君なんか求めてない。

ビーバー父さん

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この世界の仕組み

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「一応、確認ね。
 あの、精霊の力ってどうやって借りたらいいのかな?」

 この世界の道理も常識も無いから、そう言った事を一から聞いて覚えて行かないとダメなんだ。

「普通にお願いすればいい。
 さっき掃除の時にお願いしていたであろう?
 そして最後に礼を言って貰えるのはすごく嬉しい事だからな。」

「それは、当たり前だろう?
 掃除は本当に助かったし、こうやって風呂に入れるのも準備してくれた誰かのお陰なんだ。
 それは怖い事じゃなくて、助けて貰った事だからお礼をしたいと思うし、お礼を言いたいと思うのも俺の中では当たり前だ。」

 それが精霊たちから愛される理由だと言われて、なんだか照れ臭くなった。

「シイラさん、もし良ければまた、お話に来てください。
 俺、友達とかいないし、寂しいから暇な時でいいから、話したり教えたりしてくれたら、凄く嬉しいんで。」

「シイラ、だ。
 ふふふ、きっと他の精霊も来たがるし話したがる。
 寂しいなんて思う暇もないくらい、ここは精霊で溢れているよ。
 でも、そうだな。
 私の名を呼べば、いつでも来てやろう。」

「本当?
 なら、なんか美味しいもの用意して待ってるよ!」

 この世界に来て初めて出来た友達だと思った。

「可愛いなぁ、ライカは懐くとこんなに可愛い顔を見せてくれるのだな」

「男なんで、可愛いはちょっと…
 それに、親を知らないから、この顔が親に似てるかも分からないし、可愛いって言われてもあんまり嬉しくない」

 この顔が俺だけのモノじゃなくて、俺を生んだ知らない人のモノかもしれないと思うと、それを可愛いと言われるのが何だか面白くなかった。

「可愛いのう。
 ライカの顔だけじゃなく、その魂がと言っても難しいか。
 この世界は獣人しかいないから、と言ったら納得するかい?」

「それもなんか違う気がする。」

 シイラは笑いながら、そうだねって言いながらそろそろ失礼するよ、と言って消えてしまった。

 なんだか、ポツンと一人になった気がして、寂しくなったと同時にここが風呂の中で裸だったことを思い出して真っ赤になった。






 生活で精霊の力を借りることにも慣れた。
 妖精と精霊は違うらしいけど、正直区別はつかなかった。
 二人の騎士は暇を見つけては家に来るようになったから、カフェを開くことにした。

「ジョージもクインも、お仕事は大丈夫なんですか?
 俺は二人のお陰で、カフェにしたら貴方たち目当てのお客が増えて助かってますけど。
 殆ど毎日しかも昼間も来られるのはどうかと思いますよ?」

「私たちはやるべき事はやって来てますよ。
 ライカは美味しい食事とお茶、夜はお酒を提供してくれてるじゃないですか
 これは毎日、味わって当たり前なのですよ」

 一緒に住むってのを諦めてくれたから、ここに来ることで今の所納得してくれているのを、態々藪を突く必要もないかと放っておいたんだが、それが仇となった。



 騎士隊長と、救世主様、それに数人の騎士が店の方に現れて、例のごとくいきなり拘束された。
 
「貴様!
 ジョージとクインを手玉に取って、貴族の仲間入りでもしようと企んでいるのか!!?」

 クラン隊長はいきなり決めつけて来た。
 この人脳筋なんだろうか?

「えっと、どういう事でしょうか?」

「サノヤマさんは酷いです! 
 ボクが救世主として頑張るためには、ジョージ様とクイン様の支えが必要なのに、貴方がお二人を良いように使っているから、その公務も出来ないと言われました。」

 高校生の男が、ぐすぐす泣きやがって、何じゃそりゃ?って怒鳴りたいのをぐっと我慢した。
 良いように使うってなんだよ、大体来るなって言ってるのはこっちだわ。

「俺は、二人がここに来るので、お仕事は大丈夫なのかって毎回聞いてましたよ。
 それでも大丈夫だと、やる事はやって来てるって言いましたよ!」

 店にいた常連さん達が、二人の騎士がウザイだの、俺が諭してもいう事を聞かないだの、上司としてどうなんだとか、救世主なのに支えが無いと何もできないのか、など、かなり言いたい放題に突っ込まれて、救世主であるユアが最後に、お前らなんか救ってやらねーからな!という言葉を吐いて、本当に救世主か?って言われて泣いて帰って行った。
 そもそも、二人がいる時に来いよ。
 意味分かんねー、二人に支えられないとってどんな仕事だよ?

「ライちゃん、騎士団つっても庶民あっての騎士団だっつーの!」

 常連さんに助けられたけど、何かお咎めが無いといいなぁって思いながらビクビクしていたんだけど、特に何も無く数日が過ぎた。
 その間、やっぱり二人の騎士は来たし、二人について他の騎士も来て、殆どの騎士が来てるんだじゃないかって思える程だった。

「ライちゃん、あの救世主様ってクラン隊長とか、王太子とか、まぁ、城中のいい男を侍らせて救世主としてのお仕事は中々進んでないんだって。」

「そうですかぁ。
 でも魔力量もいっぱいで、救世様なのは間違いないんですから、きっとその内、凄い事が出来るんですよ。」

 この所は、若い騎士たちの愚痴の場にもなっていて、救世主って何すれば良いんだろ?と気になっていた。
 その時、良い質問をした常連客がいた。

「救世主様ってそもそも、何をするんだ?」

 常連客の若いのが、年配の常連客に聞いてきた。

「今のこの世界じゃ、精霊の力を借りるのも、魔力が少なくなってきて、厳しいんだよ。
 だから救世主様が代わって、魔力を対価に妖精から力を借りていただくのさ。」

「それ、どうやってよ?」

「教会の中に魔力を供給する器具があるから、そこで魔石とかに溜めて頂いて流通させるんだよ。
 一番は水路に流してもらって、水の精霊の力を借りるのさ。
 作物の為にも、生活の為にも、一番必要な力だからな。」

 俺も聞いて、そうなんだ~って納得した。
 皆が皆、魔力を沢山持ってる訳じゃないんだ。
 魔力を持っていても、妖精から嫌われたら、直接力を借りることが出来ないから、教会のシステムを利用するしかないのか。

 救世主の仕事って大変だなぁ、って呑気に思ってた。
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