13 / 29
野営
しおりを挟む「シイラ、カシュクールが動いたぞ。」
「へぇ、サリュー、どんな感じ?」
サリューは、樹木の精霊王だけあって、繋がる情報が早かった。
「この私の夜を動けるのはドラゴンしかいない。
ドラゴンで追って来てるよ」
ふわりと、降り立った白い鳥は闇の精霊王タラントだった。
「さて、どうするかの?
ドラゴンを撃ち落とすか?」
精霊王が三人もここにいるなんて、信じがたかった。
この世界に来て、精霊がどれ程貴重で人との関りを持ってくれる精霊が少ないかを理解していた。
「シイラが門番に渡したのって、何か重要な物だったんだよね?
それをあのユアが渡さなかったって事?」
「そうだ、ライカ。
私たちは、ライカに暴言を吐くような輩に力を貸したくは無い。
だから、逆鱗を渡したのだ。
その意味をちゃんと理解できていれば、何が逆鱗に触れたのかすぐ分かるようにしておいたが、今頃渡ったと言う事は王宮全体が救世主の魅了魔法で支配を受けているのだろう。
それにな、救世主などと言う者を認めてはおらん。
魔力量だけで精霊が力を貸しているわけではないからな。
それを勘違いしおって、さすがにあの救世主はどうにもならんクズだぞ。」
「う~ん、俺は誰か一人でも分かってくれれば良いって思うタイプなんだよな。
代わりに怒ってくれて嬉しいけど、あんまり無茶すんな。」
「な、ライカ出来た嫁だ。
私たちが娶るに相応しいと思わないか?」
異種族間でもそんな話が出るんだって、俺はかなりぼんやり思ってたんだ。
だって、あのジョージとクインが毎回、娶るって言うからその言葉の意味自体にも、慣れちゃってたんだよね。
「タラント、ドラゴンは任せた。
サリューは先に他の奴らに報告しといて。」
シイラが他の二人の精霊王に色々指示を出していた。
もしかして、シイラって精霊王の中でも偉いのかな?って首を傾げてしまった。
「さぁ、ライカ休もう。
ドラゴンが夜目が利くとは言っても、タラントが闇を濃くすれば見ることは出来ないからね。
明日はやっと、枝道に行ける。
そうしたら、そう易々と追いつけないさ。」
シイラはそう言うと俺を小脇に抱えて、テントの中へと潜って行った。
テントは向こうの世界でも使ったことは無かったけど、限られた狭い空間って意外と落ち着くものだと知った。
体の大きいシイラが横になって、二人並んで寝てもそれほど気にならなかった。
それに、毛布や寝具はしっかり買って入れて来たから、テントの中は快適な状態だった。
これって、アレだ!グランピング!!
豪華ベッドとかでは無いけど、ふかふかな毛布を敷いてその上に厚手の綿布団でぬくぬくだった。
「ね、シイラ
俺、親がいないからこうやって、心配されたり大事にされるの、なんか照れ臭いけど凄く嬉しいんだ。
だから、一緒に来てくれてありがとうね。
利害の一致だったのかもしれないけど、俺は凄く感謝してるんだ。
最初にシイラが友達になってくれて、こうやってると嬉しくて楽しくて…
だから、困ったことがあったら俺に言って。
俺が出来る事なら、何でもしてあげるから」
シイラが布団の中から手を握って来た。
精霊だからなのかちょっと体温は低くて、それが少しだけ火照った体に気持ち良かった。
「ライカ、本気で考えてくれ。
私たちに娶られることを」
俺を本気で守ってくれようとしてるシイラ達に、絆されちゃってたんだ。
本当は最初から、シイラを嫌いじゃなかった。
風呂の中で、裸を見られて恥ずかしい気持ちとそれだけじゃない欲情を知った。
「うん、いいよ」
すんなり返事が出た。
「え?いいのか?」
「ふふ、何でよ、言ったの自分なのに」
「そうだが、精霊王たち全員に娶られるのだぞ?」
「全員って何十人もいるわけじゃないでしょ?
それにタラントやサリューの事、好きだし」
そう言うとちょっと不機嫌そうな顔をした。
「私には好きって言ってくれないのか?」
「シイラ、大好きだよ」
仮の約束だと言って、俺の唇に口づけをした。
「ライカがライカである以上、私は絶対に離れない」
「うん、俺も約束するよ」
そう決めたら、シイラとしっかり口づけをした。
俺はこんな事自体初めてで、何も分かっていなかった。
口の中に誰かの舌が入って来て、ぬめぬめとした感触の物が這いずり回り、俺の舌を絡めとって行くなんて初めての経験だった。
漫画の処女みたいに、どこで息継ぎすればいいか分からない、なんてぶりっ子な言葉が自分の中にあるとすら思わなかった。
正確には、鼻息が相手に掛かるのが恥ずかしくて、息を止めたって事だった。
「んー、んー!!!」
苦しくって苦しくって、シイラの背中をタップして合図をした。
「ライカ、どうした?」
「はぁ、はぁ、苦しくて」
息継ぎは少し唇をずらしてするんだよって言われても、根本的にその息がシイラに掛かるのが恥ずかしくて息を止めてたんだから、どうにもならなかった。
13
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説


お前だけが俺の運命の番
水無瀬雨音
BL
孤児の俺ヴェルトリーはオメガだが、ベータのふりをして、宿屋で働かせてもらっている。それなりに充実した毎日を過ごしていたとき、狼の獣人のアルファ、リュカが現れた。いきなりキスしてきたリュカは、俺に「お前は俺の運命の番だ」と言ってきた。
オメガの集められる施設に行くか、リュカの屋敷に行くかの選択を迫られ、抜け出せる可能性の高いリュカの屋敷に行くことにした俺。新しい暮らしになれ、意外と優しいリュカにだんだんと惹かれて行く。
それなのにリュカが一向に番にしてくれないことに不満を抱いていたとき、彼に婚約者がいることを知り……?
『ロマンチックな恋ならば』とリンクしていますが、読まなくても支障ありません。頭を空っぽにして読んでください。
ふじょっしーのコンテストに応募しています。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
うずみどり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる