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6, 乗り込むための理由
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僕は今少し苛立ちにも似た、残念感を抱えています。
慰謝料を払う、という誓約証書を受け取りに行った従者が、公爵家で門前払いされたと言う報告を受けて、憤慨しております。
一応隣国なので、簡単には行けないわけです。
本来なら、向こうから届けて来るべき所を、こちらから伺ったのに従者を罵り、僕の事を極悪非道だと言っていたそうです。
はて? いつから彼らが被害者になったのでしょう?
「お帰りなさい。
嫌な思いをさせて、すみませんでした」
戻って来た従者に僕は頭を下げました。
「キアラ様、頭なんか下げないで下さい!
私は心底、腹が立ってます!
早く縁を切って、自由になりましょう!」
「ありがとうございます」
僕に、ガッツです! と力強く言いながら去っていきました。
励まされてしまいました。
「聞きましたよ、制約証書に署名しないらしいですね?」
ビックリっ! 今この付近に誰もいませんでしたよ!?
「は、ハーミット様、驚きました」
「えー、それ驚いてる顔じゃないよね?
通常運転でしょ!」
揶揄う様に僕の周りをクルクルと回り、ハーミットは武装国家らしく、仕掛けるか? と言われました。
「明日、シナガワ国へ出向いて、僕自身が彼らに署名して頂く様に言いますから、大丈夫ですよ?」
「え、待って、待って! ここは先に仕掛けて黙らせてマウントでしょ!」
はて? ハーミットは話し合いで解決と言う手段を知らないのでしょうか?
「別に相手がごめんなさいするのが目的なので、僕が仕掛けるとかそういうつもりは無いですよ?」
僕は謝る事も何も無いですしね。
ああ、レオナルドをちょっとだけどうでも良いって思って、放牧させてしまったのは多少責任があるかもしれませんね。
放牧した先が、クリッシュのお宅じゃなかったんですが、他の人のものだと分かってて勝手に餌をやって懐かせたんですから
ハーミットには明日の支度があるので、とだけ言ってその場を離れました。
こう言う好戦的なのは、疲れてしまうので僕には無理ですね。
翌日はシナガワを通って、自国へ帰られると言うジェラルド・マイヤー、タバタ国の公爵で王位継承権第三位の方が是非にと同行してくださる事になりました。
ジェラルドはタバタ国の国王の息子つまり王太子の息子二人の下の子と言う事でした。
僕より五歳ほど年上で、既に公爵を継いでいられました。
やはり、貴族としてちゃんとされてる方は尊敬できます。
「キアラ、何も態々お前が出向かなくても」
「おじいちゃん、僕が始めた事だから、そこはちゃんとしないといけないと思うんです。
それにおじいちゃんだって、嫌いなら嫌いってシナガワ国王に言わないと伝わりませんよ?」
「キアラ、それはな、人付き合いもだが嫌いな物や人を簡単に嫌いなどと言ってはいかんのだよ。
だからこそ、儂はあの兄上に嫌いだとは言っておらん。
それを言ってしまっては、もしかしたら国同士の争いになり、国民がそれに振り回されてしまってもキアラは構わないと思うかい?」
「いいえ、それは本意ではありません」
おじいちゃんは、僕に何で嫌いだって教えたんでしょうか?
