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しおりを挟む緑頭から聞いた事を確かめるために、チビ達を通して現状を把握した。
歓待すると言う体の、軟禁だった。
確かにテーブルには豪華な食事が並び、素晴らしい装飾が施された部屋に従僕達が給仕をしているが、そこに明白に見せつけられた武器に悪意を感じた。
「セバスだって、ヒューゴだっていたのに!!」
僕は焦りと怒りで、感情を抑える事ができなかった。
護衛という意味でも動きを封じられていた。
どう言う手順だったのか、パパはこの獣人の国の要人と思われる人の隣に席を設けられていた。
まさしく、人質だ。
歓迎の意味を込めて、最高位の人の隣に席を作るのは当たり前の事だから、その流れでこういった事になったとしたら、容易い策略だった。
「パパ! 何があったの!?」
チビを通して、小さな羽ばたきにしか聞こえない音声を届けると、パパもそれを気付かせないように相手に確認を求めながらこの状況を知らせてくれた。
『交易自体の条件が変わっていたようだ……、私はこれから貴方達の国と、公正な取引をしたかったのですが?
これでは、人質になったと判断して宜しいか?』
『人聞きが悪いですなぁ。
なぁに、ドアイス様が我らの最も欲しい物を提供してくれるとお約束してくだされば、この先はいい関係が築けますよ』
パパの隣で赤ワインを飲む顔の半分近くに豹紋がある獣人が下卑た笑いを浮かべながら、パパにいうのが見えた。
うん、チビ達優秀!
数人? 匹? 連れて行かせたから、いろんな角度や敵の囁き声も拾えてる。
『貴方達の最も欲しいものとは?』
『一番ドアイス様がご存じでは?』
『さて? 初めて交流する種族の好みは分かり兼ねますが?』
冷静に穏やかに話すパパが、割と怖いのは何故だろう?
『ふふふ、今頃は貴殿の船に色々とトラブルが起こっている頃でしょう』
『! 貴様っ!』
ヒューゴが声を荒げた瞬間、パパが制止の声を静かに上げ、ヒューゴの無礼を詫びていた。
悔しい!!
船の上でアシッドとアモが獣人と揉め事に発展しそうなのは、こいつらの謀か。
「ミワ、エリ、ここに来てる獣人たちを捕縛して。
そして、向こうにその情報が漏れないようにして。
多分、見張りがどこかに隠れてるはずだから、緑頭はチビ達と探してそいつも捕獲してきて欲しい。
う~ん、先に見張り役を見つけて捕獲だな。
そしたら船室のどっかに結界魔法を多重にかけて、監禁しておいてくれる?
その後なら今来てる獣人に何しても構わないから」
「マスター、それは殺しても構わない、と言う事ですか?」
「そうだ、交易とは対等であるべきだ」
「ラグ様、私が奴らの喉笛を嚙み切って参りましょう」
「ラグ、ご褒美に久々のあの、ナッツの甘いのが食べたい!」
そこかよ! ご褒美のために頑張る精霊王って何?!
緑頭の緑頭たるクオリティが発揮された事で、どこか殺伐とした自分の感情が凪いで行った。
可及的速やかにこちらの事は片付いたので、チビ達を通してパパ達それぞれに伝えた。
「彼らの交渉、放棄しても大丈夫だよ。
セバス達なら、パパを守ってもそこから戻れるよね?」
『はい、ラグ様』
『おうよ! ラグ! 美味い夜食を用意して待っててくれ!』
ヒューゴの軽口が救ってくれる。
「では、チビ達よ、そこの明かりを消し、通路を作れるか?」
<精霊王しゃま、世界樹の根はもう存在しましぇん。
ですから、通路を作るのは難しいでしゅ>
あぁ、そうだった。
前にチビ達を使って映像やら、音声やらを繋いでもらって、その後僕が行きたいって言ったら世界樹の根を通るって言って、連れて行って貰えたんだった。
「マスター、私が地脈を作れますよ。
世界樹の根も、地脈に寄生していただけですから。
今この大地に私の力が浸透していますから、地脈を多少動かすのは容易です」
エリ! アースドラゴンだったわ。
しかも世界樹を滅してから、本来の姿になったんだった。
「エリ、パパたちを安全にこっちへ連れてきてくれる?」
「お任せを」
「アシッド、エリとアモを向こうに行かせて、パパたちを帰らせてもらおうと思うんだ」
獣人たちを捕縛して、戻ってきていたアモをエリと同行させる事にした。
「ドラゴン同士だし、良いですね」
「ね、エリとアモ、よろしくね」
二人は海の下にある地脈を船の中にまで移動させて、そこに通路を作り上げた。
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