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「きっとエリならこの気配の正体が分かったんじゃないかって思います」
俯き加減でアモが言うのは、アースドラゴンなら洞穴の中を探知できるだろうって事だと容易く想像できた。
「そうかな? 今だってはっきり何って言えないなら、分からないのと同じでしょ。
それにさ、アモの方が世界を色々見て来て、経験も見聞も広いでしょ」
セバスチャンと連れ立って中へ行くと、一歩下がった後ろからアモが自信なさげに、あの頃とは違う、と消え入りそうな声で呟いた。
いつの間にこんな自信のない子になってたんだろう。
ブラック企業で働いて鬱になってる会社員の様なアモに、今は掛ける言葉が思いつかなかった。
「アモ、ロッシの一員としての矜持を持ちなさい。
ラグ様をお守りし、旦那様に使えるのが私たちの使命です。
ドラゴンだのと拘るのはおやめなさい」
辛辣なセバスチャンの言葉が、隣で聞いてる僕にも突き刺さった。
「セバス、今のアモには厳しいよ。
劣等感と自己評価が下がってる時に、言葉の追い打ちはしちゃダメだよ」
「ですがラグ様っ」
「セバス、僕はアモなら誰よりも知識があると思って連れて来たんだ。
アモも、僕の為に今まで見て来た事、知り得た知識を惜しみなく発揮してくれないかな?
ドラゴンでも、ニーズヘッグでもない、アモという僕の側近として」
俯き加減だった顔を漸く上げて、目を潤ませながら僕をしっかりと見てから頷いた。
多分この世界を何千年も生きて来たアモにはニーズヘッグの役割より、僕に知識のりんごを与える蛇になって欲しかったんだ。
安易にドラゴンじゃなくても良いって言っても、アモにとっては簡単な事じゃないって分かってはいた。
「ラグ様、そこの奥にあの気配が、って、あれ? え?」
アモが突然気配について緊張感が抜ける様な声を上げた。
「アモ?」
「アモ、何ですか?」
僕とセバスチャンで怪訝な顔をすると、アモはそれこそ( ゚Д゚)こんな顔をして、だって、と言葉を繋いだ。
「緑頭殿ですよ」
その言葉を聞いた時、セバスチャンも同じくエ?って言葉しか出なかった。
「んん、その気配が緑頭ってどう言う事だ?
緑頭ならこんな事というか、隠れてる意味が分からん」
最近姿を見せなかった理由がここに有るのか、という疑問もあった。
「知ってる様な気配でしたが、近くに来てようやく緑頭殿だと確信しました。
ただ、他にも気配が混じっていて、分からないのです」
「それなら行くしかないな。
緑頭がいる事は確実なら、何か巻き込まれて身動きが出来ないのかもしれない。
慎重に近づこう」
精霊王である緑頭が巻き込まれるって余程の事だ。
「チビッ子達もいないな」
探りを入れる為に緑頭の眷属のチビッ子達を探してみたけど、誰も反応しないし近くに精霊なんかの類もいなかった。
「う~ん、緑頭なら呼べば来そうだけど、こんなに近づいてるのに向こうも気づかないって、おかしいよな」
世界樹の気配と似てる、それに緑頭は確かに符合するけど、それだけなら気配が二つはおかしい。
それに、精霊の気配が全くない洞穴で潜伏してる意味が分からない。
「緑頭! ここに来い!」
いつものように呼んでみても、反応が無かった。
それこそこの先にいるはずなら、声だって聞こえたはずだし何かしらの動きがあるはずだった。
僕の守護者なんだから。
「緑頭の保護膜みたいな気配は常に感じてるのに、反応が無いのはおかしい。
この先にいる者に緑頭が何かしらの危機に巻き込まれてる可能性が高いと思う」
これには二人とも同意した。
アモの行動はそこから早かった。
索敵をしたあと、やはり二人の存在がありその一つは緑頭で間違いがなく、もう一人の存在は世界樹と似たような感じがするが、分からない、その部分は同じだが近づいた事で緑頭の今の状況が大分探れた。
「まるで、眠っているような、緑頭殿の存在が薄くなってきているような、不安定な感じです」
「そうか、この保護膜の様な気配のこれ自分の魔力をにつぎ込んでいるのだろう。
その分からない存在とご対面と行こうじゃないか」
僕にとって危険だからなのか、それとも別な意図が有るのか。
洞穴の足元は暗く、アモが魔法の火を点して行く先を照らすが、その先は飲まれるような闇が広がり魔法で点された明かりさえ飲み込まれて行った。
「足元を確認するだけで精いっぱいだな」
「ラグ様、手を繋ぎましょう」
セバスチャンの尤もらしい申し出に一瞬ためらったが、さすがにこの闇の中で虫にでも遭遇しようものなら叫ばずにいる自信が無かったので、有難くその手を握らせてもらった。
「セバスチャン様、私もラグ様の反対側に」
「いや、私だけで十分だから、アモはしっかり先頭を照らしておくれ」
なんの攻防だよ。
「僕は、虫が出さえしなけりゃ何でもいいから!」
急ごうと二人を急かした。
だって光に虫は集まるじゃないか。
あんまりゆっくりしてて、虫が飛んで来たらどうするんだって考えたら、いても立ってもいられなかった。
平坦とは言い難い場所をなるべく音を立てないように進むと、岩陰から淡い光が漏れているのを見つけた。
ジェスチャーを駆使して、そっと近づき挟み撃ちの様にアモとセバスチャンが回り込み、僕が正面に立った。
「っ!! 緑頭殿!!」
「どうしたのですか!?」
二人がほぼ同時に叫ぶように声を上げ、緑頭の状況が思わしくない事を知らせた。
そして、緑頭はそんな状況下にいながら、その腕には小さな赤ん坊を抱えていた。
俯き加減でアモが言うのは、アースドラゴンなら洞穴の中を探知できるだろうって事だと容易く想像できた。
「そうかな? 今だってはっきり何って言えないなら、分からないのと同じでしょ。
それにさ、アモの方が世界を色々見て来て、経験も見聞も広いでしょ」
セバスチャンと連れ立って中へ行くと、一歩下がった後ろからアモが自信なさげに、あの頃とは違う、と消え入りそうな声で呟いた。
いつの間にこんな自信のない子になってたんだろう。
ブラック企業で働いて鬱になってる会社員の様なアモに、今は掛ける言葉が思いつかなかった。
「アモ、ロッシの一員としての矜持を持ちなさい。
ラグ様をお守りし、旦那様に使えるのが私たちの使命です。
ドラゴンだのと拘るのはおやめなさい」
辛辣なセバスチャンの言葉が、隣で聞いてる僕にも突き刺さった。
「セバス、今のアモには厳しいよ。
劣等感と自己評価が下がってる時に、言葉の追い打ちはしちゃダメだよ」
「ですがラグ様っ」
「セバス、僕はアモなら誰よりも知識があると思って連れて来たんだ。
アモも、僕の為に今まで見て来た事、知り得た知識を惜しみなく発揮してくれないかな?