「我慢の限界に来たからじゃよ」
凄くシンプルです。
「おじいちゃん、僕はまだ我慢が足りなかったのでしょうか?」
「そんな事はない。
事実、キアラの受けた傷は多分一生癒えることも、忘れ去る事も出来ないだろう。
それはどんなにこの先幸せだと思う未来があったとしてもだ。
人は記憶して忘れたフリは出来るが、きっかけがあればそれはいつかまた吹き出す。
辛い記憶であればある程、だ」
「シナガワ国の国王に何をされたんですか?」
おじいちゃんは溺愛してくれますし、優しい温厚な人なだけに嫌いと言うのは余程の事なんだと思いました。
「この国、シナガワゲートウェイ国を建国したのは、兄王であるアシナスをシナガワ国の王にするためだ。
兄王を愛していたからこそ、争うつもりは無いという意思表示の為に、だ。
愛してると言っても、兄としてだったがな。
しかしアシナスは兄と慕う儂が疎ましかったのだ。
それを知ったのは、この国を建国して三年ほどしてからだった。
ある日、シナガワ国へ共同開発してる国境のトンネル工事について話し合いに行った時に裏で言ってる兄の言葉を聞いたのよ。
『生意気にも国を作った愚かな弟が、こちらの利益に集ってくるためのトンネルなんぞ、途中で事故に見せかけて潰してしまえ』
その頃の儂の国は、まだまだ若くて集ると言われても反論できんかった。
だから、トンネル工事はこちらの人手不足を理由に最近まで中止しておたんじゃ。
それからはがむしゃらに国内の生産性を上げ、ドロワスも生まれ国としては山間の多い地で、産業と言えば開拓する時に発見された鉱山の宝石類しか目ぼしい物が無く、加工や細工が目まぐるしく発展した、それだけだった。
国民のお陰で職人国家としてやっと地に着いた頃、お前の母がファムとして生まれた。
このシナガワの王族で初めてのファム、奇跡としか言いようがなかった。
そこからこの国は職人の技量が素晴らしい事もあって、鉱山から採れる鉱石を加工する技術も発展した。
それでもな、あの時の言葉は忘れられん。
表面上は仲の良い兄弟国でも、儂は許したくないんだ。
あれほど慕っていた兄を、これほど憎く思う日が来るとは思っていなかった。
婿の元へ行くと言ったシヘイルを止める事は出来なかった。
それがあれの幸せだと分かっていたからな。
だから、憎しみも飲み込んだ。
しかし、キアラが生まれファムだと分かり、更にあの天才と言われたお前の父、ベルヒュートが子供のお前の発案を商品化させてシナガワゲートウェイ国に特許権を置いてくれたおかげでキアラがシナガワ国で狙われんだ。
だから今度こそ、儂は兄王が嫌いだとハッキリ言える」
そうだったんですね。
もし僕ならその時我慢できたでしょうか?
大好きな人から蔑まされても、笑って対応できたでしょうか?
「おじいちゃん、僕も笑って来ようと思います
あんな国、どうにでもなるんですよ?
まるで大国面してますけど、経済的にはそろそろ影響が出る頃ですし、この国は軍事産業も結構進んでますし人の育成も整ってますからね。
僕の未来の子はあの国の人じゃない事だけは確かですから」
ジェラルドが同行して下さるのも、シナガワ国への牽制には良い事だと思います。
シナガワが欲しがる交通網を抑えてる国です。
交易をするにはタバタ国を通らないと他の国へ行けないのが現状です。
ドロワス叔父さんは、かなり要の国の要人と交流を持っていたようです。
人柄とか、縁を大事にする王太子の豪快で情が深いところを気に入って下さってるのが一番の強みなんでしょう。
いよいよ、シナガワ国へ乗り込ませて頂きます。
慰謝料を払う、という誓約証書を受け取りに行った従者が、公爵家で門前払いされたと言う報告を受けて、憤慨しております。
一応隣国なので、簡単には行けないわけです。
本来なら、向こうから届けて来るべき所を、こちらから伺ったのに従者を罵り、僕の事を極悪非道だと言っていたそうです。
はて? いつから彼らが被害者になったのでしょう?
「お帰りなさい。
嫌な思いをさせて、すみませんでした」
戻って来た従者に僕は頭を下げました。
「キアラ様、頭なんか下げないで下さい!
私は心底、腹が立ってます!
早く縁を切って、自由になりましょう!」
「ありがとうございます」
僕に、ガッツです! と力強く言いながら去っていきました。
励まされてしまいました。
「聞きましたよ、制約証書に署名しないらしいですね?」
ビックリっ! 今この付近に誰もいませんでしたよ!?
「は、ハーミット様、驚きました」
「えー、それ驚いてる顔じゃないよね?
通常運転でしょ!」
揶揄う様に僕の周りをクルクルと回り、ハーミットは武装国家らしく、仕掛けるか? と言われました。
「明日、シナガワ国へ出向いて、僕自身が彼らに署名して頂く様に言いますから、大丈夫ですよ?」
「え、待って、待って! ここは先に仕掛けて黙らせてマウントでしょ!」
はて? ハーミットは話し合いで解決と言う手段を知らないのでしょうか?
