23 / 29
俺じゃなかった。
しおりを挟む「魂が綺麗なのって、これだったんだろうか?
いや、性的な部分と魂の清廉さは関係ないはずだが、これは…」
「それにしても有り得ない、どうしてこんな間違った知識を持ってるんだ?
ライカの世界はそう言う世界なのか?」
トライガとターセルが二人でブツブツと話し合っていた。
「ライカ、娶られるの意味分かってる?」
タラントが真面目な顔をして俺に聞いてくるから、ちゃんと分かってると答えた。
「その、お嫁さん、になるって事ででしょ?
そ、そんで、エッチな事もするって、ちゃんと理解してるよ。
この世界は男同士で、その、するから、どうなるのか分からないけど、ちゃんと、皆の事が好きだと思うし大事で家族になりたいって思ったから、娶られるって、嬉しいって思えたんだけど…
皆は違った?
何かの儀式的な必要性で、俺を選ぶしかなかったのかな?
それでも、俺は嬉しかったんだ。
今まで一人で、手探りで生きて歯を食いしばって悔しい事も辛い事も、全部飲み込んでただ穏やかにいつか笑って死ねたら良いってずっと思ってた。
仕事行って、食って寝て、また仕事行って、休みの日は家の事をしたら、ずっと寝てた。
この世界でも必要とされてない自分なんか、生きててもあんまり意味が無いなって。
でもさ、いざ死ぬかもしれないって思ったら、殺さないでって言葉が口から出てた。
俺の魂が綺麗とか、そんな訳無いんだよ。
ユアが俺の養子先を横取りした時だって、心の中では恨み言や罵詈雑言並べ立てたさ。
俺の人生を台無しにされたって。
でもさ、タラレバな話も想像も意味が無いんだよ。
生きるために選択して毎日、今も、選択の繰り返しをして生きてるんだ。
だから、アンタたちが思ってるほどじゃなくて、俺を娶っるって話が勘違いだったって思ったなら、それも正解なんだ。
そう言う選択が繰り返されて今の俺があるんだから。
だから、大丈夫、ね?」
さっきの気持ちよかった事が嘘みたいに体の中が冷えて強張っていた。
シイラが言った言葉は、本音だったんだろうなって勝手に想像してた。
ターセル達も無言で何も言わないし、俺は気まずくなってこれ以上ここに居たら、彼らの親切心に甘えて重い奴になってしまう。
そうなる前に、一人でもう生きられるんだから
「ライカは何も知らない身体と知識で、私たちの家族になろうとしたんだな?」
ターセルが皆を代表して聞いた。
「知らなくはないよ、そりゃちょっと疎いかもしれないけど。
だから、ちゃんと合意の上で良かったんだけど。」
「ライカ、すまない」
「何で、謝るの?
俺じゃなかったのかな?あは、は、は。
俺、先にどこかの国へ行ってちゃんと生きて行くし、トライガの車椅子は記念に上げるから、それで移動したらきっと良い人探せるよ!
