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期待と不安

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 僕たちが高等教育と軍部に進路が分かれ、お互いがそれぞれの寮に入っていた秋、無事にベオクの弟が生まれた事をベオクから聞かされた。
 それはベオクが軍人になるという筋道が出来上がって、僕を嫁にすると言う約束が履行させることを示していた。

 文官を目指す僕は前世での大学の様な授業を受け、途中で資格を取り何度も試験を繰り返した。
 魔力が無いから、他の人達より資格や実績を積み上げ、成績という目に見える力をつけるしかなかった。
 それでもこの世界は魔法が使えない人間にとっては厳しい事だった。
 文官が魔法を使う必要がほぼ無いとは言っても、鑑定や承認が必要な管理職にはなれない。
 鑑定魔法や承認魔法、契約魔法が必要になるからだ。
 それでも、その手前までの文官にはなれるから、努力し続けるしかなかった。

 
 卒業を一月後に控えた頃、僕は今までの努力が報われる事案が起きた。

「シアン! シアン・トロワ!」

「はい!」

 高等教育の構内で、息せき切った教授に呼び止められた。

「シアン! おめでとう!
 君の努力が認められたぞ!
 異例ともいえる帝都での経理部に配属が決まった!!
 私も鼻が高い!」

 僕に厳しく指導をしてくれた教授が、興奮気味に伝えてくれた。

「え? え、あ、えぇ?!」

 教授が何を言ってるのか理解できなかった。

「シアン! しっかりしろ!
 ははは、私もこの報せを聞いた時は同じ様な状態だった!
 凄い事だぞ! 君の能力ひいてはその計算力が認められたんだ!
 魔法が全てじゃない事を、帝国に認めさせたんだ!」

 帝国のしかも帝都にある経理部、つまり帝国内外の全てのお金を取り仕切る部署に配属が決まると言うのは前代未聞だった。
 どこかの貴族とか、魔力が凄いとか、そういった特権階級の人の職場だったからだ。

 教授は自分が配属されたかのように、興奮して声を大きくしていた。

「トリサム教授、それ、は、……本当? ですか?」

 茫然としながら、漸く言ってる事が頭に入って来た。

「あぁ!! 本当だとも! 私も何回も確認した!
 卒業と同時に帝国の帝都経理部へ配属されるんだ!」

 ガクガクと震えながら、やった、やった、やったんだ! と拳を突き上げて教授と抱き合って喜んだ。
 トリサム教授も若くしてこの高等教育の教授になった事から、風当たりや理不尽な圧力を受けていたからこそ、ここまで喜んでくれたのだと思った。

 そして、構内は大騒ぎしてる僕らを遠巻きにしながらも、聞きつけた人達が温かい拍手を贈ってくれてその場は幕を閉じた。



 その日の終わりに、僕はベオクを軍部の寮の近くで待ち伏せていた。
 少しでも早くこの事実を伝えたいのと、会う予定では無かったけど驚かせたかったからだ。

「ベオク、まだ帰ってこないのかな?
 今日の訓練は夜営だって言ってなかったけど……」

 寮の辺りからは死角になるところで、しばらく待っていた。
 日付も変わるころには、さすがに諦めて帰ろうとしていた所にやっとベオクの姿が見えた。
 数人の仲間と一緒に帰って来たベオクに、ちょっとホッとしながら声を掛けようとしたところ、近づいてきたことで彼らの会話が聞こえて来た。

「おいおい、お前、あの子と結婚するのか?」

「この中じゃベオクが一番早そうだよな」

 僕の事か。
 ちょっと嬉しくて、息を潜めて聞いていた。

「出征して、功績を残したらって決めてるんだ」

 ベオクはかなり真剣な顔をして仲間たちにそう話していた。
 それが嬉しくて、自分の事も相まって他の人達がいるのに声を掛けた。

「お疲れ様、ベオク!」

「え? シアン! どうしたんだ?!」

「あのね、」
「ちょっと、こっちで!
 悪いな、みんな先に入っててくれ!
 幼馴染が急用みたいなんだ!」

 ベオクが僕の腕を掴んで、その場から離れようと引っ張って行き、さっきまでいた死角になる場所まで連れて行かれて怒鳴られた。

「シアン、こんな夜中に危ないじゃないか!」

「あのね、僕」
「聞いてるのか?!
 俺だって明日の訓練があって早いんだから、約束しなかったのに!」

「あ、ごめん、でも、」

 普段もジャイ〇ンなところがあるけど、この時はかなりの剣幕で怒られた。
 そして、話なら休みの日に聞くから、今は帰れと言われ僕は嬉しい気持ちとか、昂揚した感情とかが急に萎んで行き項垂れてその場を後にするしかなかった。

 その場を離れてしばらくはどうして?って気持ちと、仕方ないって気持ちが入交になっていてどうやって自分も寮まで帰ったか記憶が無かった。
 
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