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しおりを挟む今は使用人として屋敷にいるので、ヴラドとは食事を共にしていない。
それが俺のけじめだったから。
ヴラドの夕食の後、俺は扉の前に立っていた。
きっと扉の前に俺がいるのなんて分かっていることなのかもしれなかったけど。
大きく深呼吸して、ノックをした。
入れと言う言葉より先にヴラドが扉を開き、俺を招き入れた。
部屋に入るか入らない瞬間、抱きしめられた。
この匂いが好きだ。
「旦那様、苦しいです」
「ヴラドだ、私は嶺緒と主従関係ではいたくない。
お前が好きだ、心から愛してるんだ」
なんて言ったの?
俺、死んじゃうよ。
今の言葉が夢だったら、きっともう立ち直れない。
「あ、の、」
「嶺緒、私はお前を伴侶にしたいんだ
ロイスの番になる気なのか?」
ゆっくりと息を吐いて、言葉を整理する。
「なら、なぜジルを抱いたの?なんて野暮なことは言わないけど、一方的な別れは辛いんだよ。
また、俺は目の前で抱き合った人たちを見る羽目になるなんて、滑稽だね」
「悪かった。
嶺緒を傷つけるつもりは無かった。」
ふふふ、と笑いが込み上げた。
もう、恋なんて懲り懲りだ、と思っていたのに。
普通に、恋をしてる。
あんなに絶望したのに、また、希望を持とうとしてる。
「嶺緒?」
「うん、俺、人間界へ帰るよ。
いつかさ、いつか、俺がみんなから認めてもらえるくらいちゃんとしたら、なんて考えたりもしたけど、ヴラドは偉い王様で種の始祖で、永遠を生きるヴァンパイアで、その隣に立つには人間ではダメなんだよ。
それを、今日、痛感した。
身の程知らずだったんだ。
それに、俺がここにいると、ロイスさんが食べたくもない道草を食ってそうだからね。」
「違う、違うんだ!」
否定しなくても自分自身のことだもん、良く分かってるよ。
「大丈夫だよ。
ヴラドにもらったこの命、ちゃんと大事にするから。
もう自棄になって自殺なんて考えたりしないし。
ただ、もう、これ以上は心が壊れちゃうから、せめてここでの記憶は消してくれると嬉しい」
始まっても無い恋だけど、想い続けるには世界が違いすぎる。
夢の中ですら会えないような世界の人に、この片恋を持ち続けるのは辛すぎるから。
「皆が嶺緒を心から迎えたいと思い、嶺緒も私を求めるなら迎えに行ってもいいだろうか?
嶺緒が助けを求めるなら必ず迎えに行くから!」
「そんな日が来ればいいなぁ」
約束はしない。
この記憶が無くなって、ヴラドを忘れてしまっても、きっとこの瞬間の幸せな感情は時々思い出せるだろう。
意味が分からなくても、覚えていなくても。
ヴラドは俺を抱きしめ、そしてせめて事故やケガ、病気にならないように加護を与えさせてくれと言われた。
健康なら、いくらでも働けるし、それは助かるからありがたくお願いいした。
「ありがとう」
ヴラドはゆっくり俺の唇に口づけをして、その唇を牙で一噛みした。
「痛っ!」
次の瞬間、体の奥が熱くなり、身体の組織が作り直されていくのが分かった。
灰褐色の髪は艶やかな輝きを増し、顔立ちは幼さを残しながら妖艶は色香を持つ美男子へと変貌した。
初めてのキスは、本当に好きな人とできたんだ。
深淵に沈んでいく体が、水泡を吐き出すように、ヴラドの顔を忘れ、ロイスの精悍な体躯を忘れ、メイドさん達や、街で知り合う人々や、そして小さな親指姫を忘れさせた。
忘れていく分、綺麗に整った容姿にも霞がかかるように、その色を変えさせた。
胸に残った記憶は、捨てられて足掻いて生きてきた記憶だけが残っていた。
「ヴラド、どこ?」
夢を見た、夢に見た大好きな人。
目を開ければ、R国の緑豊かな景色を窓から望むことが事ができる部屋の大きなベッドの上だった。
「嶺緒、目が覚めたか?」
優しい笑顔が目の前にあった。
死に戻った時のように、ヴラドは隣にいてくれた。
「ヴラド、俺、ヴラドの隣にいてもいいの?」
「あぁ、全て解決した。
嶺緒を迎えないと、国が滅びるほどにはな」
にやりと不敵な笑いを浮かべるヴラドに一体何があったのか、この5年で国が滅びるほどって戦争とか内乱とか?
「あのさ、ジルはどうしたの?」
俺が離れたんだし、ヴラドの下半身事情は分かんないけど、もし、また抱き合ってる関係なら、行きたくない。
うじうじと考え、結局聞くしかなかった。
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