上 下
15 / 105

13

しおりを挟む


ダイヤのハート




抗えない。

こんな気持ちが湧くなんて思ってもいなかった。

絡めた指が熱くて、恥ずかしくて、嬉しくて。

27歳になって初めての恋なのかも。


「返事は? 
 さとる?」

後ろから、こめかみとか項にちゅってされる。

「ん、なんの?」

「そこから?」

だって、ぼーっとするし、にやにやしちゃうのは、もう好きだから。

「うそ、好き」

下向いちゃう、
顔見れないし!
後ろにいるから見れないけどさ。

「なんてね」

ごまかした。
だって、どっきりとかだったらやだし。

「はぁ~、もうね。
 諦めて。
 さとるは俺のものだから」

「かもね、大事にとってあったファーストキスもマスターに奪われちゃったし」

「え?あれ、ほんとだったのか?」
「うん」

何もカモが初めってって、めんどくさいって言われるし、ちょっと怖い。

最初で、最後の男っていいな、なんて呟きが聞こえる。



部屋の解約も、移動もマスターが全部するからって、マスターのマンションに行くことになった。
えっと、マンション、高層だよ?
こんなとこ住んでるって聞いてないよ?

超後出し、やめてー!!!

マスターの本名と年齢、初めて知った。
本田 一志かずし
39歳

俺より一回り違ったよ。




「えっと、マスター、俺なんかに好きとかいうのおかしくない?」

「おかしくないし。
 事故の時、付き添いできなかったのが、地味に来てるんだよ
 目の前で轢かれて、このまま目を開けなかったらって。
 俺は、もう、絶対にお前から離れないって決めたんだよ」

「え?事故の時誰もいなかったって言われたよ?」

「身内じゃないってことで、通行人扱いだよ。
 ただの目撃者で警察に話すくらいしか、立場的にできなかったの。
 好きな奴が目の前で、しかも、あんなことあって、泣かせて、死んだかと思ったよ。
 もうね、絶対に後悔したくないの。
 囲って、俺の見える範囲で甘やかして、一生、一緒にいたいんだよ」


これって、漫画で言うスパダリ案件?



悪ノリさんから、しつこく着信が入ってるんだけど、
マスターは出なくていいって、ちょっと不機嫌だし。

「マスターが、出て。
 そしたら、いいでしょ?」

「どう話しても、あいつ納得しないだろうし、
 いいから、ほっとけ」

マスターの部屋は単身者用の区画なのに、広い!
玄関も、俺のアパートのキッチン分くらいあって、凄いおしゃれ。

なに、この格差。
これで、同棲の痕跡とか残ってたら、立ち直れないくらいには、心が入り込んじゃってる。
だから、しばらく一緒にいるだけって予防線を張っておこう。

リビングと寝室と、サニタリー関係の部屋と、もう一部屋あった。
ベッドも。

なんか、ちょっと心が痛んだ。

そりゃ、そうだよ。
いなかったわけないし、本名だって歳だって、今知ったくらいの付き合いしかしてこなかったんだし。
大丈夫、手続き済んだら、俺には帰るところがちゃんとある。

とりあえず、必要以上にこの部屋を知る様な事はしないって決めた。

「マスター、今日お店は?
 今頃って寝てる時間じゃないの?」

「ん、まぁ、大丈夫だ。
 仮眠はどっかで取る。
 お前とやっといられるのに、寝たくない」

俺のスーツケースが2個とスーツが3着、主寝室のクローゼットに入れてあるから、着替えを出すって。

「スーツケース、マスターが持っていてくれたんだ。
 あ、でもあの時ぐちゃぐちゃに、とにかく突っ込んだから
 着れるのあんま無いかも」

中身を見たら、案の定・・・しかも、投げたりしてるから、ケースにも傷が凄い。
なんか、俺みたい。

中身ぐちゃぐちゃで、外は傷だらけで。

ちょっと泣けてきた。
こんなに涙腺弱くなかったんだけどな。

肩がこんなだから、前開きのシャツで着れそうなのを探してると、マスターが自分のシャツを出してきた。

身体も二回りはサイズが違うから、でかい。

腕通したりするの大変だから、助かるけど。
一度吊ってる腕を抜いて袖に入れる。

これ、肩回すからスゲー痛い。

下にだらんと下げて着れればマシなんだけどな~。

なんとなく、洗剤の匂いに交じってマスターがいつも使ってるコロンの匂いがする。
考えたら、コレ!
彼シャツじゃん!!

ぶかぶかで、萌袖状態って
ブスがやっても似合わないってww
袖まくり上げたら、関係ないしね。

着る物ないし、開き直るよ。

「マスター、あんがと。
 大きいから助かる」

27歳が若者の萌なんかやってもね。
そこはさらっと流す方向で。

「おぉ、いいな。
 好きな子が、俺の服着てるって視覚的にヤバいわ」

イケメンの笑顔ってイイネ!

「体が辛かったら良いんだけど、
 今日、一緒に店に行ってくれないかな?」

テレテレしながら、マスターが言う。

「痛み止め飲んでるから、お酒は飲めないけど、
 ちゃんと挨拶はしないとね。
 視覚的に、自分らのやった事反省してもらおうかw」

俺はちょっと自分の包帯だらけの体を、武器にすることにした。










しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

処理中です...