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「どけ!ロイス!」



「どけ!ロイス!」

「なりません、ジル様!」

物凄い覇気が目に見えるようだった。

「人間ごとき、しかも死に戻りなど!
 ヴラドの伴侶たるこの私が許さぬ!!
 再び死を迎えたくなくば、此処から人間界へ捨てるなり」
「ジルゥー!!!!!!
 貴様ぁ!!!!」

ロイスとの争いの中、ヴラドが地を割らんばかりの怒声で現れた。

「ヴラド!!
 邪魔をするなぁ!!!!
 こいつがいるのが悪いんだ!!」

「貴様がいつ私の伴侶になった!!!
 戯言にしても、許せるものではない!」

「ヴラド、私を伴侶に迎えてくれるのではなかったのか?」

「貴様が勝手に思い込んでいただけだろうが!
 それに、二度と姿を見せるなと警告したよな?!」

ヴラドとジルの間で何があったか分からないけど、伴侶とかなら俺が居るのを面白く思わないのが良く分かる。

「ヴラドぉ、酷い、ひどいよ
 僕はずっと待って、たのにぃ!
 同じヴァンパイアで、高位の僕なら釣り合うし、それに他の魔族だって納得する!
 自分の立場を考えてよぉ」

ジルは泣き喚いて、ヴラドに縋った。

ふぅとため息をつきながら、その肩を抱いて宥めるように、そう言う事じゃな無いんだ、理屈じゃないとジルに告げるヴラドの姿に心が痛んだ。
ヴラドの側にいるってことは使用人の中でも凄いことで、その隣に立つってことは、もっと凄い事だったんだ。

そしてこの時初めて、俺はヴラドを好きになっていたことに気づかされた。

「じゃぁ何で僕を抱いたのさ!!
 愛されてるって思ったよ!
 僕だけが悪いの?
 ねぇ、ヴラドぉ、僕は何だったの?」

「それは!
 …すまない」


あぁ、そうか。
また勘違いするところだった。

助けた人がまた路頭に迷って首でも吊ったらシャレにならないもんね。

ここで部外者は俺だったし、これ以上ここの世界に留まってはいけないんだって分かった。

「あの、ジル様?
 旦那様はきっと照れてるんですよ。
 私から見ても、お二人はお似合いです。
 それに、私は人間界に恋人がいますから、気にすることないんですよ?
 ね、ロイスさん」

ジルの勘違いだと、2人はお似合いだと、その言葉を出して、心がどんな痛んでも悲鳴を上げたとしても俺にはまた始まってもいない、手の届かない恋だった。

「嶺緒様!
 そんなことを言うものではありません!
 それに、貴方の恋人は」
「ううん、やっぱり、彼がね
 忘れられないんですよ」

精一杯笑って見せた。
涙が出そうだったけど、ぐっと顎に力を入れて、ね、と首を傾げてみせた。

「ふーっ!
 旦那様、私は初めてワーウルフとしての本能に従いそうですよ。
 では、嶺緒様、私と番になってください。
 オオカミは生涯に一人しか愛せません。
 人間界になんか帰せませんからね! 
 私が、貴方を愛し護りますから。
 身も心も全て、私に下さいませんか?」

ロイスがいきなり告白してきた。
正直、ワーウルフのワイルドなところとか、結構好きだけど。

「ロイスさん、生涯に一人なら、私に道草食ってる場合じゃないですよ」

少しだけ、救われた。
まだ、俺は人を愛しても良いんだと。

嘘をついてでも、俺を庇おうとしてくれる人がいるなら、俺も嘘をついてこの世界の人を護りたい。
俺がそばにいることで不協和音が鳴ってしまうなら、いなくなろう。

「旦那様、今この時を持って、暇乞いをお願いします。
 人間界へ、帰していただけませんか?」

ジル以外の二人が、その表情を硬くしたのが分かった。

「できれば、こちらの世界の記憶を消してください。
 人間界で生きるには、この記憶は辛すぎますから」

「嶺緒…
 いや、私はお前を手ばな」
「旦那様!!!
 後生ですから!」

2人が愛し合う姿を想像して、吐きそうだった。
嫌だ、いやだ、いやだ。

こんな記憶を持っていたくない。

「今夜、一晩だけ時間をくれないか」

力なくヴラドが言葉を発した。

「畏まりました」

その場をロイスが治め、ジルを帰らせてから俺に、私と番になりなさい、と再度申し込まれた。
半ば強制的な言い回しだったけど。



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