モブですけど!

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
183 / 219

182

しおりを挟む
 ゲオルグが廊下を先に歩き出す前に、アシッドに隠形の魔法を使うように指示を出した。

「ここはどこに繋がって、どこに行くんですか?」

 口の端を上げて、ゲオルグが笑った。

「ラグを罠にかけた元凶の部屋さ。
 漏れなく大騒ぎしてるとは思うけどな」

「そう仕掛けた訳ですね」

 沈黙は肯定だった。





 サリエルが連れ出されてすぐに、使用人たちがバタバタと出入りを繰り返した。
 惨状になってるベッドを片付ける者、ゲオルグ人形の動きを止めるように破壊して運び出す者、そして血まみれの敷物や家具、そういった物を運び出し始めた。

『早く探さないと』

『いっそ家具が無くなった方が探しやすいんじゃないか?
 敷物も持って行くようだし、新しい物と取り換える前に床を探ろう』

 ヒューゴの提案は尤もだった。

 バタつく使用人たちにぶつからないように、床のはめ込みや違和感がある場所を探してみたけど、それらしい隠し場所は見つからなかった。
 大体ここに何かあるって保証も無いんだけどね。

 カーテンを外した使用人が他の棚の敷物も持って行こうとした時、ちょっと偉そうなおっさんが、そこはいい!と声を荒げてくれた。

 使用人に触らせたくない、何かがあると告げているようなものだった。

『見つけたね』

『あぁ、何が出てくるのやら』

 使用人が手を出そうとして止められた場所は、小さな書架に掛けられた布だった。

『うーん、人の出入りが収まるのを待つには、時間が無いな』

『ラグ、陽動作戦と行こうじゃないか』

 ヒューゴとパパで手あたり次第他を破壊するから、その間に探れと言う事だった。
 そう言うと隠形のまま廊下へ出て、サリエルが向かったであろう、神殿の方向とは反対方向へと走り出した。

 ほんの数秒で大分離れた場所から、悲鳴やら怒号が聞こえ始めた。
 すると、この部屋にいた使用人たちも顔を青褪めさせて、急いで避難するように出て行った。

 いや、意外と思い通りに行くもんだな。

 人気の無くなった部屋で先程の書架の布を捲ると、数冊の本や小さな木箱が置いてあった。
 こんな風に布を覆っただけの書架の物が、そうそう重要だとは思わないけど、偉そうな従者は触ることを良しとしなかったのだから、何か理由があるとは思われた。

『これって……』

 中身を見ると誰かの日記だった。
 
 ~獣神紋は無かった。
  これは王族の子ではない、と言う証拠になってしまう。
  陛下との交合は決まった日にしか……。
  あの人の子だ~

 ~生まれた子が白かった。
  良かった、きっとあの人の血の中に王族の血が流れているんだ~

 ~陛下が気付いているみたいだ。
  どうにかしないと……~

 ~あの人が戦死した。
  これでこの子の血筋を疑う者はいなくなった~

 ~ミッドだと! あんな黒い者が王族にいるなど!~

 ~陛下がミッドを王族として認めてしまった~

 ~魔虫の毒を手に入れた、これから少しずつ使えば、きっと~

 サリエルは国王の子ではなかった?
 ミッドが本当の血筋?

 黒が不吉と言われている理由は昔からなのだろうか?

 木箱の中身を確認すると、小さな鍵が入っていた。

 いかにもな展開に、これってゲーム要素?補完し始めてるとかってないよね?
 
「誰だ!!?」

 隠形をかけているから見えるはずは無いのに、入口あたりから大きな声を出された。

『相手も見えないけど、こっちの気配が分かるのか?』

 僕が相手が使ってる魔法を探ろうとしたら、ゲオルグが姿を現して僕を力いっぱい抱きしめた。

「ラグ! 無事だったのか」

「ゲオルグ? どうして」
「ラグ様、地下牢で合流し、ここにミッド殿の弟君をお連れしました」

 アシッドまでが姿を現して、腕の中にいる小さな獣を僕に紹介した。

「あの、僕、ミッド兄様の弟で、ロアンです」

 綺麗な金色の瞳を持つ、小さくて痩せた獣はその名を口にした。


しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...