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つい昨日蘇った記憶は、今目の前にある景色と寸分違わないものだった。

「あのまんま、だ。」

胸が痛くなるほどの空気を吸い込んで、鼻の奥がツンとした。

すぐ目の前に見えるのは、ヴラドの屋敷で既に玄関にはお屋敷で働く皆が出迎えてくれていた。

「嶺緒様!! 
 ご無事で!」

ロイスが一歩前へ出てまるで小さな子を抱えるように、高く振り上げた。

「ロイスさん!
 元気だった?
 凄く会いたかった、皆にも、凄く、会いたかったよ」

最後は涙が出てしまった。

「嶺緒、お帰りなさい!
 こんなに待たせて!」

メイドの皆からは、ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられて、ちょっとだけ息が止まるかと思った。

ぱんぱん!!

「嶺緒様、だ。
 これからは、このお屋敷を取り締まる奥方様になる方だ。
 口の利き方に気を付けるよう、心がけなさい」

ロイスが家令としての威厳を持って、俺がヴラドの伴侶になることを告げると、周りからはワッと歓声が上がった。

「こんな俺を迎えてくれてありがとうございます。
 これから、精いっぱい、皆の為に、ヴラドの為に、この国の為にできることをします。
 皆の支え無しにはできません。
 どうか、手を貸してください」

頭を下げると、一斉に声が上がった。

「Leo, bitte sei glücklich」

側で見ていたヴラドは、ルアンの事も告げた。

「嶺緒の取り替え子のルアンだ。
 同じく、この屋敷で生活する。
 よろしく頼む」

この時少しざわついた。
取り替え子の話は既に起きていたけど、実際に俺の取り替え子の存在が出てくると思っていなかったからだ。

「あの、ルアンです。
 シーオークの養い子で、嶺緒に兄弟だって、言われて」

段々声が小さくなっていくルアンに、俺が代わりに声を出した。

「俺の兄ちゃんなんだ!
 だから優しくしてあげて!
 なんか、心がつながってるから、兄ちゃんなんだよ」

「嶺緒様がそうおっしゃるなら、兄上様として扱いましょう」

ロイスがにっこり笑って、兄ちゃんだって言ってくれた。

「ありがとう」

この時ルアンの表情は見えなかったけど、喜んでくれてるって思ってた。








挨拶を済ませたら、すぐにドライアドの住む場所へ移動することになった。

たくさんある森の中の一つらしいけど、空間移動でしか来れない場所らしい。
そして、同じ所にいるとは限らないらしく、毎回ヴラドが持つ空間移動だけが確実に居場所へとたどり着けるという事だった。
中には、たまたま、行き合わせることもあるらしいけど、ドライアドとは分かり難いらしい。
神出鬼没って事かと、納得した。


移動先に見えたのは、一面の花々が咲き乱れた世界だった。

淡い色や、濃い色、そして長く蔓を持つものや、小さく地面を這うように咲く小さな白い花が密集して咲いていたり、とにかく綺麗としか言いようが無かった。



これはこれは、ヴラド殿


聞き覚えがある様な、懐かしいような声が聞こえてきた。

「ドライアド、姿を見せい
 お前に尋ねたいことがある!」



そう、いきり立てる出ないわ、ヴラド殿よ



「火急故、すまんが急ぎ鑑定してもらいたい」



そうか、では鑑定しようか。


そう聞こえると、花畑の中央に緑の木が生えてきた。
その幹の中から、老婆の様な姿をした女性が、同じ幹の色をしたフードを被って現れた。

「ホホホ、これは僥倖
 嶺緒、お前は正しくティターニア様の御子なれば、いずれ精霊王の力も取り戻せましょうぞ。
 して、そこな者、迷い子か。
 シーオークの力を借りた、人間よの。
 その根は分からぬ。
 が、一部交じっておる。
 嶺緒の取り替え子を食ったか?」

まさか!

「ルアンは兄ちゃんじゃないの?!」

「こやつ、人間の子を食ってシーオークに入り込んだヴォジャノーイかアルプだの
 いや、アルプか。
 取り替え子の中に入り込んで、交じって居るわ」

その時、ルアンは最初に見せた邪悪な表情を剥き出しにした。

「糞婆め!!
 中身も取り替え子が一部残っていれば分からないかと思ったのに!!」

「ルアン!!!
 貴様!やはり嶺緒を殺すつもりだったか!!!」

ヴラドが一閃を放って剣を投げたが、ルアンの行動が一瞬だけ早かった。
致命傷にはならない手傷を負わせたが、ゆっくりとその傷が塞がって行った。

「ふふ、は、はっははっは!!
 嶺緒の血は混じり物が入っていても、良く効く!!!」

「あの時か!」

ルアンが掃除をした時に、俺の血を採っていた?


「何で!
 ルアン!!
 アルプって何?
 どうなってるの?!」

戦闘態勢のヴラドが俺を庇うようにして立った。

「アルプとは、悪の一種じゃ。
 精神的な支配を得意とする、
 そして、吸血鬼とも呼ばれる、故に、残念ながら嶺緒の兄は既に存在しない。
 アルプとは違う次元のはずなのに、連れて来たのはジルであろう?」

ドライアドの言葉に、ルアンは笑って見せた。

「なんで、取り替え子なんてしたんだ!」

既に、いなかった。
兄ちゃんだと思っていたのは、中身を食べたアルプという悪魔に近い別次元の妖精だった。

「取り替え子じゃねーよ。
 元々、ジル様はお前を喰らってしまうつもりだったのさ
 だが、精霊王の守護の力が強すぎて、人間界に捨てるしか出来なかったんだ。
 辻褄合わせに、人間の子を連れてきて、言い訳が立つように取り替え子ってしたわけだ。
 だがな、すぐに露見すると面倒だからって、俺に食わせたのさ」

醜悪な笑い声をあげてルアンが、俺が兄ちゃんと言ったことを嘲笑った。

「なぁにが繋がってるだ
 笑わせんな。
 この中身の一部は確かに繋がってるかもな
 俺が食っちまったけど」

一部でも、俺の兄ちゃんと繋がっていたんだって、でもそれは本当じゃなかった。






 
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