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別室でのオネェの話が気になったけど、侑士に任せたんだしって言い聞かせて、フロアのお客のテーブルを巡った。
アフィニティさんのテーブルに行くと、なんだか申し訳なさそうな顔をしていた。

「どうなさいました?」

「いや、申し訳なかった。
 カイ君が、あの2人に溺愛されてるのは分かってたのに。
 意地悪を言った。
 辞めるとか、居なくならないでくれ」

「このタトゥーの下の傷が2人を苦しめてるのかなって
 でも、そんなこと二の次で目一杯、愛してくれてるのに
 グダグダしてたら失礼だなって。
 だから、愛されておきます」

「そう、か。
 よかった。 
 良かったよ」

そんなに、気に病ませてしまったかな?

んー?


「気にかけてくださって、ありがとうございます」

なんとなく、気になるけど何かがあったわけじゃない。



客足が途絶える事がなかったため、なんとなく忙しさに流されてしまっていた。

悪評が立つのも困るけど、ショーのようになってる過保護をどうにかしないと、嬉しいけど恥ずかしい。
それを見て気分を悪くされるお客もいるだろうし。

俺が強くならないとダメだって思ってはいるんだけど、難しい。
だからこそ、あのオネェが言ってることが刺さってしまったのも事実なんだ。
俺って結局そこから離れられないんだな。

誰かに評価されて、誰かに必要とされる自分。

バロメーターになるものが増えただけで、結局同じか。

いつになったら、かっこよく俺は俺!って言えるんだろ。
比較して評価して、また、自己評価だけを高くしてた。

かっこ悪いな。




閉店時間になり、最後のお客が清算をして帰られた。
いつも通りお見送りをするのに、扉の外まで出て、後ろ姿を見送った。
店内に戻ると、一志さんが仕舞い作業をしていた。

「奥の奴ら呼んで、こっちで話そう」

「うん、気になってたし。
 ずいぶん長いよね」


奥へ行くと、侑士が苦い顔をしていた。

「こっちで話しましょう、ね?」

オネェ達3人は、うなだれていた。
確かに、業務妨害としてうちが警察へ連絡すれば彼女?達も大変なことになるだろう。
昼間会社勤めをしてる人もいるかもしれない。
実際スーツで初っ端来てる人いたしな。

海江田さんと須藤さん、それにセキュリティ担当の坂本さんも移動した。



「で、海江田、侑士、どんな話が聞けたんだ?」

扉近くのテーブル席に、俺とオネェ、侑士、海江田さんが座り、その周りに須藤さん、坂本さん
離れたカウンター席に一志さんがいた。

「かいつまんで言うと、例の関係とは別件だ。
 まぁ、お前んところの家の筋から頼まれたってよ。
 しかも、自称、お前の婚約者だってよ
 お前、いつ宗旨がえしたんだよ」

ニヤニヤ笑ってわざと軽く言う。

「俺は生まれてこの方、男以外触ろうとも思わないが。
 今は、さとる以外に見られるのも嫌だね」

「はっはっはっは!
 だとよ、その婚約者ってどんな女だよ?
 お前らの嫌いな女じゃねーの?
 良く協力する気になったな?」

「・・・・」

「その方に従わなければならない、何かがあるんですか?」

俺が聞いても話すとは思えないけど。

「ごめんなさい!
 カイ君にそんなことがあったなんて知らなくて
 ただ可愛い顔と体で誑し込んでって聞いたの。
 実際見たら、本当に可愛くて嫉妬しちゃったのよ。
 手練手管の小悪魔なんだって思いこんだの」

雇えだの辞めろだの言ってたオネェが、真摯に謝ってきた。

「小悪魔!!
 この子、普段ただの子猫だぞ!
 長毛種の白猫だぞ!
 手練手管なんか考えてすらないし、そんな経験もないのにできるわけねーだろ」

ゲラゲラ警護の人たちが笑って、軽くディスられてる気がする。

「そうだなぁ、無理だろ?
 この前まで処女だったからな~
 むしろ小悪魔やってほしいよな!
 あ、童貞が魔法使いって意味なら、魔法使いになれるな!」

それいいねって侑士~!!!!

てか、こんなとこでバラす必要ある?

できませんから!

「え?!」

何でオネェ全員見てくんの!

「マジで?
 カイ君、マジで処女で童貞だったの?」

「~~~~~~!!!はぃ」

もーやだぁ、なんで、こんな事暴露しなきゃいけないの?
ねぇ、何の罰ゲーム?

「しかもファーストキスも俺だしな」

「ぐっ!そ・れ・なー!!!
 俺、聞いてなかったよ!!」

侑士のこと、その時嫌いだったもん。

「だって、侑士、酷いことばっかり言って
 俺、ずっとブスだブスだって言われて、
 一志さんだって、他の誰かに貫通させようとしたじゃない
 だから、俺はずっと逃げて、逃げて、逃げたら、車に轢かれちゃっただけだもん
 その後だって、初めてのキスの時、していいって言ってないよ」

それこそ、お返しだい!

「酷い!何それ!
 アンタたち、どんな鬼畜よ!
 じゃぁなに?
 さっきのも大体、カイ君が犠牲にならざる負えない状況だったってこと?
 なんで、この子ばっかりひどい目に!」

オネェ達、なんかすごく人情味があるけど、どうしたんだ、これ?

方向がどんどんずれて行ってない?

「おい、お前、本当にケダモノになってたんだな。
 こんな子に、最低なことしたって意味、よく分かったよ。
 酷すぎるな。
 東京でお前の元カレから襲われたのは、ニュースにもなってたし
 記憶喪失にもなったんだろ?
 目の神経もヤバかったって報告受けてるぞ。」

海江田さんが止めを刺したきがする。


「アンタ、チンコもげろ!!!
 カイ君、ごめん、本当にごめんね。
 あたしたちでできることなら、何でも協力するわ!
 嘘の婚約者なんかに負けちゃだめよ!」


あぁ、海江田さんの目的はこれだったのか。
一志さんは多分わかってて話したんじゃない、言いたいだけだ、あの人。

侑士は、分かってたな、絶対。

須藤さんと坂本さんは、本当に笑ってたんだ。
あれ絶対、昼間の事思い出して笑われてたんだ。
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