ドラゴンでも、ニーズヘッグでもない、アモという僕の側近として」
俯き加減だった顔を漸く上げて、目を潤ませながら僕をしっかりと見てから頷いた。
多分この世界を何千年も生きて来たアモにはニーズヘッグの役割より、僕に知識のりんごを与える蛇になって欲しかったんだ。
安易にドラゴンじゃなくても良いって言っても、アモにとっては簡単な事じゃないって分かってはいた。
「ラグ様、そこの奥にあの気配が、って、あれ? え?」
アモが突然気配について緊張感が抜ける様な声を上げた。
「アモ?」
「アモ、何ですか?」
僕とセバスチャンで怪訝な顔をすると、アモはそれこそ( ゚Д゚)こんな顔をして、だって、と言葉を繋いだ。
「緑頭殿ですよ」
その言葉を聞いた時、セバスチャンも同じくエ?って言葉しか出なかった。
「んん、その気配が緑頭ってどう言う事だ?
緑頭ならこんな事というか、隠れてる意味が分からん」
最近姿を見せなかった理由がここに有るのか、という疑問もあった。
「知ってる様な気配でしたが、近くに来てようやく緑頭殿だと確信しました。
ただ、他にも気配が混じっていて、分からないのです」
「それなら行くしかないな。
緑頭がいる事は確実なら、何か巻き込まれて身動きが出来ないのかもしれない。
慎重に近づこう」
精霊王である緑頭が巻き込まれるって余程の事だ。
「チビッ子達もいないな」
探りを入れる為に緑頭の眷属のチビッ子達を探してみたけど、誰も反応しないし近くに精霊なんかの類もいなかった。
「う~ん、緑頭なら呼べば来そうだけど、こんなに近づいてるのに向こうも気づかないって、おかしいよな」
世界樹の気配と似てる、それに緑頭は確かに符合するけど、それだけなら気配が二つはおかしい。
それに、精霊の気配が全くない洞穴で潜伏してる意味が分からない。
「緑頭! ここに来い!」
いつものように呼んでみても、反応が無かった。
それこそこの先にいるはずなら、声だって聞こえたはずだし何かしらの動きがあるはずだった。
僕の守護者なんだから。
「緑頭の保護膜みたいな気配は常に感じてるのに、反応が無いのはおかしい。
この先にいる者に緑頭が何かしらの危機に巻き込まれてる可能性が高いと思う」
これには二人とも同意した。
アモの行動はそこから早かった。
索敵をしたあと、やはり二人の存在がありその一つは緑頭で間違いがなく、もう一人の存在は世界樹と似たような感じがするが、分からない、その部分は同じだが近づいた事で緑頭の今の状況が大分探れた。
「まるで、眠っているような、緑頭殿の存在が薄くなってきているような、不安定な感じです」
「そうか、この保護膜の様な気配のこれ自分の魔力をにつぎ込んでいるのだろう。
その分からない存在とご対面と行こうじゃないか」
僕にとって危険だからなのか、それとも別な意図が有るのか。
洞穴の足元は暗く、アモが魔法の火を点して行く先を照らすが、その先は飲まれるような闇が広がり魔法で点された明かりさえ飲み込まれて行った。
「足元を確認するだけで精いっぱいだな」
「ラグ様、手を繋ぎましょう」
セバスチャンの尤もらしい申し出に一瞬ためらったが、さすがにこの闇の中で虫にでも遭遇しようものなら叫ばずにいる自信が無かったので、有難くその手を握らせてもらった。
「セバスチャン様、私もラグ様の反対側に」
「いや、私だけで十分だから、アモはしっかり先頭を照らしておくれ」
なんの攻防だよ。
「僕は、虫が出さえしなけりゃ何でもいいから!」
急ごうと二人を急かした。
だって光に虫は集まるじゃないか。
あんまりゆっくりしてて、虫が飛んで来たらどうするんだって考えたら、いても立ってもいられなかった。
平坦とは言い難い場所をなるべく音を立てないように進むと、岩陰から淡い光が漏れているのを見つけた。
ジェスチャーを駆使して、そっと近づき挟み撃ちの様にアモとセバスチャンが回り込み、僕が正面に立った。
「っ!! 緑頭殿!!」
「どうしたのですか!?」
二人がほぼ同時に叫ぶように声を上げ、緑頭の状況が思わしくない事を知らせた。
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