「別に相手がごめんなさいするのが目的なので、僕が仕掛けるとかそういうつもりは無いですよ?」
僕は謝る事も何も無いですしね。
ああ、レオナルドをちょっとだけどうでも良いって思って、放牧させてしまったのは多少責任があるかもしれませんね。
放牧した先が、クリッシュのお宅じゃなかったんですが、他の人のものだと分かってて勝手に餌をやって懐かせたんですから
ハーミットには明日の支度があるので、とだけ言ってその場を離れました。
こう言う好戦的なのは、疲れてしまうので僕には無理ですね。
翌日はシナガワを通って、自国へ帰られると言うジェラルド・マイヤー、タバタ国の公爵で王位継承権第三位の方が是非にと同行してくださる事になりました。
ジェラルドはタバタ国の国王の息子つまり王太子の息子二人の下の子と言う事でした。
僕より五歳ほど年上で、既に公爵を継いでいられました。
やはり、貴族としてちゃんとされてる方は尊敬できます。
「キアラ、何も態々お前が出向かなくても」
「おじいちゃん、僕が始めた事だから、そこはちゃんとしないといけないと思うんです。
それにおじいちゃんだって、嫌いなら嫌いってシナガワ国王に言わないと伝わりませんよ?」
「キアラ、それはな、人付き合いもだが嫌いな物や人を簡単に嫌いなどと言ってはいかんのだよ。
だからこそ、儂はあの兄上に嫌いだとは言っておらん。
それを言ってしまっては、もしかしたら国同士の争いになり、国民がそれに振り回されてしまってもキアラは構わないと思うかい?」
「いいえ、それは本意ではありません」
おじいちゃんは、僕に何で嫌いだって教えたんでしょうか?
「我慢の限界に来たからじゃよ」
凄くシンプルです。
「おじいちゃん、僕はまだ我慢が足りなかったのでしょうか?」
「そんな事はない。
事実、キアラの受けた傷は多分一生癒えることも、忘れ去る事も出来ないだろう。
それはどんなにこの先幸せだと思う未来があったとしてもだ。
人は記憶して忘れたフリは出来るが、きっかけがあればそれはいつかまた吹き出す。
辛い記憶であればある程、だ」
「シナガワ国の国王に何をされたんですか?」
おじいちゃんは溺愛してくれますし、優しい温厚な人なだけに嫌いと言うのは余程の事なんだと思いました。
「この国、シナガワゲートウェイ国を建国したのは、兄王であるアシナスをシナガワ国の王にするためだ。
兄王を愛していたからこそ、争うつもりは無いという意思表示の為に、だ。
愛してると言っても、兄としてだったがな。
しかしアシナスは兄と慕う儂が疎ましかったのだ。
それを知ったのは、この国を建国して三年ほどしてからだった。
ある日、シナガワ国へ共同開発してる国境のトンネル工事について話し合いに行った時に裏で言ってる兄の言葉を聞いたのよ。
『生意気にも国を作った愚かな弟が、こちらの利益に集ってくるためのトンネルなんぞ、途中で事故に見せかけて潰してしまえ』
その頃の儂の国は、まだまだ若くて集ると言われても反論できんかった。
だから、トンネル工事はこちらの人手不足を理由に最近まで中止しておたんじゃ。
それからはがむしゃらに国内の生産性を上げ、ドロワスも生まれ国としては山間の多い地で、産業と言えば開拓する時に発見された鉱山の宝石類しか目ぼしい物が無く、加工や細工が目まぐるしく発展した、それだけだった。
国民のお陰で職人国家としてやっと地に着いた頃、お前の母がファムとして生まれた。
このシナガワの王族で初めてのファム、奇跡としか言いようがなかった。
そこからこの国は職人の技量が素晴らしい事もあって、鉱山から採れる鉱石を加工する技術も発展した。
それでもな、あの時の言葉は忘れられん。
表面上は仲の良い兄弟国でも、儂は許したくないんだ。
あれほど慕っていた兄を、これほど憎く思う日が来るとは思っていなかった。
婿の元へ行くと言ったシヘイルを止める事は出来なかった。
それがあれの幸せだと分かっていたからな。
だから、憎しみも飲み込んだ。
しかし、キアラが生まれファムだと分かり、更にあの天才と言われたお前の父、ベルヒュートが子供のお前の発案を商品化させてシナガワゲートウェイ国に特許権を置いてくれたおかげでキアラがシナガワ国で狙われんだ。
だから今度こそ、儂は兄王が嫌いだとハッキリ言える」
そうだったんですね。
もし僕ならその時我慢できたでしょうか?
大好きな人から蔑まされても、笑って対応できたでしょうか?
「おじいちゃん、僕も笑って来ようと思います
あんな国、どうにでもなるんですよ?
まるで大国面してますけど、経済的にはそろそろ影響が出る頃ですし、この国は軍事産業も結構進んでますし人の育成も整ってますからね。
僕の未来の子はあの国の人じゃない事だけは確かですから」
ジェラルドが同行して下さるのも、シナガワ国への牽制には良い事だと思います。
シナガワが欲しがる交通網を抑えてる国です。
交易をするにはタバタ国を通らないと他の国へ行けないのが現状です。
ドロワス叔父さんは、かなり要の国の要人と交流を持っていたようです。
人柄とか、縁を大事にする王太子の豪快で情が深いところを気に入って下さってるのが一番の強みなんでしょう。
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