君なんか求めてない。

ビーバー父さん

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騎士団の二人

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 急に扱いが変わったのが気になった。

「あの、俺の処分決まってないのに、こんな風に牢屋から出て良かったんでしょうか?」

「クラン隊長が、王室に君の事を報告に行って、召喚者ではないかという事になって、急いできた次第です。」

「ええっと、ジョージさん?
 召喚者って何でしょう?」

「この世界の救世主として召喚される異世界人です。」

 異世界人って所は誤魔化せなくなったけど、救世主って所は絶対に違うと思うから、召喚されてないって言い張った。

「救世主って、なんか証拠とか特徴があるの?
 俺、何にも出来ないただの営業だからさ」

 腕に自信がある訳でも、何か特殊なチートを持ってるわけでも無さそうだし、救世主召喚に巻き込まれた系じゃね?って簡単に想像できた。
 これ、巻き込まれ系は大抵、ポイってされてあんまり良いことないけど、こっそり生きていくみたいな中で能力発揮ってのが結構出回ってる話だけど、俺は、絶対、それは無いと思った。
 勉強もとりあえず、履歴書に高卒って書ける程度の学校で、夜間だったから余計に勉強とは縁遠かった。
 世の中の夜間の人がそんな事は無いけど、俺はバイトと生活に忙しすぎて行ってるだけだった。
 すまん、夜間の人たち。

「営業とは?
 救世主は体のどこかに聖痕が現われるそうです」

「聖痕ってどんな?」

 クインが聖痕の写しを出して見せてくれた。

「こんな形です。」

 随分分厚い紙に書かれていたのは、どっかで見た事あるようなマークだった。
 う~ん、何だっけこれ。
 あ!あれだ、秘密結社!
 信じる信じないはってやつだ。
 って事は、俺には絶対に無いわ~。

「これ、見た事ありますけど、こんな痣も何も無いですよ!
 良かったぁ。
 という事は、俺どうなるんでしょう?
 多分、本当の救世主がいて、その召喚に巻き込まれたんですよ。
 魔力も無かったみたいですし。」

 魔力が無いと生活も出来ないんだっけ。

「明日になれば、王族とも謁見出来ますし、その後考えてはいかがでしょう?
 異世界人という事であれば、巻き込まれたと言ってもきっと保護下に入れて頂けると思います。
 もし、それが叶わなくても、私が娶ります。」

 ん?今ちょっと変な単語、入ったよね?

「ジョージ!私も娶るつもりだ!」

「クイン、それなら二人で娶ればいいではないか」

「そうだね、王様の許可が頂ければ、二人で娶ろう」

「いや、待って、待ってよ。
 娶るって俺男だし!
 それに一夫多夫制?っておかしいでしょう!」

 突っ込みどころ満載だし!

「私たちの世界は男同士でしか番いませんよ?
 それに、許可があれば何人でも伴侶を持てますから」

 それは獣人だからなのだろうか?
 きっと助けてくれるつもりで言ってくれてるんだな。

「ありがとう、でも、この先この世界で生きるしかないなら、何か仕事をして暮らして行けるようになりたいので、娶るなんて言葉を使ってまで頂いてありがとうございます。」

 この世界も捨てたもんじゃ無いかもしれないって、少しだけ希望を持ったんだ。

「今日はゆっくり休め。」

「ありがとうございます」

 言い終わらない内に、まるで久しぶりの眠りのように、一気に落ちて行った。








「異世界人、ライカ・サノヤマ。
 貴方の魔力量は無いことが分かりました。
 そして、救世主でも無いことが…」

 王の謁見室とやらで、司祭様?が俺の魔力量を最初の水晶より強力な魔石で、測定してくれたんだけど、魔力量はゼロだった。
 あの割れたイベントはてっきりそうかと思ったのに…。
 救世主じゃないのは分かってたけど、その後どうするって話にもならなかったから、こっちから切り出した。

「救世主じゃなくても、この世界で生きていくしかないので、出来ればこの街のどこかで暮らしたいのですが、駄目でしょうか?」
 
 そう言うと、宰相らしき人と王様や王太子がこそこそと何かを話あって、構わないと許可を出してくれた。
 そりゃ、救世主はまだ現れていないけど、魔力が全く無いんじゃ救世主であるはずが無いんだし、厄介払いをする口実が出来て良かったって顔だった。

「ありがとうございます」

 そんな挨拶をしていたら、どっかの偉いお貴族様が緊急の謁見を申し込んできて、その場に本当の救世主を呼び込んだ。

「彼が、私の領地の湖に現れて、水面を歩きました!」

 おー、神の子イエスって感じ?

「あの、初めまして、僕、ユア・シノハラです。
 その、いきなりこの世界に来て困っていたんです。」

 高校生くらいの男の子だった。
 悔しいことに、俺よりちょっとだけ背が高くて、可愛かった。
 うん、これが正統派だな。
 ジャニーズ系ってやつだ。

「きっと救世主です!
 魔力量も我が家の測定水晶で最高値の金色を出しました!」

 その言葉を聞いて、王族も騎士団長のクランも前のめりになった。
 その場に居た堪れなくて、そうっとその場を出て行こうとしたら、ユア君が俺に向かって声をかけた。

「えっと、貴方も日本人ですか?」

「え、えぇ、まぁ。
 は、はは」

「僕は救世主なんですが、貴方は?」

「君の巻き込まれ召喚?みたいなんだ」

「なんだ、じゃぁ関係ないのに王宮にいるんですか?
 そろそろ出て行っても良いんじゃないですかね?
 ここで、厄介になるつもりなんですか?」

 今時の高校生ってキツイなぁ。
 こういうの小説や漫画で知ってるから塩対応なのかね。
 本当に、俺は無能だから誰も君の立場を脅かしたりしないってのに。

「えぇ、街で商売でもして暮らす予定で、今許可を出してもらった所です。」

 営業舐めんな。
 ニッコリ笑ってその場を後にした。


 
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