君なんか求めてない。

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
11 / 29

山越え

しおりを挟む
 最初は緩やかな坂道が、段々と険しい岩場を足掛かりに登る様になった。
 道とかそんなのは無いんだな。
 登山って言葉が正解な気がしたのは、俺が登山経験が無いからで、本当の登山家に言わせたら、ハイキングだよと言われたかもしれない。

「はあ、はあ、はあ、キツい」

「ライカは普段から歩かない生活みたいだな。」

 ふふっと笑いながらシイラに指摘された。

「だ、って、はあ、向こうは科学が発達していて、車という素晴らしい乗り物があるからね。
 仕方ないと、思って、
はあ、はあ、諦めてくれよ」

 盛大な開き直りに、シイラが声を上げて笑った。

「良い良い、ライカがそうやって自分の気持ちを出せるのは良い事だ。
 さあ、後少しで越えるぞ」

 シイラが宣言した通り、数十分程で下りになった。

「もう少し下った所で、今日は野営をしよう。」

 シイラは地形を理解していて、俺の体力や足の具合も分かって無理はさせなかった。
 そして、俺の人として出来る範囲以上の事もまた、させる事はなかった。
 俺もこんな事で、精霊の力を借りようとは思わなかったけど。

 少し下ると、野営出来そうな平地があって、そこにテントを張り、簡易のかまどを作り焚き火の準備をした。
 昼にメニューを考えていたから、バッグから鶏肉を出し香草と塩でよく揉んでおいた。
 寝かせている間に、スープの準備をする。
 片手鍋で芋を茹で、皮を剥いて潰した。
 半分をポテサラに、半分をスープのとろみ用に取り分けておいた。
 網を火にかけて、鶏肉を焼く準備をしてスープにする野菜のクズなんかを煮詰めた。
 鶏肉の焼ける匂いに、シイラも覗きに来た。

「ライカ、これは何だ?」

「鶏肉の香草焼きで、ポテサラもどきに、野菜スープ。
 それと、バケットだ。
 俺は米が良いんだけど、この世界ではまだ見つけてないから。
 簡単なので悪いけど」

「いや、素晴らしいよ!
 香草とは、薬草だな?
 回復薬に使うものが、食べられるとは!」

 ハーブはこっちでは回復薬とかに使われているのか。
 カフェで出す料理や、お茶に使うから庭で育てていたものだけど、喜ばれるのは嬉しい事だった。

「頂きます!」
「いただきます!」

 シイラも真似をして、頂きますをしてから食べ始めた。

「美味い!何だ、これは!」

 わんぱく坊主の様な顔で、食いついているシイラが可愛く思えた。

「まだ沢山あるから、ゆっくり食え。
 喉に詰めるぞ」

「んぐ、うっ」

「言ってる端から、もう」

 夜気で少し緩くなったスープを飲んで、詰まった喉を潤したシイラが、ライカは魔力は無くても自然と魔法を使っている、って言い出した。
 魔法じゃなくて、科学じゃないかな?

「使ってないよ、シイラが一番良く分かってるでしょ?」

 笑いながらシイラの食べっぷりを見ていたら、山の奥から大きな熊がこちらへ向かって来た。
 この熊も獣人なんだろうか?
 今まで見た獣人は大抵が顔や体は人間ぽくて、耳や尻尾、腕や足だったけど、この熊はどう見ても、熊だった。

