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しおりを挟むセバスチャンが監禁されていたお爺様とお婆様を解放して、こちらへ連れて来たのと同時にアシッドがその場で僕が集めた毒を渡した。
初めて会う祖父母に僕は礼儀的な挨拶だけをして、今はこの毒に集中したかった。
セバスチャンへと渡った毒は、彼の持つ鑑定と言うより黒魔法で内容を解析された。
「旦那様、こちらの毒は奥様の毒とは成分が少し異なりました。
どちらかと言うと、進化したと言うのが正しいのかもしれません」
「進化だと?」
「敵も狡猾になった?
伯父様の毒はそれほど巧妙に作られていると言う事か……」
僕は毒の成分を知るよりその入手経路の方が気になった。
「王弟殿下は、僕の伯父になるんですよね?
お母さまのお兄様なら、そういうことですよね?
王族なんて血の繋がりがある方が怖いと思ってしまうけど、これはやり過ぎじゃない?
伯父様を亡き者にしたからってパパが伯母様と再婚なんて話にはならないでしょう?
第一、パパの方が貴族として格上なのに、侯爵夫人が子連れ再婚を望むなんておかしいよ」
人として、貴族社会としての道理を説いてみても、この毒殺に関わった人たちは人間じゃない所業と思惑で動いてる以上、こちらの想像を超えて来るだろうと言う事だけは確かでイライラとする感情に振り回されそうになっていた。
「ラグノーツ、君を見るとアデレイドを思い出すよ。
そうやってきっぱりと物を言う、正しい人だった。
特に下の者たちからは慕われ愛されていた。
そこが、王族にとって排除せざる負えない理由でもあったんだ。
過ぎた忠誠は反逆につながるから」
「ラグ、国とは決して綺麗な事や正しい事だけで成り立っているわけでは無い。
ロッシの様に暗部を請け負う家門があるのはそう言う事だ」
「それは理解してる、でも! 家族を暗殺する家族なんて!!」
あまり記憶の無いお母様の事はどこか他人事だったはずなのに、こうやって語られると生きていたら抱きしめてくれたのだろうか、とか、子守唄を歌って貰えたのだろうか、と酷く恋しい気持ちが湧きあがって会いたくて仕方なくなった。
「勝手な、勝手な理想のお母様のイメージかもしれない、けど! 僕はお母様に会いたい! 抱きしめて欲しい! 愛してるっておはようとかお休みのキスをしたいって!
そう思ったら、いけないの、かよ……」
泣いていた。
「ラグ、ラグや、お前の母、アデレイドはとても美しい心の持ち主だった。
レイラントと一緒になる時も、子を持てば殺されるかもしれないと分かっていても、その真っすぐな心で決断してお前を産んだのだ。
バカ王弟のバカ息子どもを育てる条件で、それでもお前が欲しかったんだ。
この国の王族はどんどん腐敗していっておる」
お爺様は礼儀的な挨拶しかしなかった僕を、パパによく似た顔で抱きしめてくれた。
「可愛い孫が犠牲になるのを止めたい、だが、その為には今の王族を粛清せねばならん。
儂ら高位貴族は頭を悩ませていた所に、お前のデビュタントの話を聞かされてそのタイミングを使わせて貰うよう、レイラントに頼もうとしていた矢先に嫁に足元を掬われてしまった」
すまない、と抱きしめて来るお爺様に僕は頭を振った。
「僕のデビュタントなんて良いんです。
それで、王弟殿下や従兄弟たちの罪を問えるなら、いくらでも協力します」
お婆様はお爺様以上に僕を抱きしめてくれた。
「可愛いラグ、アデレイド、貴方のお母様は貴方が生まれて来た日に、とても幸せだと言っていたわ。
最初は産後の肥立ちが悪いと思われていたのに、本当は毒だったなんて……!」
ベッドから殆ど起き上がることが出来なかったけど、いつも僕の前では微笑んでくれていたって。
公爵家の屋敷ではひとりぼっちで過ごしていたと思っていた。
パパからも聞かされていたけど、そうせざる負えなかったって、侯爵家の方で面倒を見たかったけど、こっちにはパパに懸想する伯母様がいたから、それも出来ずに殆ど交流する事が出来なかったそうだ。
僕は初めてお母様と過ごした時の事や、どれだけ愛されていたかを聞かされて、余計に悔しくて腹立たしくて許せなかった。
「伯父様は息子たちが自分の種じゃないと分かっていても、本当の父親は分らなかったのですか?」
「分からなかった。
心当たりが多すぎて」
「はぁ?!」
どこまで自己満足の自己犠牲なんだ。
「洗脳でもされてるんですか? 魅了魔法とか」
「「「!! それだ!」」」
一斉に皆が声を上げた。
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