モブですけど!

ビーバー父さん

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 ヒュッと音がした。
 その瞬間、後ろの木が斜めに倒れた。

「うわっ! パパ?!」

 パパが持つ剣の勢いで空気が裂け、森の木々が無惨な姿になろうとしていた。

 ヤバイわ、あれ。

「旦那! ラグがいる!」

「パパ! ダメ!」

 これ以上、無駄な伐採をさせる訳にはいかない。
 ものすごいスピードのパパの前に立ちはだかると、既の所で鋒が止まった。

「フーッ、フーッ、ハァ、ハァ。
 ラ、グ、ラグ、だ」

「そうだよ、パパ、お疲れ様」

 パパの首にユルッと腕を回して抱きついた。

「ラグ、すまない」

「ううん、パパに無理させてごめんね」

 そう言ってパパの背中をトントンしていると、脇の下に腕が突っ込まれて猫のように持ち上げられた。

「うんうん、そうだよな、ゲオルグの旦那にとっちゃ面白くない絵面だよな」

 ヒューゴがしたり顔で頷きながら、ひょいと抱き直したゲオルグに親指を立てた。

 何でだよ?

「早くミッド殿の所へ」

「あ、そうだ、急がないと」

 僕はゲオルグに抱えられたまま、ミッドがいる屋敷に向き直った。
 
 ゲオルグに下ろして、とボディタッチをすると、後ろから囲うように前に立たせてくれた。

 何だろ、この威嚇した感じ。

 いざ使用人を探して訪問を伝えようとしたが、下働きの者さえいなかった。
 それこそ外の騒ぎを聞きつけて警戒するのが普通なのに、屋敷から誰かが出てくる事もなかった。

「勝手に入りますよ~、お邪魔しまーす」

 僕は恐る恐る扉を開けて中を覗くと、予想だにしなかった光景が広がっていた。

「うっ!」
「ラグ!見るな!」

 見るなって言っても僕が先頭だもの。

「使用人? なのかな?」

 玄関ホールにはそこら中に血肉が飛び散り、その肉の持ち主と思われる残骸が転がっていた。
 僕は前世ならとても耐えられそうに無い光景にも、人がいや獣人が死んでいる事に何も感じなかった。

 何も、は語弊がある。
 彼ら獣人からから受けた感情やその習慣に不快感はあれど、そう言うものだと受け入れられたが、ゲオルグを奪おうとした事は心底許せなかったのだと、この死体の山をみて気付かされた。

「大丈夫だよ、ゲオルグ。
 ショックより、自業自得としか思えなかったから」

 モアレティにした仕打ちもだけど、自分の手で彼らへの制裁を下せなかったのが、悔しいとさえ思った程だった。

「ミッドを探そう」

「あ、ああ、そうだな」

「ラグ、怖い顔してるよ?」

 ヒューゴが気圧されるくらい、僕が怖いってパパが指摘してくれた。

「なんか、さ、許せなくて。
 僕のゲオルグを奪おうとしたり、モアレティ様への仕打ちにも、獣人国の慣わしにもうんざりだと思っちゃったからかな」

 乾いた笑いを作って、強ばった表情を隠した。
 ユグドラシルの時に感じた怒りにも似ていた。
 
「大丈夫だ、ラグ。
 私はお前しかいらないし、愛さないからな」

 ゲオルグに抱きしめられていても、ざわついた感情が凪ぐことは無かった。

「急がないと追ってが来ます、ラグ様!」

 アシッドが警戒しながら、僕に進む様に促した。
 明らかに異常な屋敷内に、誰もが躊躇し警戒をしたが、気配を探っても生きている者を感じる事が出来なかった。

 
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