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7, 法的に決まってる事
しおりを挟むシナガワ国へは半日ほどで国境に着き、そこから二時間位で王都に着きます。
「キアラ様、どうですか?
この共同開発した自動車は、素晴らしいですよ! さすがシナガワゲートウェイ国です!
半日かかる工程をわずか三時間、王都までは三十分程ですよ!」
ジェラルドが子供の様にはしゃいでいます。
自動車と言っても僕が前世で知ってる自動車とは大分違います。
この世界での動力や鉱石は似たようなものもあれば、まったく違う仕組みの物があります。
こちらでポピュラーな動力の仕組みは父が発案したものが殆どで、DNA鑑定とかそういった前世の知識満載なのは僕なんですが、この自動車は父上の知識と僕の知識、それにタバタ国の経験によって成し得た産物なのです。
そして、石油が無いのでクリーンエネルギーです。
「キアラ様、この自動車でシナガワ国へ乗り込んだことで、キアラ様達ゲートウェイの者を軽く扱う事は出来ません。
私も、シナガワのやり方はかちんと来るものがありましたからね!」
ゲートエウェイ国、良いですね。
シナガワの属国を辞めちゃえば良いんですよ、おじいちゃん。
ちなみに、携帯電話は開発済みですが、小型化までは難しく、まだ、筆箱サイズです。
アンテナの工事がゲートウェイでしか浸透していないだけで、化学って凄いです。
携帯電話の普及は、先日お見合いみたいになってしまった国の方々が望んでいて、その会議でもあったようです。
シナガワは周りより少し、いいえ、大分化学が遅れているんです。
レオナルドの公爵家へ着く前に、ジェラルドの意向で王都の中をドライブして自動車のアピールをガッツリやってから来ました。
国民の反応は、逃げながらも興味津々って感じで、商人はこちらに何とか話しかけようと必死な感じでした。
門の前で、レオナルド・ラドルチェに取次ぎをお願いすると、僕の従僕を追い返したように、罵倒されました。
「怪しい物を持ち込む様な人間に、レオナルド様を会わせるわけには行きません!」
「素晴らしい門番だね、主人を守ろうとして」
ジェラルドが褒め称え、門番が気を良くしたところで、処刑に導くような従者はいらないけどね、と付け加えた。
「何だと!」
「貴様、誰に向かって口を聞いている。
事前に何度も親展と督促状もお出ししていますがね?
さて、不調法なのはどちらか?
他国とは言え、公爵家に一介の門番がお伺いも立てずに門前払いとは……」
ジェラルドが随分楽しそうに、責め立てていましたがさすがに騒ぎを聞きつけた家令が出てきました。
「ご無沙汰しています。
キアラ・シナガワ・エビスです」
僕にしては微笑んだつもりでしたが、ジェラルドが言うには怖かったそうです。
「キアラ様……!
シナガワ・エビスとは、どういう事で」
「はい、既にシナガワ国の侯爵の爵位は返上させていただいてるので、今はカスケイドではなく、シナガワ・エビスとして父がゲートウェイ国で新たな爵位を授かっておりますから。
確か、公爵であり産業大臣としての任も担っております。
ただ、両親に王位継承権は有りませんが、私はファムとして王族から嫁ぐ事が決まっておりますので、個人としては王族になります」
そう言うと、レオナルドの家令は蒼白になって僕たちを中へと案内をしました。
「ところでキアラ様、この度はどのような御用件で?」
「不貞による婚約破棄に対する慰謝料支払いの誓約証書に署名を頂きに参りました。
先日も従者がこちらへ取りに伺った所、先程の門番が門前払いの上、極悪非道だと罵られたらしいので、僕が、直接受け取りに参りました。
はて? ご存知ないですか?」
廊下を進みながら、まさか、とラドルチェ家の家令は呟いてました。
「も、うしわけございません。
その様な事になっていたとは、存じ上げませんで」
「はて?
ここにクリッシュ・ボナーが来ていて、主人の様に振舞っていると聞いておりますが?
この誓約を頂かないと、破棄が成立していないので、不貞の証拠が積み上がるだけですよ?」
家令もあまり質が良くない様で、先を歩くその手が拳を作り震えていました。
怒りなのか、怯えなのか、果ては寒さなのか。
「その、キアラ様も認められていると、伺っておりました」
ガタガタ震える家令に、ジェラルドが口元だけで笑った表情で、認めてらっしゃいますよ、不貞をね、と付け加えて下さいました。
「レオナルド様は、誓約証書に署名をすると仰ったのですか?」
「それは、貴方にお話しする事でしょうか?
それとも彼は僕と婚約していた時以上に、物事の理解力は無くなってしまった、という事でしょうか?
