156 / 218
155
しおりを挟む「どういうつもりですか?」
「我らが欲しかったのは、この綺麗な花ですよ。
ね、ラグノーツ君」
最初から僕が目的だったのか。
「で?」
「冒険者であるゲオルグが婚約したと聞いていました。
相手はどんな鉱物の輝きより美しい銀髪に、磨き上げられた宝石よりも艶やかで透き通るような青い瞳を持つ美少年と聞いておりましたのに、ガーム国で開かれた結婚式へ向かうと相手は薄汚いメリア家の孫娘で驚きました」
そこからサリエルは満面の笑顔で、では相手と言われた美少年は? と芝居がかった声音で話しを続けた。
「ガーム国とは交易も有ります故、情報はたやすく手に入りました」
結婚式の時期なら、僕は世界樹に魔力を渡していた頃じゃないだろうか?
「マルロイ伯爵令嬢、ですよね。
ガーム国で結婚式を挙げたんですか。
ですが、それが何か?」
「冒険者ゲオルグは、ドアイス国の者でガーム国で式を挙げる理由がさっぱり理解出来ないんですよ」
「僕に聞かれても知りません」
「でね、よくよく調べてみたんですよ。
ドアイスでは、ゲオルグは未婚のままなんです。
変ですよね?」
え? ゲオルグ、未婚ってどうして?
「さぁ?」
内心、ドキドキしながらゲオルグの動向が気になって仕方なかった。
「ガーム国では妻子がいるっておかしいですよね?」
妻子、は確かにおかしい。
「カスターノ家の人間は一人も参列していませんでしたし。
でもね、噂だけは伝わってるんですよ。
ゲオルグ・カスターノはメリア家の当主に収まった、とね」
ガーム国の伯爵を継いだってこと?
でも、そうするとマルロイの家は?
カイサル家は一代限りの伯爵家だから、ドアイスで結婚しなきゃ意味がないんじゃない?
「カイサル家は、どうなったんでしょう?」
「さぁ、我が国はドアイス国と交易を開始したばかりでね。
その情報は持ってないんですよ」
嘘だ、僕はこの言葉の裏を気にして、サリエルが次にどんな行動に出るか見落としていた。
「むっ!!!!」
いきなり抱きしめられて、噛みつくようにキスをされ、口をこじ開けられて下を絡められた。
獣人特融の長い舌が、僕の下を絡めて根元からきつく吸い上げられた。
「ん!!、う、!!!」
無茶苦茶に暴れても、体格差に勝てない。
手足に魔法をかけて、身体強化をして殴っても、獣人のそれはビクともしなかった。
「綺麗な子猫が、可愛く跳ねても痛くも痒くもないですね」
「ふざけるな!」
体を離そうとしても、全然適わない。
「ふふふ、我ら獣人は魔法に対して耐性もありますし、身体強化程度の魔法では意味がないんですよ。
それに元々、身体能力は人がかける魔法の強化の数十倍ですから」
ポテンシャルが最初から違うって事か。
「なら、火や水はどうなんだ!?」
そういいながら、風魔法で小さなトルネードをサリエルの首に巻き付けた。
「おお、怖い。
こんな魔法を使われたら、私の首は簡単に落ちてしまいますね。
この魔法具がなければ」
そう言うと、装飾だと思っていた幾つもの宝石が僕の作ったトルネードを飲み込んだ。
「なかなかの利かん坊ですね。
では、お眠りなさい」
「は? なに、を、い、って……る」
魔法ではなかった。
多分、さっきのキスで舌をねじ込まれた時に摂取してしまったんだ。
僕は抗えず、眠りに落ちてしまった。
「ラグ君、起きて。
準備できましたよ?」
「んむぅ」
あれからどのくらい経ったんだろう、頭が痛い。
「あぁ、薬が効きすぎましたか。
ではこちらの解毒剤を」
「あ、」
サリエルは口移しで僕に解毒剤を飲ませた。
「ふふ、綺麗な瞳の周りに紅をさしたようなアイラインが綺麗ですね。
綺麗な花嫁だ」
は? 花嫁ってなんだ?
急に正気にさせられた言葉に、僕は自分の今の状況を確認した。
白いドレスシャツに、白いパンツ。
そして、レースで出来たヴェールを被せられて、椅子に座ってるお人形さんのようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,322
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる