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ユアと俺
しおりを挟む良く思い出せないから、ユアと重なるのか、もしかして本当にあの子はユアだったのか。
「とにかく、俺は違う国でまたカフェを始めますから、良かったら来てくださいね」
他国では難しいかな、と今更気付いたけど、社交辞令って事で。
「あの、クラン隊長!
私たち、ここで辞職させて頂きたいのですが!」
「そうです!ライカに着いて他国へ移住いたしたく!」
二人して何言い出してんの!
無いから、それ、無理だから!
「着いて来たらダメですよ!
耳を折ってそんな目で見てもダメですよ!」
ケモ耳ってズルいよな。
「ダメ?」
「ダメ。
それに、他の精霊王達が来ますし」
「え?どう言う事!?」
「それは、どう言う事か私も知りたいですな、ライカ殿?」
しまった!
「えっと、その、精霊王達に娶られる事が決まりました。」
諦めて正直に言うしか無かった。
「嘘!
うそでしょ?!
私達が先に見つけたのに!」
「ライカ殿、精霊王たち?
とは?」
「まだ、全員に会えた訳では無いので、どのくらいいるか分かりませんが。」
「そう言う話じゃなくて!
ライカは精霊王といつ知り合ったの?
追い出された日も、逆鱗の精霊王と行動を共にしてたんだよね?」
「これ以上はまだ、言えませんから!」
約束はしたけど、何か決め事があった訳じゃないし、また、話しが変わってしまうかもしれないから。
ここは黙秘しよう。
「なら、カシュクールへ連行するしかありませんな。」
騎士隊長クランが怖い顔で、俺を捕まえようとした。
「どうして?!」
「カシュクールは精霊王を必要としているのです!
ライカ殿がいれば、精霊王も着いてくるならカシュクールへ連れ戻すと言う事しかないじゃないですか!」
何、そのオマケみたいな言い方!!
「救世主にお願いすればいいでしょ!!
俺は所詮、魔力も何にもない、ただの巻き込まれて来た一般人ですから!」
漸く分かった。
俺はこういう所が嫌で、このカシュクールの人を心から受け入れなかったんだ。
いや、人と言うそのものが嫌だったんだ。
簡単に人の人生を変える。
簡単に、人ですら取り替える、そう言う事に嫌気がさしていたんだ。
「抗えば傷を作ることになる!
おとなしくしろ!!」
騎士なんかに勝てる訳もなく、あっという間に拘束されて、樽のように抱えられてドラゴンの足に括りつけられた。
快適なんて程遠い扱いで、乗ってみたかったドラゴンに乗るのではなく運ばれた。
ドサッ!!!
「っつ!」
王宮の広場に無造作に転がされて、手足を拘束されたまま王侯貴族の前に晒された。
「サノヤマ・ライカ、救世主の邪魔をし、精霊王を利用して富を得た罪はその命で償っても償いきれない。
すでに明白である!!」
誰だろう、この人?宰相?王太子?皆、目の下に隈を作り青白い顔色で、言ってる内容もおかしい。
「ここにいらっしゃる、水の精霊王の証言もある」
「え!!?
シイラが?」
良く目を凝らすと、シイラが救世主ユアの傍らに立って、護るように腰を抱いていた。
「う、そ、だぁ
しいら、嘘だよね?」
「馴れ馴れしいよね。
僕の大事な人の名前を軽々しく呼ばないでよ。
大体、シイラなんて名前じゃないんですよ。
この方は、シエラザード様ですから。」
誰?それが本当の名前?俺には教えられないって言ってた名前?
「そうなんだ、じゃぁ、俺がどうのって事ないじゃん。
ユアは欲しい者を手に入れられたんだから」
「そうですよ。
手遅れになる前で良かった。
ね、シエラザード様。
僕を愛してますよね?」
「あぁ、アイシテイル」
やっぱり、こうなったのか。
運はいつもそっぽを向いているんだ。
「もう、分かったから。
ユアはいつも俺が欲しくてたまらない物を取り上げて行くんだな」
「何を言ってるんです?
最初から、貴方の物なんかないじゃないですか。
全部、私の物を取り返してるだけです!」
「そうか、お前の養子先は元々、俺が行くはずだったんだけどな」
「え?」
「俺もちょっと前に思い出したんだけどね。
俺の顔も性格も全部気に入ってくれた篠原の家は、何度も泊まりに行ったりして後は養子縁組を正式にするところだったんだ。
そこへ突然、お前が俺に殴られたと言って飛び込んで来て、養子の話が流れた。
お前が殴られたのは、自分で作った傷だったって見ていた奴が、あとから園長に言ったけどそれこそ後の祭りでな。
篠原は二人も子供を迎える事は出来ないから、園への寄付金って形で終わったんだよ。
まぁ、お前のその感じじゃまた何かやらかして、家に居づらくなってたってところに、この救世主召喚って感じか?
腐った性根は変わることが無かったんだな」
「違う!違う!!
アレは、本当に殴られて!!
なんで、お前が!!
お前があの時の奴なのか?」
図星だったか。
「人の心を魔力で操っても空しくないか?
誰も、お前を好きじゃないのに、そう言う風に演技されてるって分かると、悲しくないか?」
「そうだよ、篠原の親は、事あるごとにお前と僕を比べて、居場所が無かったよ」
「それ、自業自得だよ
あの家は介護センターとかそっちに力を入れてる財団法人だったから、じいちゃんばぁちゃんの話し相手とか、それこそペットを飼うみたいな感覚で養子を取ろうとしていたんだしね。」
正直、それもどうかと思うけど。
まぁ、だからこそ、俺はあそこで今の仕事につながるスキルを得たんだし、今までは運が無かったって諦めていたが、シイラたちの事は諦めるには辛すぎた。
「ふふん、あの時のがお前だったのは好都合だ。
僕は、欲しい者を、居場所を手に入れたんだ。」
「それ、自慢したいの?
そのためにシイラが欲しかったの?」
腰を抱いてるシイラを見るのは辛くて、国外へ行くからもう放っておいてくれないかなぁ。
「さぁ、シエラザード様、アイツに本心を言ってやって下さい。」
「私は、君なんか求めてない。」
あーあ、言っちゃったか。
そんな言葉が無ければ、外国でいつか王子様がって夢を見ていられたのに。
「うん、受け入れたよ。
お幸せにね」
-ライカ泣かないで。
泣かないで、世界に渦が出来ちゃう-
小さな精霊の声が俺の頬に涙が流れていることを告げた。
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