと、大変なことになりますよ?
 なぁ、あんた、弁護士ちゃうやろ?
 外に出てしかも警察行くのにバッジもせんで行かんやろ?
 調べたらあんたの身元なんざすぐバレるんよ、今時ネットでも調べられるのにアホやなぁ。
 勤め先も調べさせていただきますし、そこの女性との関係もね。
 期待していてください」

 ワントーン低い声でそう告げるとブルブルと震え始め、ぎゅっと握った拳を自分の太ももに打ち込み始めた。

「っふー!っふー! くそ、俺は知らねーよ! こいつが金を取り返すために手を貸してくれって言うから、ちょっと脅してやるかってくらいで、弁護士がいたらビビッて金を返すだろうって!!」

 そもそもの理屈がおかしいのだが、一方的に聞かされていた話が桂が金を持ち逃げしたような内容だから、弁護士と言えば諦めて返すだろう、それなら訴えないという筋書きだったようだ。

「で、あんたさん名前は?
 嘘は無しやで?」

「俺は平山、です」

「下は? 
 名前って言われたら、下もやろ?」

 その道の人のような話し方で自称弁護士平山を追い詰めて、とうとう名前から住んでるところ勤め先までを薄情させた。

「ですって、若狭社長? どうします?」

 桂のほうを振り返って今後の方向性を聞いてくる高坂に、若狭はいいんじゃない?やっちゃって、と答えた。

「いいよね? 桂君。
 私もさすがにこんな脳内環境の人がいるって信じられないし、それこそ子供たちが英才教育されちゃうじゃん。
 これも人助けじゃないかな?」

 若狭の言ってることも分かるが、当事者は桂でありどうするか決める権利は桂にしかなかった。

「どこの何が共有財産って言うのか分かりませんが、亮介からは折半した家賃以外もらってません。
 家賃を引き落とす口座に振り込まれてますから、それを証明できます。
 それにフリーランスですから確定申告のために台帳もPCにあります。
 会計士さんに言えばお金の流れは全部見えます。
 その上で俺の貯金のことを言ってるのであれば、」
「大丈夫ですよ。
 残念なことに日本はまだ同性婚は認められていませんし、事実婚のような事であったとしても同居も解消していますし扶養義務は発生しません」

 扶養義務と言ったところで、亮介は子供がいるだろと言ってきた。

「そちらのお子さんですが、DNA鑑定をして後藤さんの子というのであれば話は違いますが、養子縁組でもなければ義務どころかなんの責任もありませんよ。
 どこでその様な知識を得たのでしょうか?
 扶養義務があるとすれば、身近なところで女性のご両親やご兄弟ですね」

「事実婚だって慰謝料や財産分与があるのよ!」

 香子がなぜか桂への慰謝料を要求してくる始末だった。

「先ほどの暴言や業務上の誹謗中傷をネットに拡散すると言った脅迫を先に訴える、ということでよろしいでしょうか?」

 香子を無視して桂に同意を求めると、頷く桂にあとはお任せください、と。

「じゃぁ、高坂先生お任せしますので、よろしくお願いします」

 ホテルのロビーで展開された非常識な訴えは、弁護士の高坂と要請を受けた私服警察官で収拾された。
 

::::::::


「あれでよかったの?」

 若狭が数日前に決着した件を桂に蒸し返していた。

「こっちらが出したものはありませんし、これ以上関わらないってことで接近禁止命令取れましたし、良いんですよ。
 それに弁護士費用はあちらのご両親が出してくれることになったし。
 名誉棄損ってほどでもないですから」

 桂がヨシとしても、若狭は納得がいかないようだった。

「もうこれで亮介の両親とも縁を切るし、孫たちも亮一の子として育てるって言ってますから。
 これ以上は俺がかかわる必要ないんですよ」

 桂が整えた新しい部屋は若狭が新しく購入した物件で、若狭の希望も桂の希望もふんだんに取り入れられていた。
 その一室である寝室で若狭は膝に桂の頭を乗せて、お風呂から上がってまだ湿り気のある髪を撫でていた。

「桂がそこまで言うなら」

「ただビックリだったのは、子供らの内下の子二人はあの偽弁護士の子供だったし、上の子らとは似てなかったからなぁ」

 桂は伸びをしながら呆れる若狭の感情を、その太ももをポンポンと叩いて宥めていた。

「ね、泰ちゃん、もう寝ようよ」

 桂は体を起こして若狭の胸にもたれかかった。

「うーん、寝るっていうより、ねぇ?
 桂に泰ちゃんって呼ばれるとお応えしないと眠れないなぁ」

 クスクスと笑い合いながら、二人してベッドの中へと潜り込んだ。



 



 
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