はて? 彼に最初から理解力があれば、このような事にはなっていなかったので、元々、という事ですね」
応接間に着くと、ソファへと促されました。
従僕の一人がお茶を入れて下さいましたが、僕たちは急いでいるのでそれを辞して、すぐに公爵とその息子であるレオナルドを呼んでもらいました。
「この国の公爵は礼儀を知らないと見える。
法律にも疎そうだし、この国の先行きは暗澹たるものだな」
ジェラルドの皮肉は家令には通じたかもしれませんが、多分この家の主やその息子には通じないと思われます。
なぜなら、婚約破棄の意味を公爵家として理解していないからです。
国王がなぜ、公爵に命じたか、を理解していないからです。
十数分ほどお待ちして、漸く公爵とその息子レオナルド、そして、自称婚約者のクリッシュが現われました。
僕たちを見るなり、公爵は子供のしたことを許せないとは大人げない、と。
「はて? この国の成人は十八歳では無かったですか?
レオナルドは既に十九歳に手が届くところかと思っていましたが、まだ善悪も判らぬお子様でしたか」
「そういう所が、可愛くないのだ、キアラ殿。
息子も悪いが貴方ももう少し可愛らしくしていれば良いものを……」
可愛らしい、とは?
「では、婚約破棄をしない、という事でしょうか?」
「父上、私はクリッシュと結婚するのです!
キアラとは婚約破棄をすると申し上げております!!」
「黙れ、この婚約は国王からの指示なのだ!
適当に子種を入れて、孕ませてしまってそっちのは愛人で良かったではないか!」
こちらのご家庭はどうもおかしな宗教か、習わしがあるのでしょうか?
僕がそれを受け入れると思っていること自体、頭がおかしいかと思われます。
「では、今現在僕が婚約者で、そちらの方は浮気相手、という事はお認めになるんですね?」
「浮気ではない!!」
レオナルドが声を荒げ、クリッシュがクスンクスンと声を出して泣いてました。
泣くときは三者三葉とは思いますが、クスンと言う声を出して泣く方を初めて見てしまい、思わずどうやって声を出しながら泣いているのか観察してしまいました。
「この国の法律って、婚約とか結婚してるのに、他の人とセックスするのを浮気とか不貞として許してないよね?」
「何故、部外者がここにいる?
これは、二人の問題であって、他国の方には関係ない」
「いえいえ、関係ありますよ。
キアラ様が破棄をされないと、諸外国の方々が結婚を申し込めないので。
私もその一人として立ち会うと同盟で決まりましたから」
あの時の方々と同盟を既に組まれていたんですね。
ゲートウェイ国は安泰です。
「法律はそう謳っていますよ、ほらここ。
さすがに私もこの国の法律に詳しくないので、法律全書を持参しました。
事細かく、婚約中でも他の者と性行為をした場合処罰される、とありますよ!
ほら、ここです!!
そして判決後執行される処罰は慰謝料の支払いか、それが叶わなければ去勢、とありますね」
ジェラルドが満面の笑みを零しながら法律全書の一文に指を指していると、公爵はだから何だ!と返して来ました。
「既に判決は出ているので、執行される処罰として慰謝料だったんですけど、如何いたしましょう?
公爵家ではお支払いされないと言うのであれば、レオナルドは去勢されることになるのですが、よろしいでしょうか?
僕には無用な物なので、去勢と言うより全て取り除いてしまって良いのですが、そこの方が棒が無いと、その辺の木を使ってしまいそうなので哀れですし……」
そこまで言ってやっと彼らは自分の置かれている立場理解して下さったようでした。
「私は裁判なんて、出て」
「えぇ、出廷されなかったので、刑が確定したんですよ?
ご存じなかったのですか?」
欠席裁判になりましたから、御存じなかったかもしれませんね。
「卑怯だぞ!!!」
はて? 出廷命令は出ていたので、代理人でも良かったんですが、その方も来ていなかったらしいですよ?
「代理人の方が欠席されては反対陳述も出来ませんね。
命令書はきちんと、この家の御主人に渡ってるはずですよ。
何と言っても、法的な書類ですからご主人に手渡しと言うのが基本です。
公爵家でしたら、家令でも構わないでしょうけど。
ほら、受け取りサインの写しを持参しました。
こちらのサイン、読んでいただけますか? 大分、字が汚くてどなたのか分からないのです」
三人の前に複写した紙を差し出すと、見入ってから青ざめたのはクリッシュでした。
「これは……、クリッシュ、この書類はどうしたことだ?
受け取ってどこへやった?」
「僕、僕、悪くないもん!
キアラの名前があったから、復縁とか破棄しないって内容だと思って、暖炉に投げ入れて」
「馬鹿者が!!!!」
公爵は吠えましたが、仕方無いです。
法的に、終わってる事を蒸し返したりは出来ません。
「では、去勢でいいですね?」
最後に、僕は確認させて頂きました。
慰謝料より、去勢の方が僕は良いんですけど。
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