モブですけど!

ビーバー父さん

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「ラグ、パパとしては許したくないなぁ。
 獣人だから、なんて差別をする気はないよ?
 世界には亜人がたくさんいるし、獣人だけじゃなく広く異種族の関係をうまく繋いでる国はたくさんあるからね。
 でもね、このやり方は無いよ。
 自分が望む答えが出るまで、断っても否定しても言葉尻をとらえて、都合よく受け止めるんだろ?
 そんな奴とは話し合いにも協議にもならないからね」

 パパはこれまでのやり取りを考えてみても、許しがたいと判断したんだ。

「白紙、ではなく決裂ですね。
 僕たちが偽の情報に踊らされていたのは、こちらの調査が不足していたと言う事ですが、自分の望みをかなえるためだけに、誰かを盾に取ったり蔑んだりして交渉するのは無いと思いますよ?
 ゲオルグが結婚した、という情報を流して僕を離れさせて、それで?
 僕の気持ちがゲオルグから離れているとは思わなかったのですか?」

 僕はパパが告げた決裂、が正しいと思った。
 もう話し合いの段階はとうに過ぎていたから。

 不思議なのはこの計画がうまく行くと思ってたのかって事だ。
 ゲオルグにとっては嘘の噂が真実のように巷に流れていて、焦りとかもあっただろうけど、それを受け入れた僕が今更彼の元に行くとか本気で思っていての行動なんだろうか?
 
「僕がゲオルグの弱点では無かった場合、従者になんてなりませんよね?
 そこはどう思ったんですか?」
 
 サリエルに聞いてみた。

「ゲオルグはずっとラグノーツ様を探していました。
 地殻変動があった時狂ったように、貴方を探し求めていた、と聞いています」

 魔王化してなくて良かった。
 ゲオルグを振り返ると、くしゃっと泣きそうな笑顔で僕を見ていた。

「ゲオルグ、そうなの?」

「あぁ、私が解決策を考えてる矢先に起こった事で、多分お前が関わってると思ったからな。
 ギルドの転移魔法を使おうとして、止められて皆がいる場所へ駆けつけることも出来なかった。
 ラグがきっと一人で頑張って泣いて怒ってるんだって分かっていても、動けなかったんだ」

 ゲオルグは僕が蒼月だって知ってるからあの地殻変動が、世界樹を枯らしたことによる弊害だと理解出来ていたんだ。

 ゲオルグが、しゃがんで腕を広げてくれた。

「ラグ、待たせてすまなかった」

「僕、そんなに小さくないよ。
 しゃがまなくったって、」

 涙しか出なかった。
 ふらふらと引き寄せられるように、でもしっかりとゲオルグを見つめて、すぐそこにある腕に倒れこむように抱きついた。

「ラグ、一緒の墓に入るって約束したじゃないか」

 うん!うん! した、約束した!

「だから地殻変動があった時、世界樹に異変があったんだと覚ったら、居ても立ってもいられなかった。
 ラグを失ってしまうんじゃないかと、不安と怒りでどうにかなりそうだった。
 こんな世界、無くなってしまえば良いとさえ思った。
 私の力で、どれだけ破壊できるだろうか、ってそれしか考えなかった」

 魔王化の一歩手前じゃん!!

「でもゲオルグは、我慢したんだよね」

「そうだ、お前と初めて出会った学校が傾いて壊れた時、小さい体で必死にテストを受けていた姿を思い出したら、お前がいた痕跡迄失くしてしまうのは辛くて悔しいと思って守ることにしたんだ。
 だから、アイーラへの援助もしたし、ジョーハンへの援助もした。
 ラグが美味しいって言ってた食材が無くなってしまうのが、嫌だったから」

 僕のために、貢献するってすごいな。

「それにな、しばらく続いた地殻変動がピタッと止んだ時に、お前の魔力を感じたんだ。
 だから、諦めるわけにはいかなかった。
 ラグがどんな姿になっていようと、私の隣にいるべきはお前だけだから」

「ゲ、オルグ、僕、僕は」

「愛してる、ラグ」

「辛かった、結婚したって聞いて、悲しくて苦しくて、もうどうでもいいって思うくらい、寂しかった!!」

「うん、私もだ。
 お前の消息が掴めるまで、心は死んでいた。
 だからサリエルには感謝してる。
 バカで殺してやりたいくらい、恨んでもいるけどな」

「ふふ、一歩間違ってたら、僕らは取り返しのつかない事になっていたよね」

 もしかしたら僕は他の誰かを愛するようになっていたかもしれない。

「改めて、結婚してくれませんか? ラグノーツ・デ・ドアイス様」
「喜んで、お受けします……! ゲオルグ・カスターノ様!」

 抱きしめ合い、触れるだけのキスをした。

「綺麗になったな、ラグ」

「ふふ、少しは成長したでしょ?」

 見つめ合って、笑い合う、一番幸せな瞬間だった。


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