モブですけど!

ビーバー父さん

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 翌日の朝、侍女とアシッドが部屋へ来て朝の支度をしていたら、何やら門前で大騒ぎが起こっていた。
 
 そりゃそうだ。
 昨日街での買い物から帰って来るはずだった嫁子供は、なぜか王宮へ足を延ばしたと報告を受けていたし、そのまま一泊とか、ね。
 腹違いだけど家族で過ごしましたってところだろうし。
 パパが帰国して実家に僕を連れてきたことを報告でもしたんだろうし。

 こっちは伯父様の解毒やら解呪で全員がドン引きしてるのに、帰宅させるわけないじゃん。
 それに、昨日のうちに王宮へ私信を出して、男爵家でもどこへでもお好きなところへ行ってください、侯爵家へは戻れないと言う趣旨の内容で出したのに、昨日はそれに対する話は無かった。
 普通なら慌てふためいて帰って来るんじゃないかな?
 
 毒も盛ってるし、魔法もかかってるし、別れられるはずが無いと高を括っていたんだろうね。





 門番が牽制しているが全く怯む様子が無いので、セバスチャンがはっきりと退場を勧告した。

「リチェル嬢、お帰り頂くようにグリウス侯爵様から通達が出ています。
 一歩でも中へ入られたら拘束し、地下牢へ行く事になります」

「何を言ってるのよ!
 ここは私の家よ! それにグリウス侯爵夫人よ!」

「ああ、リチェル嬢と言われた事に憤慨しているんですね
 ですが昨日、王宮へ出した私信で離婚を前提とした別居宣告をされていますので、そのお立場も合意の上放棄さた状況ですが。
 離婚が成立もしくは関係改善が認められない限り、貴方様はリチェル嬢ですよ」

「あれは本気ではないわ!
 私が出かけて寂しい夫の小さな我儘。
 抱きしめてあげればすぐにご機嫌を直すから、早く開けなさい!」

 どこまでも自分勝手でバカな女だ。

「では、地下牢でその舌を引き抜きましょう。
 勝手に侯爵夫人と身分を偽ったと」

「ひっ!!」

 抑えることなく殺気を垂れ流してやった。

「我が家門が請け負った仕事ですから。
 アシッド家として対処いたします」

「い、いいえ、いいえ分かったわ!
 夫には、実家へ帰るから迎えに来るように」
「侯爵様は夫ではありませんよ。
 先ほどの私信が」
「分かったわ!
 では話し合いの場を」

 ふむ、と考えてそのうちに、と答えた。






 朝の騒動が収まると、闘魂を燃やしたお婆様の特訓が始まった。

「ラグ、姿勢は?」

「は、はい!」

 背中に棒が入ってるイメージで、胸を開くように堂々と、と思っていたら違う方向に注意が来た。

「違うわよ、優雅に柔らかく、そう、頭を蜘蛛の糸が引っ張ってるように、軽く顎を引いて。
 そう、そうよ。
 そして目線を合わせないようにして、静かに微笑むの」

 ん? ん? それって、令嬢の所作では?

「歩くときの歩幅は小さく! そう、つま先を意識して腰骨から足を出す!」

 これは歩幅がもう少し大きければ、モデルウォーキングでは?

 食事にいたっては、カトラリーの使い方はまぁ、そこそこだったけどお肉を全て小さく刻んではいけないとか、口に入るサイズで切り口の動きを見せないとか、まぁ、大変だった。
 でもさ、やっぱりそこにある疑問はこれって令嬢のマナーじゃないの?だった。

「お前、このマナーは娘が学ぶものでは」

 お爺様、やっと突っ込んでくれましてね。

「うん、父上が言う通りかと。
 私達兄弟にはそんなマナー教えませんでしたよね?」

 伯父様!

「母上、ラグのデビュタントは男の子でするのですよ?
 女の子ではないのです」

 パパ、もっと早く言ってよ。

「何言ってるのよ! こんなに可愛くて綺麗な子を着飾らせないでどうするの!
 大体、男の子のおしゃれなんて軍服みたいな感じかスーツしかないじゃない!
 可愛くないのよ、可愛くね。
 二人とも顔は良いのに、男の子だったから途中から全然楽しめなかったの!
 孫だし心置きなく可愛がれるじゃない!」

 あ、あ、なんか暴走して妄想してる。

「それに! 貴方たち、女の子の姿ならエスコート出来るのよ! 私は祖母で当たり前に側にいられるけど、貴方たちは社交界で男児の側に居続ける事は出来ないのよ!
 それでも良いの!?」

「う、デビュタントで男親と一緒にいると。確かに弱いとか女々しいと言われそうだ」

「私はどう転んでもシャペロンという立場があるけど、レイラント、貴方それでいいの?」

 パパがそばを離れると、王弟やその息子たち、つまり従兄弟であるお兄様方から何をされるか分からない。
 男子の姿で出れば余計に警戒されるかもしれないけど、女子なら残念な子で終わるかもしれない。

「いやいや。だからって態々ラグの評判を貶めてやる話か!」

 伯父様が一番冷静。

「みんな冷静になれ! 一生に一度のデビュタントなんだ、まずはラグがマナーを完璧にしてその後どうするかだ」

「僕は諸侯たちから侮られなければ良いと思っています。
 従兄弟たちは当然、昔の僕しか知らないでしょうし、第三王子も薨去した事で今は王弟殿下が立太子されてるんでしたっけ? それともまさかの従弟とか?」

「いや、現国王が側妃や愛妾なんかに子種を撒き散らかしてるよ」

 王弟が頑張りそうだけど。

「昨年、そこら中で子供が生まれた。
 そして、何人かの側妃と愛妾が暗殺され、何人かの王女に王子が一歳を迎えずに亡くなった」

 想像を絶した。
 まさか、王弟が?

「王弟と王妃の差し金だろうとされていたが、その後すぐに二人についていた侍女と、側妃たちについていた侍女が遺書を残して自殺した」

「伯父様、そこまで情報を持っていたんですね」

 僕がボンクラだと思っていた伯父様をちょっとだけ見直した。

「ラグ、兄上は元々優秀な補佐官だよ。
 宰相の次に一応、偉い人なんだから」

 一応ってパパも言ってんじゃん。

「なのに、伯母さんに転がされてた、と」

「仕方無いよ。
 だってリチェルってキモチワルイくらい自己中だから。
 私を狙ってたのも顔のいい爵位もそこそこで次男だからだし」

 なんか似たような名前の芸能人が、凄い理由で離婚したよなぁ。
 奥さんの実家が確かお金持ちで、売れたら凄い理由と自己中な考え方で新しい家族ノカタチとか出してたっけ。
 子供がまるでアクセサリーかペットみたいな印象だったなぁ。

「確かに今朝の勢いは凄かったみたいだし」

「セバスが苦戦はしてないだろうけど、時間がかかってたよね」

 パパと僕がそう言うと、給仕の手伝いをしていたセバスチャンが黒い笑みを浮かべて、お庭や門が汚れたら困りますので、と答えた。

 それって、血が飛んだりしたら面倒だなって事だよね?
 


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