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181 ※残酷な表現があります
しおりを挟む衛兵が異変に気付きゲオルグ人形を壊した時には、既にサリエルの下半身は使い物にならないと、素人でもわかるくらい酷い有様だった。
「殿下!! しっかりしてください!
誰か! 神殿から神官を!!」
いくら獣人とは言え、その体から大量の出血しかも肉を刻むような状態の傷では、高度の治癒魔法でもない限り普通では治せないものだった。
『傷ついて糜爛した肉は切り落とすしか無いだろうな』
『ラグ、君が気に掛けることは無いよ。 あれは自業自得だ』
ヒューゴですら目を背けた惨状に、僕はほんの少しの罪悪感を感じた。
『ゲオルグの旦那、ラグを蜘蛛たちの中に放り込んだってのにマジ切れしたんだな』
え?
『だってよぉ、までに俺たちが野営でって話した時に、ラグがキレただろ?』
『うん、虫はほんとダメ』
『あのあと、せっかくの鉄板もなくなっちゃうし、俺たちも悔しかったしなぁ』
それはヒューゴたちが食いしん坊だからだろ!
『なんだ、ラグ、そのテッパンとやらは?』
パパが食いついちゃったじゃないか!
『えーっとまぁ、その、色々焼いて食べるので』
『パパ、食べて無いよね?』
『あ!、ほらサリエルが連れ出される!
今のうちに、部屋を見て回ろうよ。
ミッド殿が有利になる何かないと……』
ここで神官たちを待つより、連れて行くという判断になったのか、シーツごと包んで衛兵が抱き上げて出て行った。
打ち壊されたゲオルグ人形が、未だにカクカクと腰を振り続けているのが滑稽だった。
地下牢がこれだけ騒がしくしてのに、新手の来る気配が無かった。
「ゲオルグ先生、どうしたんでしょう? この静けさは?」
「そろそろ、あのサリエルの惨状がバレた時分だろうから、そっちの方が忙しいのではないか?」
アシッドが、は? 惨状? と素っ頓狂な声を上げて、腕に抱いている小さな獣は耳を伏せた。
「あぁ、驚かせてしまいましたね。
大丈夫ですよ、これからお兄様の所へ連れて行きますが、その前に私の主に会っていきましょう」
「僕、ミッド兄さんが困ることはしたくない、それに……。
汚いし、臭いでしょ?」
だんだん声が小さくなって、地下牢で本当の獣同然の扱いを受けていた体を恥じていた。
「お小さいのに、お気遣いが出来るのですね。
では、ラグ様に浄化の魔法をかけて頂きましょうね」
「ラグ様?」
「はい、この世で最も高貴で美しく、そして素晴らしいお心を持つ方です。
貴方の事もラグ様がとても気にしておりました」
「私の伴侶だ」
ゲオルグがすかさずアシッドの言葉に付け加えた。
「まだ、婚・約・者です!」
アシッドとの掛け合いを聞いて、小さな獣は喉の奥でクスっと笑った。
「さて、ここからはあの通路を行った方が早そうだ」
ゲオルグが指した通路とは、床にいや天井にポッカリと開いた縦穴だった。
「あー、そうですね。
あれってどこに繋がってるんですか?
って言うか、どこから来たんです?」
アシッドの言葉を無視して、跳躍するとそれぞれの階を足場にして、一気に穴を開けた階まで移動した。
「少し揺れますが大丈夫ですから、ね?」
「うん」
アシッドはゲオルグよりも高い跳躍で、ほぼ一気に辿り着いた。
「ふむ、さすがだな。
ロッシ家の者は私の生徒の中でも優秀だ」
「以前でしたらその評価はとてもうれしく思いましたが、今ではどうでも良いですね。
ラグ様からお褒め頂ければそれだけで、幸せです」
ふん、と鼻を鳴らしてゲオルグが廊下を先に歩き出した。
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