じゃあね。
どうするか決まったら、教えて。
ちゃんとそれを受け入れるから」
笑って言えた。
そうだ、いつか王子様がって思うのは自由だもんな。
インベントリで収納して支度を急ぐと、車で走り出した。
その間、誰一人俺に声をかける者はいなかったって事実が俺の心を切り裂いたけど、面倒くさいと思われたかもしれない。
どっかの国の検問所で商業ギルドの登録証と、冒険者登録証を出して、入国許可を待つことにした。
「ライカ・サノヤマ殿、カシュクールから伝言が届いております。」
「え?」
検問所の役人が出してきた紙には、王太子殿下からのプロポーズがまだ有効であることと、シイラが事態収拾を付けるには精霊が言う事を聞かないと書いてあった。
「だからって、どうしろって言うんだ」
小さな声で悪態を呟けば、役人が困った顔をして返事を待っていた。
「分かりました。
俺はこの国で商売を始めますから、こちらへ来られるなら話を聞きます、とお返事しておいてください。」
「分かりました。こちらから、そのように返事を出しておきます。」
やっと入国出来て、城下を歩いていると活気のある通りから、裏路地のスラムの様なところまで様々な顔を持つ国だと言う事がすぐに分かった。
治世されていないわけでも無いが、多国籍というか人種が沢山いて移民が多いせいで、治安の悪い所もあるんだろけど、人間味があって俺には懐かしくなるような国だった。
この国に来て、一ヶ月が経った。
移民が多いと、俺みたいな奴もすんなり受け入れてくれて、空いてる場所に勝手にカフェをオープンさせても、カシュクールみたいな手続きは必要なかった。
国によって色々違うんだと改めて思った。
「ライカぁ~、今日のご飯ってなに?」
「まだ朝なんだけど、モーニングセット?」
「ライカのご飯ってさ超美味しいから、仕方ないじゃん!
夜なんて、お酒と合うもので、あの、チンミって言うのとかさ!!
もう、一週間分のメニュー貼りだしておいてよ~
それに合わせて、ダンジョンに行ってくるから~」
ダンジョンと森が近くにある場所でカフェを開いたんだけど、ダンジョン前と言う事もあって、大抵の冒険者がここでご飯を食べてから行くとか、食べて帰って行くようになっていた。
「なぁ、ライカって誰かから追われてたりする?」
「へ?何故ですか?」
「ここって、ダンジョンの近くで決して安全な場所じゃないのに、こんなところでお店開く奴って普通じゃないからさ。」
「ふふ、そんな事ないですよ。
ここだと、何を作っても美味しいって言ってくれるから、お店をオープンしたんです。」
にっこりと営業スマイルをして、常連の冒険者の会話を打ち切ろうとした。
「じゃぁ、アレは普通にライカを探してるってことなのか?」
え?誰かが探してるの?
シイラとか?
俺は、指先が震えるのが分かった。
何を焦る必要があるんだ。
もし、来てくれたなら、どんな答えだろうと受け入れるって決めたのに。
違う誰かを連れて来て、また、あのセリフを聞くかもと思うと怖かった。
‶お前なんか求めてない"って言葉を。
「天涯孤独ですから、多分人違いですよ。」
「そうか、分かった。
こっちへ来ない様に俺が守ってやる」
このひと月、殆ど毎日来るこの冒険者サリオスが、すっと目を細めた。
「大袈裟です。
明日から、食材の調達で店を閉めますから、今日はこれで店終いをしますよ」
ほら帰ってと言ってサリオスを追い出した。
サリオスは冒険者の割りに小綺麗で食べ方も綺麗だから、どこかの貴族の末子とかなのかもしれないけど、俺を探してる誰かの存在を教えてくれたのは態とだったんじゃないかって思ってる。
「明日からしばらく閉店だからね~」
最後の客を帰して、急いでカフェをバッグに仕舞った。
追手では無いけど、面倒くさい人なのは確かだと思った。
もし、ターセル達なら、探したりしない。
来ればいいだけだから。
でも探してると言う事は、彼らでは無いと言う事だった。
逃げる事が一番だって分かる選択をして、その場を立ち去ろうとした時後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、守るって言ったのに、出て行くの?」
心臓が止まりそうになった。
恐る恐る振り返ると、サリオスが立っていた。
13
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【短編】売られていくウサギさんを横取りしたのは誰ですか?<オメガバース>
cyan
BL
ウサギの獣人でΩであることから閉じ込められて育ったラフィー。
隣国の豚殿下と呼ばれる男に売られることが決まったが、その移送中にヒートを起こしてしまう。
単騎で駆けてきた正体不明のαにすれ違い様に攫われ、訳が分からないまま首筋を噛まれ番になってしまった。
口数は少ないけど優しいαに過保護に愛でられるお話。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる