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しおりを挟む辺境伯として侯爵家の門をくぐり、その当主に挨拶をするために通された応接室で待っていると、パパとは似ていない小柄でどこか挙動不審と言うか、目を合わせようともしない伯父様だった。
パパと僕はボウ・アンド・スクレープで挨拶をした。
「グリウス侯爵様、辺境伯デ・ドアイスがご挨拶もう上げます」
「息子ラグノーツがご挨拶を申し上げます」
この世界では辺境伯って本当なら他の諸侯とは一線を画した存在だから、パパから頭を下げる必要なんか無いんだけど、無駄な摩擦を起こす必要もないって考えるから、先に頭を下げて挨拶したんだ。
それでも、相手は名乗らなかった。
「前翁侯爵はどちらに?」
挨拶もしない相手を無視して本題を突きつけた。
相手が礼儀を守らないなら、こちらも守る必要なんかない。
「ち、父上は、貴様にも、貴様の息子にも会わないと言っている!」
先に出した手紙には、僕に会いたいとしきりに書かれていたのに?
「グリウス侯爵、いや、兄上、一体」
「兄上などと呼ぶな!!
私は侯爵だ! お、お前みたいに、ただの運だけの奴とは違うんだ!
どれ程努力したと!」
言葉を詰まらせながら、ブルブルと震えるのは怒りなのか、恐怖なのか、それとも怯えているようにも見えた。
お爺様たちが会いたくないと言うのはおかしいので、この屋敷中を索敵してみた。
まぁ、案の定って言うべきか、地下の牢屋の様な部屋に二人は監禁されているようだった。
「パパ、どうするつもり?」
「ん? お前のデビュタントを、グリウス侯爵に後援してもらうつもりだよ?」
え? そこ?
「相手はものすごい嫌がってますけど」
「んふふ、そんな事ないよ~
ねぇ、兄上? いつまでそんな態度でいるつもりですか?
そろそろ本気で怒りますけど?
あぁ、義姉上にでも釘を刺されましたか?
私と関わったら離婚するとか」
「な、なんで、なんで、お前は、い、い、いつも、いつも!!
私を、ば、ばかに、して!」
ボロボロと泣き始めて、僕はビックリした。
「もう、兄上、いい加減にあの義姉上に言い返しなさいよ。
息子たちはどうしたんです?」
侯爵の背中をポンポンと叩きながら、頭一つ低い彼をパパは慣れた手つきで抱きしめた。
「うう、うう、私だって、お前みたいに才能や、美貌があれば良かったと思ってる。
あれらが私の息子かどうかも怪しいと、いつも考えてしまうと私は孤独と恐怖で、眠れなくなるんだ」
どう言う事? 托卵なの?
「伯父様? その僕の従弟にあたる方々は?」
美中年のパパに比べて、背も低く目の下にクマを作って泣いてる伯父に、庇護欲がそそられなくもなかった。
「息子たちは、街へ遊びに出かけている」
「先触れも出していたのに……」
呆れたようにため息を吐くパパに、伯父様は私が許可したんだ、と慌てて付け足していた。
「それでも、お爺様とお婆様を地下の牢屋みたいな場所に監禁しているのは如何なものかと」
「まさか! 兄上が!?」
「ち、違う!!」
随分奥さんと息子たちが父親を蔑ろにして、散財しているのが見て取れた。
「離婚しろとは言わないが」
「お前みたいに、何でもできる奴には分からない!
息子も、こんなに美形で、悔しい、悔しい」
子供みたいにいい年した伯父様が、パパの胸で泣きじゃくるのは、かなり不愉快だった。
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