「おー、サリュー!
 これは美味いぞ!食ってみろ!」

 !?シイラが声を掛けたって事は、精霊王の一人って事だろうという想像が出来た。

「シイラ、旨そうなもん食ってんじゃねーか。
 俺にも分けてくれよ」

「それはライカに頼め。
 ライカ、樹木の精霊王、サリューだ。」

「初めまして、ライカです。
 ここまでの道中、隠して下さってありがとうございました。
 こんなので良ければ、召し上がって下さい。」

「おう、俺はサリューだ。
 よろしくな、ライカ!
 しかし、可愛い上に料理上手たぁ、いい子だなぁ。」

 サリューはシイラの横にドカッと座りながら、人の形に姿を変えた。
 その姿はまるで、トゥースって言い出しそうな芸人に良く似ていた。
 
「おお、旨い!
 こりゃ、本当に旨いなぁ。
 それに、野菜もすごく大事に使ってくれてんだなぁ。
 いい子だ。
 その上可愛くて、綺麗だってのも凄いな。」

 手放しで褒められると気恥ずかしくて、なんとも言えなくなって下を向いてしまった。

「下を向くな。
 自分を誇れ、ライカ!
 俺たちが認めた子だ。」

「そうだぞ、こんなに旨い物を作れるその手を誇りに思え。」

 その時サリューが、そうだ、と気づいたようにカシュクールの話しを始めた。

「シイラ、お前の伝言はつい先ほど、宰相殿に渡ったようだ。
 ふふふ、今頃だ。
 お前は昨夜の段階で明日以降と伝えて、門番は律義に朝一番に王宮へ持って行ったのに、あの、救世主と言う小僧が宰相へ渡すのを惜しんだそうだ。
 理由がまた傑作だ。
 ”七色の鱗を持つに相応しいのは自分だ”と言う事だ。
 お陰でライカをあの国から逃がしてやれた。
 お前の鱗の意味を知ってる門番は気が気じゃなかったようだ。
 ”七色の鱗”はお前の逆鱗だからな。
 無理やり門番から取り上げて、自分の懐に入れちまう救世主たぁ、ずいぶん質が悪いなぁ」

 サリューの声は、剣呑とした感じで聞こえた。

「そうか、自分が相応しいか。
 嗤えるな。
 逆鱗が相応しいと分かっているとは到底思えんがな。」

「今頃、宰相殿は血相を変えて奔走して回っている頃だろう。」

「救世主をこの先どう扱うかで、私達の方も考えを決めるつもりだが、果たしてな。」

 少し寂し気な表情で、二人は頷いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

竜の溺愛が国を救います(物理)

東院さち
BL
エーリッヒは次代の竜のための後宮で働いている唯一の男だ。本来、竜が番を娶るための後宮は女しか住むことができない。けれど、竜であるリュシオンが許してくれたお陰で楽しい日々を暮らしていた。 ある日大人になったリュシオンに「エーリッヒ、これからは私の相手をしてもらう。竜の気は放置しておくと危険なんだ。番を失った竜が弱るのは、自分の気を放てないからだ。番にすることが出来なくて申し訳ないが……」と言われて、身代わりとなることを決めた。竜が危険ということは災害に等しいことなのだ。 そして身代わりとなったエーリッヒは二年の時を過ごし……、ついにリュシオンの番が後宮へとやってくることになり……。 以前投稿した作品の改稿したものです。

【短編】売られていくウサギさんを横取りしたのは誰ですか?<オメガバース>

cyan
BL
ウサギの獣人でΩであることから閉じ込められて育ったラフィー。 隣国の豚殿下と呼ばれる男に売られることが決まったが、その移送中にヒートを起こしてしまう。 単騎で駆けてきた正体不明のαにすれ違い様に攫われ、訳が分からないまま首筋を噛まれ番になってしまった。 口数は少ないけど優しいαに過保護に愛でられるお話。

木陰

のらねことすていぬ
BL
貴族の子息のセーレは、庭師のベレトを誘惑して物置に引きずり込んでいた。本当だったらこんなことはいけないことだと分かっている。でも、もうじき家を離れないといけないセーレは最後の思い出が欲しくて……。 庭師(?)×貴族の息子

激重感情の矢印は俺

NANiMO
BL
幼馴染みに好きな人がいると聞いて10年。 まさかその相手が自分だなんて思うはずなく。 ___ 短編BL練習作品

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

処理中です...