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綿のハート




母さんは先に田舎へ帰って、俺が帰ってくる準備してくれるって。

2週間ぶりのアパートは、母さんが色々片付けてくれてた。
スーツケース、やっぱりなくて、さすがに仕方ないから、マスターにまず連絡した。

ほとんど呼び出し音鳴らんかった。
「カイ!
 今どこだ?
 病院行ったらいないって!」

最近は守秘義務厳しいからね。
面会も記帳して、その上、患者名書けないと入れないとこもあるしね。

「退院しました。
 スーツケースやら、処分してしまいましたか?
 それなら、それで良いんで、今までありがとうございました。
 田舎に帰る事になったから、安心してください。」

「今、アパートか?
 すぐ、行く!」

「ははは、分かりました。
 どうせ、この体じゃどうにもできませんから。」


母さん、病院に来てくれてる間、このなんもない部屋で、寝起きしてたんだな。
ごめんね、もう、良い年なのに、親不孝してさ。
生んだ息子がゲイなんてさ。
受け入れてくれて。
涙が出て、辛かった。
自分のことより辛くて、悔しかった。

あ、悪ノリさんにも電話しとこ。
留守電だった。
「もしもし、カイです。
 スーツケースやら処分してくださったなら、ありがとうございました。」 

それだけで、電話を切った。
話すことないしな。

座ると、これ立てなくないか?
椅子とか、ベッド無いし。
母さんの布団が隅に畳まれてた。
ギプスで固められた脚を投げ出して、畳まれてた布団に背中を当てて座った。
大した広さも無い場所でも、かなり大変だわ、これ。


玄関のチャイムが鳴った。 

「はーい、どなたですか?」

動けないし、大きな声で、対応してみる。
まあ、マスターあたりかな。

「カイ、俺だ。」

俺って誰だよwって言いたかったけど、マスターの声だし、どーぞー、って返事したら入ってきた。

「あがっていいか?」

「動けないし、どうぞw」

最初は対面に座って、謝ってきた。
「カイ、いや、さとる、本当にすまなかった。
 お前が好きだ。」

「もう、いいですよw
 母さんの怒りに触れてんのにw」

なんだか、おかしかった。
こんな長身イケメンマッチョをうちの母さん、マジで怒り飛ばしたんだぜ。

「田舎に帰るのは決定事項なのか?」

「はい、母さんに心配かけられません。
 たまたま、出て行くのに、部屋もこの通り片付けてたし。」

「いつ、だ?」

「なるべく早く。」

だから、もう、安心してね。

「ウチに来ないか?
 せめて、どちらかのギプスが取れるまで。」

「罪悪感はもう良いです。
 何もなかったし、謝らないでください。」

「何もなく無い!
 こんな事故で、怪我までさせた。」

罪悪感なのか、な?

「マスター、俺、騙されたってのが一番嫌だったんだと思います。
 だって、マスターに頼り切ってたとこあるし。
 じゃなきゃ、あの日、マスターに助けを求めませんよ。」

なんか、口に出したら、ストンと落ちた気がした。

「悪ノリさんは、いつも嫌な事ばっか言ってさ、辛い時もあってさ。」

そう言ったら涙がなんかポロって落ちた。
結構、傷ついてたんだよな。

初めて自覚した。

あー、どこまでも落ちそう。

マスターが近づいてくるのが分かった。
あ、これって

「さとるが、好きだ」

初めてのキス。

触れるだけから、ちょっとずつ口の中に、マスターの舌が侵入してきた。
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