君なんか求めてない。

ビーバー父さん

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山越え

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 最初は緩やかな坂道が、段々と険しい岩場を足掛かりに登る様になった。
 道とかそんなのは無いんだな。
 登山って言葉が正解な気がしたのは、俺が登山経験が無いからで、本当の登山家に言わせたら、ハイキングだよと言われたかもしれない。

「はあ、はあ、はあ、キツい」

「ライカは普段から歩かない生活みたいだな。」

 ふふっと笑いながらシイラに指摘された。

「だ、って、はあ、向こうは科学が発達していて、車という素晴らしい乗り物があるからね。
 仕方ないと、思って、
はあ、はあ、諦めてくれよ」

 盛大な開き直りに、シイラが声を上げて笑った。

「良い良い、ライカがそうやって自分の気持ちを出せるのは良い事だ。
 さあ、後少しで越えるぞ」

 シイラが宣言した通り、数十分程で下りになった。

「もう少し下った所で、今日は野営をしよう。」

 シイラは地形を理解していて、俺の体力や足の具合も分かって無理はさせなかった。
 そして、俺の人として出来る範囲以上の事もまた、させる事はなかった。
 俺もこんな事で、精霊の力を借りようとは思わなかったけど。

 少し下ると、野営出来そうな平地があって、そこにテントを張り、簡易のかまどを作り焚き火の準備をした。
 昼にメニューを考えていたから、バッグから鶏肉を出し香草と塩でよく揉んでおいた。
 寝かせている間に、スープの準備をする。
 片手鍋で芋を茹で、皮を剥いて潰した。
 半分をポテサラに、半分をスープのとろみ用に取り分けておいた。
 網を火にかけて、鶏肉を焼く準備をしてスープにする野菜のクズなんかを煮詰めた。
 鶏肉の焼ける匂いに、シイラも覗きに来た。

「ライカ、これは何だ?」

「鶏肉の香草焼きで、ポテサラもどきに、野菜スープ。
 それと、バケットだ。
 俺は米が良いんだけど、この世界ではまだ見つけてないから。
 簡単なので悪いけど」

「いや、素晴らしいよ!
 香草とは、薬草だな?
 回復薬に使うものが、食べられるとは!」

 ハーブはこっちでは回復薬とかに使われているのか。
 カフェで出す料理や、お茶に使うから庭で育てていたものだけど、喜ばれるのは嬉しい事だった。

「頂きます!」
「いただきます!」

 シイラも真似をして、頂きますをしてから食べ始めた。

「美味い!何だ、これは!」

 わんぱく坊主の様な顔で、食いついているシイラが可愛く思えた。

「まだ沢山あるから、ゆっくり食え。
 喉に詰めるぞ」

「んぐ、うっ」

「言ってる端から、もう」

 夜気で少し緩くなったスープを飲んで、詰まった喉を潤したシイラが、ライカは魔力は無くても自然と魔法を使っている、って言い出した。
 魔法じゃなくて、科学じゃないかな?

「使ってないよ、シイラが一番良く分かってるでしょ?」

 笑いながらシイラの食べっぷりを見ていたら、山の奥から大きな熊がこちらへ向かって来た。
 この熊も獣人なんだろうか?
 今まで見た獣人は大抵が顔や体は人間ぽくて、耳や尻尾、腕や足だったけど、この熊はどう見ても、熊だった。

「おー、サリュー!
 これは美味いぞ!食ってみろ!」

 !?シイラが声を掛けたって事は、精霊王の一人って事だろうという想像が出来た。

「シイラ、旨そうなもん食ってんじゃねーか。
 俺にも分けてくれよ」

「それはライカに頼め。
 ライカ、樹木の精霊王、サリューだ。」

「初めまして、ライカです。
 ここまでの道中、隠して下さってありがとうございました。
 こんなので良ければ、召し上がって下さい。」

「おう、俺はサリューだ。
 よろしくな、ライカ!
 しかし、可愛い上に料理上手たぁ、いい子だなぁ。」

 サリューはシイラの横にドカッと座りながら、人の形に姿を変えた。
 その姿はまるで、トゥースって言い出しそうな芸人に良く似ていた。
 
「おお、旨い!
 こりゃ、本当に旨いなぁ。
 それに、野菜もすごく大事に使ってくれてんだなぁ。
 いい子だ。
 その上可愛くて、綺麗だってのも凄いな。」

 手放しで褒められると気恥ずかしくて、なんとも言えなくなって下を向いてしまった。

「下を向くな。
 自分を誇れ、ライカ!
 俺たちが認めた子だ。」

「そうだぞ、こんなに旨い物を作れるその手を誇りに思え。」

 その時サリューが、そうだ、と気づいたようにカシュクールの話しを始めた。

「シイラ、お前の伝言はつい先ほど、宰相殿に渡ったようだ。
 ふふふ、今頃だ。
 お前は昨夜の段階で明日以降と伝えて、門番は律義に朝一番に王宮へ持って行ったのに、あの、救世主と言う小僧が宰相へ渡すのを惜しんだそうだ。
 理由がまた傑作だ。
 ”七色の鱗を持つに相応しいのは自分だ”と言う事だ。
 お陰でライカをあの国から逃がしてやれた。
 お前の鱗の意味を知ってる門番は気が気じゃなかったようだ。
 ”七色の鱗”はお前の逆鱗だからな。
 無理やり門番から取り上げて、自分の懐に入れちまう救世主たぁ、ずいぶん質が悪いなぁ」

 サリューの声は、剣呑とした感じで聞こえた。

「そうか、自分が相応しいか。
 嗤えるな。
 逆鱗が相応しいと分かっているとは到底思えんがな。」

「今頃、宰相殿は血相を変えて奔走して回っている頃だろう。」

「救世主をこの先どう扱うかで、私達の方も考えを決めるつもりだが、果たしてな。」

 少し寂し気な表情で、二人は頷いていた。

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