【本編完結】金色の魔法使い→続編あります

ビーバー父さん

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※R-18あり 信じたいから蓋をした

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「シアン・トロワ! 前へ!」

 壇上に呼ばれ、トリサム教授が僕に帝都経理部への配属が決まった過去一番の生徒だと告げると、会場中から割れんばかりの拍手が起きた。
 
「これから君の世界に光があることを願う。
 何か困ったことがあれば、いつでも訪ねて来なさい」

「ありがとうございます」

 若い教授は愛嬌のある笑顔で僕を送り出してくれた。

 壇上から拍手で送りだされる途中で、軍服の正装をしたベオクが目に入った。
 そして目が合うと、凄く嬉しそうな笑顔で拍手をしてくれた。
 それだけで、昨日の手紙の事を許せてしまえた。

「シアン!! 凄い! そして可愛い!
 俺のシアン!」

 人目も憚らず一直線に僕の所へ駆けて来ると、僕よりもかなり大きい体で力いっぱい抱きしめてくれた。

「ベオク!」

「おめでとう! 帝都経理部なんて! 本当に凄いよ、お前は!」
 
 肩を抱きしめられながら、僕らは会場を出てベオクが予約してくれたお店へと連れ立った。
 連れて行かれた店はこの街では一等地に建っている、かなり高級なお店だった。

「ベオク、ここってかなり」
「お祝いだろ! それにちゃんとしておきたいから」

 少し照れ臭そうにしながら、記念だからと言って中に入った。
 中は高級店らしく白を基調とした内装で、個室になっていた。

「改めて、おめでとうシアン」

「ありがとう、ベオク」

 向かい合って座ると、改めて見るベオクの軍服姿に惚れ惚れとしてしまった。

「シアン、俺、数日中に出征が決まるんだ」

「え、どうして?」

 あの手紙にもあった。
 僕は、手紙の事を切り出そうとしたけど、その言葉が出てこなかった。

「一応さ、俺も軍部でかなり優秀なんだぜ。
 だから出征が認められたんだ」

「優秀なのは分ってるけど」

「うん、だから、待っててって言えない。
 出征したら少なくとも三年は戻れないから」

「そう、なんだ」

「だけど、必ず迎えに行く!」

 ベオクが僕の手を握って祈るように自分の額に当てる。

「出征って事は当然戦いがあるって事だよね?」

「そうだ、だからこそ俺は強くなった」

 確かに、先月のあの時よりさらに体が大きくなっていたし、今握られている手も随分ゴツゴツとしていた。

「僕、待ってるよ。
 ベオクが迎えに来てくれるのを、ずっと待つから!」

 あの手紙の事を聞かなきゃいけないのに、こんなベオクを前にしたら聞けなかった。
 それよりも、自分の心を信じたかった。
 ベオクを信じると決めた心を。

「シアン、ありがとう、ありがとう!」

 思いつめたベオクの表情が、ぱぁっと明るくなったのを見ると、これで良かったんだと思った。
 ちょうど話が一息ついた時に、豪華な食事が運ばれて来た。
 ここからはお互い胸のつかえが取れたように食事を楽しみ、卒業を成人とみなすこの世界で初めてのお酒を飲んだ。
 生まれて初めて、幸せだと思った。
 相思相愛の相手とこんな風に過ごす時間が、例え出征までのわずかな日々だとしても。

「ベオク、一緒に泊ってもらえないか?」

 出征するまではある程度時間に自由がきくと言われて、僕は思い切ってそう告げた。

「シアン、俺、お前を抱かずにはいられない、それでもいいのか?」

「だって、このまま離れるなんて嫌だよ! 
 絶対、絶対僕を迎えに来て!」

 お酒の勢いもあったけど、それが僕の本心だった。

「分かった、この店の上が泊れるから、今日からお前が明後日帝都に行くまで、一緒にいよう」

 ベオクは恭しく膝をついて、僕に手を差し出した。
 そして、僕は迷う事なくその手を取り、店の上へと二人で向かった。


 離れていたくなかった。
 短い時間でも、これが最上だと。
 たくさんキスをしてくれて、お互い初めての睦言に照れたり大胆になったり、貪るように欲しがって繋がった。

「愛してる、ベオクが迎えに来てくれるのを待ってるからね」

「ああ、シアンを必ず迎えに行く」

 三日目の朝、僕らは約束だけを残して別れた。
 ベオクの出征はそれから一週間後だと手紙で知らされた。
 その手紙が僕の手元に着いた時には、とっくにベオクは出立した後で、あの別れた後の一週間で何があったのか、僕は知らなかった。



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