モブですけど!

ビーバー父さん

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 顔色が変わっていくミッドに、猜疑心を植え付けられた神官や教徒たちは、益々動揺した。

「ミッド様? 一体どういう事なのでしょうか?」

 神官の一人がようやく疑問を口にした。

「こ奴らの言う事など」
「いえ、サリエル様が王の子ではないと言う事を、ミッド様はご存知だったんですか?!」
「ええい! 世迷言を! このような奴らが持って来た物など、何の証拠にもならん!」

 あれ、証拠にならないかな?

「この日記、サリエル殿下のお部屋にありましたし、ここにあるお名前は?
 本当の父親は戦争で戦死したってありますけど、ほら、ここ」

 僕が日記を掲げて見せると、表紙の内側にロマノッティと言う署名があった。

「ロマノッティは皇后様のお名前!! サリエル様のお母上です!!」

 神官が指さして、皇后の名前だと認めた。

「ならば、これは皇后様の日記と言う事ですね。
 サリエル殿下、どこの誰の子なんでしょう?」

 戦死したと書いてあるが、名前はどこにもない。

「本当は戦死したように見せかけたミッド様ではないですか?」

 とうとう神官の一人が先程から撒いていた思わせぶりな言葉を拾ってくれた。
 ざわざわとざわつくこの場所が、神殿の一角であると言う事もあって、段々と人が増え始めた。
 神官は当たり前で、信者までが集まってミッドを糾弾し始めていた。

「ミッド殿はいつから宰相だったのですか?
 戦争前から? それにモアレティ様と兄弟だったはずでは?」

 パパがさらに追い打ちをかけるように、疑問を投げつけた。

「ミッド様が宰相になられたのは、皇后様が暗殺されてその主犯が前宰相で処刑された後、暗殺を暴いたミッド様を国王が宰相にされたんだ。
 当時は王室騎士団の団長で戦争から戻ってその功績で侯爵になられた方だったが……。
 確か、皇后様が功績をお認めにならなくて、かなり不穏だった覚えが」

 この国って結構政治的な部分ってどうでも良いのかよ?
 獣人だからとは言いたくないけど、これじゃぁ獣人だから緩いんだとしか思えなかった。

「元騎士団長なら、皇后との接点も多かったでしょうね。
 戦死したという報告を皇后だけが受け取り、戻って来たミッド殿が邪魔だった訳だ。
 お互いの目的が変わって、先に皇后をを暗殺し巻き込まれたのが前宰相と言ったところですか?」

 パパが大体の部分を補完して話せば、当時を知る神官たちが納得をした。

「そんな証拠がどこにある!」

「無いですよ、でもね、サリエル殿下が国王の子では無いと言う証拠なら、ここに。
 サリエルが国王にならないと、ミッド殿に何かしら損失でも?」

 あるとは言えない状況だろう。

「では、本当の王位継承権があるモアレティ様を私たちが連れて行っても?」

 パパがそう投げかけると、彼らの態度は一転した。
 神官たちは手のひらを返したように、正当な獣神の系譜を絶やしてはならないなど、本当に好き勝手なことを言い始めた。
 
「僕は、アシッド様を伴侶に出来るなら、この国に残ってもいい」

 ここへきての爆弾発言! しかもそれってアシッドも了承済みなわけ?

「いやいや、私はラグ様と国へ帰ります。
 モアレティ様がこの国で無事に過ごせるなら、その方がいいです」

 えっと、アシッド、そんなに全否定しなくても。
 さっきまで何かいい雰囲気の二人だったじゃない。

「モアレティ様、私は伴侶を持つことは考えておりません。
 ラグ様が人生の全てですので」

 恭しく礼を取るアシッドに、モアレティは一瞬だけ瞳を大きく見開いて、静かにその視線を足元へおろした。

「分かって、いました。
 アシッド様が僕に優しくしてくださるのは、ラグノーツ様が名前を付けて下さったからだと。  
 あの暗い場所に鮮やかなアシッド様が現れて救い出された時、まるで神様のように感じましたが、ラグノーツ様が名前を下さった時、繋がった事で理解しました。
 本当の神の代弁者はラグノーツ様だったのだと。
 だから、ほんのちょっと、試してみただけです。
 ふふ、アシッド様、僕がこの先この国で王として頑張ります。
 いつか、いつか、そう遠くない未来、この国にまたおいで下さい。
 逃がした魚は大きかった事を、悔しがってくださいね」

 成長した。
 モアレティは獣神の眷属だからか、この国の全てを理解していたようだった。

「ミッド兄様、いえ、ミッド宰相。
 貴方は奸計を巡らせすぎました。
 どうかその罪を償ってください」

 血は全く繋がらないサリエルの処罰は、生殖器を取り除いて再生させると言う事で落ち着いた。
 僕はやりたくなかったけど、ゲオルグに治癒させるのはもっと嫌だった。
 それに、モアレティがこの城へ連れて来られて、二人とも処刑されそうだった時に、唯一反対したのがサリエルだったとか。

「きっと自分の血が王族の物ではないと知って、モアレティ様を失う訳にはいかないって本能で理解していたんだろうね」

 僕は隣室で横たわるサリエルの体を治癒し、そして、最後のお別れをしてこの国を出ることにした。

「さぁ、ラグ、船に戻って国を目指そう」

「俺は腹減った、旨いもの食わせてくれ」

 アシッドは、モアレティの指先を握ると、チュッとその先にキスをして離れた。
 僕らは地脈を使って、その場を後にした。
 
 いやさ、皆が呆けてる間に逃げ出しておかないとね。


 

「アシッド、アレはちょっと可哀そうじゃない?
 全否定して振ったのに、思わせぶりな事したらさ、思いが残っちゃうじゃん」

 船についてから、アシッドにそう言うと、不敵な笑いを浮かべて、私を試したのが悪い、とだけ返って来た。

 う~ん、満更でもなかったんじゃない?









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