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断罪が始まる

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 やっと軍法会議でも確実に処罰できる言質を得た瞬間、第四王子が動いていた。

「はあぁぁ!!」

 ソードマスターと言われる覇気を纏い、ゲート代わりの扉を打ち抜いた。

 ドオオン!!

 埃と破片で目が開けられなかった。
 やっと埃とか破片とかが落ちて、なんとか視界が広がった時には既に第四王子の剣は領主を捕えていた。

「おい、貴様、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな」

 あんなに優しくて穏やかな第四王子が般若の顔つきになって、その剣を領主の首に突きつけた。

「ひぁ、え?」

「お前は誰だ!」

 領主は情けない声をあげ、ベオクの父親は第四王子に向かって誰だと聞くし、護衛と称した連中はギルバルディとカサルが取り押さえていた。

「お父さん! お母さん!
 もう、大丈夫だよ!
 なんで人形と入れ替わったんだよ!!」

 半泣きになりながらお父さん達に駆け寄り、治癒魔法を使った。
 金色の光が肩や、そこ以外の傷を包み込んで、まるで逆再生する様に治っていった。

「お母さんも!
 危険じゃないか!」

 二人を抱きしめて、大泣きした。
 小さい頃のように、声を上げて泣いた。

「お、い、お前、シアンなのか?」

 ベオクが驚愕を隠さずに聞いて来た。

「だったら、なに?」

 涙を拭う事なく、睨み据えた。

「魔力なんか無かっただろ」

「君のお陰と言うべきか、いや違うな。
 今ここにいる、両親や僕を思って大事にしてくれる人のお陰で、金色の魔法使いになれた」

「あは、あははは、そっか、そうなのか!
 俺にも運が残ってた!
 しかもすげー幸運が!」

 嬉しそうに醜悪な顔で笑うベオクに吐き気がした。

「ねぇ、黙ってくれる?」

「ぅ!」

 口を無くしてやった。

「僕が金色の魔法使いだけど、それが君に関係あるかなぁ?
 うちの親になんて事してくれてんの?
 脳筋でバカだ、バカだと思ってだけど、更にクズになってるとか、ほんと救い様が無いな」

「んー!」

 必死に訴えてるけど、聞く気は全く無かった。

「シアン! おじさんが小さい頃可愛がってあげたじゃないか!
 お前が金色の魔法使いならこんなに素晴らしい事は無い!
 ベオクを治してやってくれ!
 第二夫人が嫌なら第一夫人で」
「もう、奥さんがいるじゃない。
 そこの領主の娘さんがね。
 なんだっけ、ベオクの色が一色も入ってない緑の髪に黒い瞳だって?
 笑っちゃうね。
 誰かと共有なんて、僕ならしないよ。
 前にも言ったけどね。
 それにこんな事されて、なんで僕が治すと思ってんの? 気持ち悪い!」

 親子揃って頭悪いなぁ、と最後に付け加えた。

 そんな僕を見て、第四王子が凄く嬉しそうに領主の首を剣で軽く突いて、ポチポチと血を出させていた。
 犬が尻尾を千切れんばかりに、ぶん回しているようにしか見えなかった。

「な、何を言うか!
 お前だってその腹はなんだ!
 ガキをこさえたんだろうが!」

「「「私の子です」」」

 なんで三人とも!?

「僕だけの子です!」

「あ? お前、子供を産める因子は無かったと聞いていたが、まさか、ベオクの子か!?」

 気持ち悪くニヤつく。

「は! ハッハー!
 本当の私の孫がいるんだな!?」

 踊り出さんばかりのベオクの父親とは対照的に、本人は驚きに目を見開いていた。

「私の子、延いては皇室の子だ。
 不敬だぞ」

 我慢し切れなくなった第四王子は、あっさりと領主の首を切り落としながら、ベオクの父親に向かって剣を振り下ろした。

「な」

 首の持ち主たちは、自分の首が落ちた事さえ気づけないくらい、一瞬の出来事だった。

 それを見て涙目になっているベオクに口を戻してやった。
 
「ひぃぁぁぁ!
 なんだ、なんでだよ!
 俺は悪くないだろ!
 シアンを愛してるんだから!」

 車椅子から転げ落ちて、カエルが潰されたように這いつくばる姿を見て、なんでこんな奴が好きだとか思って体を差し出したんだろう、あの頃の僕を殴りたくなった。

 首が落ちた二人を見て、護衛たちや従者は諦めたようにへたり込んだ。

「ギルバルディ殿、処罰はどうしましょうか?
 私が許されたのは、商家と領主なので、軍部として考えるなら、このまま引き渡しますか?」

「た、助けてくれ!
 な、シアン、俺が悪かった!
 ちゃんとシアンだけを大事にする!
 ソリチュアとは別れる!
 だから」

「えー、私のエルモアに何言って」  
「ラグランジュ様! 黙って!」

 第四王子がピャッと耳を垂れた感じで、思いっきり股の間に尻尾を挟んだように見えた。

「だ、だってね、あの」
「分かりましたから、ベオクの行いは自身の口から語って頂きましたし、軍部で裁いて頂くのが筋でしょう。
 ソリチュア・ロンダンに関しては領主の死をもって財産も何もかも剥奪されるでしょうし、女性一人で子を育てるのは厳しい上に、彼女は働く事もして来なかった身なら、その子を然るべき家庭に養子に出す事で処罰として下さい。
 ただし、二度と子を産む事が出来ないようにする事、養子に出した先を教えない事、万が一養子先に現れたなら、死をもって償う事でどうでしょう?」

 この世界で子供を欲している家庭がどのくらいかと言うと、かなりだ。
 産めない家庭が多いから。
 子供には罪が無いが、自分本位に生きて来た彼女が育てられるかと問えば、甚だ疑問だった。

「うむ、エルモアがそれで良いなら」

「ええんとちゃう?
 どうせそこのド屑は処刑は免れないだろうし、嫁さんはコイツ以外の子を産んだとずっと後ろ指をさされるんや」

「ベオク、僕は最高に幸せになります。
 貴方は、ほんの数日だけ息が出来ると言う地獄へ行ってらっしゃい。
 その先に行く場所にはきっと、お父様と義父が待っていてくださいますよ」

 鼻水と涙でグチャグチャな上、動かない下半身から垂れ流した物で汚れたまま、駆けつけた軍部の兵士が引き摺って行き、皇室の護衛騎士らが後始末を従者達にさせて、この場を後にした。

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