モブですけど!

ビーバー父さん

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「やめっ!!」

「大人しくしてくれ、美しい方」

 横抱きにされて拘束魔法を使われたみたいで、まるで魚が陸に揚げられてビチビチと跳ねるような動きしかできなくなっていた。

「ラグ様!!
 貴様! どこの者だ!?」

「アシッド! 助け」

 僕はアシッドに向けて助けを求めようとして、急激に意識を失ってしまった。
 正確には、意識を失わされた、のだ。
 






「ラグ、目を覚ませ」

 耳元で聴き慣れた声がした。

「ラグ、ラグ!」

「んー? あっ!」

 捕まった事を思い出して飛び起きると、緑頭が僕の枕元に座っていた。

「緑頭、ここは何処?」

「海底都市、もしくは海底王国と言うのだろうか?
 半分は海底にある王国で、夜が明けるように潮の満ち引きで現れる国だそうだ」

「なんで、そこまで知ってるの?」

 緑頭の詳しい説明は、誰かが教えないと出てこない答えだった。

「海馬達から聞いた。
 水の精霊の端くれに属しているので、私はあれらから話を聞いて来た。
 この国の王が、竜王だと」

 は? 竜王?

「え? 何それ」

 寝かされていたベッドに立ち上がり、この部屋の装飾何かを見つつ、緑頭が言った海底にあると言うこの世界が見えそうな窓へ近づくと、ほぼ水面が見えてるだけだけど、確かに水平線の向こうは建物の屋根が沢山見えた。

「エリなんかの種族の王様って事?」

「いや、私が見る限り種族の違う人。  
 どちらかと言うと精霊の方に近いだけだ」

 いやいや、精霊に近い人ってなんだよ?!

「意味が分かんない」

「私もだ。
 精霊の先祖でもいたのかと思うが、人と精霊では子は成せないから、混じるはずがないんだ」

 へー、よくファンタジーじゃ獣人とか、精霊や妖精のハーフとかいるのに、この世界はきっちり分かれてるのか。

「誰かが、人を作り変えた? ならわかる気がするけど」

「それか!
 精霊が体内に入ったんだ!」

 確信を得た、と言った緑頭がこの半海底王国の人々の本質を人にあらず、と言い切った。

「精霊が憑依?」

「違う、精霊に何か特別な事情があって人の中に入り、そのまま定着したのだろう。
 海馬達に騎乗出来る人は存在しない。
 あれらの体はユニコーンと同じで、人を嫌うからな」

「処女童貞しか乗せないとか言う話しの?」

「正確には、穢れの無い人、もしくは精霊と同等の者だ」

 人は生まれ落ちたその瞬間から穢れているとこの世界の宗教は説いていて、神がその穢れに負けるかどうか人を試しているってやつだ。

「だから精霊の魂を持つこの国の住人は、海馬と言う精霊に騎乗出来るって事?」

「そうだ、それが納得いく」

 竜王と精霊じゃ全く違うし、緑頭の管轄なら扱いはそっちに任せて、僕はここから逃げる選択をした。

「緑頭だけが今ここにいるの?」

「皆、血肉があるからな。
 私は自在になるのでラグを追えた」

 アストラルとかエーテルと言われるものが緑頭の形になり、精霊王として存在してるならここの竜王とやらもどちらかと言えば、配下に属してるんじゃないだろうか?

「精霊がって話しなら精霊王である緑頭の領分だろ?
 僕は逃げようと思うんだけど」

 緑頭は少し考え込むような表情をしてから、違う、と答えた。

「あれらは人だ。
 精霊は定着して血肉を得たから、精霊界の者たちではない。
 新しい種族になるのだろう」

 新種発見みたいな話かよ!?
 深海魚とか新種がウヨウヨいそうだしな。
 
 そんな事を考えていたら、この部屋の扉の向こうが騒がしくなり始めた。

「しまった!
 緑頭、皆んなにこの場所を教えに行って!
 姿を消すんだ!」

「うむ」

 スッと消えた緑頭と同時に僕はベッドへ戻り、急いで意識のないフリをした。

 バンッ!!

 ドカドカと大きな足音を立てて、数人が部屋へと入り僕の意識を確認された。

「まだ目覚めぬのか!?
 何故ここまで意識を奪ったんだ!!」

 聞いてるだけなら凄いイケボの男が声を荒げて、僕を横抱きにして拐ったあの男を怒鳴りつけた。

「この様に長い時間はおかしいとは分かっておりますが、手段がありません。
 侍医に確認させましたが、眠っているだけだと」 

「余は早く此奴の顔が見たい!
 お前が言う様に、美しいのだろ?」

「はい、それはこの海の様に青い瞳でした」

「ふふふ、銀の髪に青い瞳、この鼻筋ならかなりの美形だろう」

 音は一緒だけど、僕の瞳は蒼だからな!
 色も同じだけどさ!
 でも、なんとなく漢字になったら蒼の方がカッコいいだろ? と中二病な事を考えていた。

 早く部屋から出ていってくれー!

「陛下、この者をペットにするなら躾が肝心ですぞ
 首輪をご用意致しましたので」

「うむ、装飾が素晴らしい。
 魔石に従魔法が付与されておるのか。
 だが、余の手で従えたいものだがな」

 はあ?! 何だそれ!!
 
「首輪を先に付けておくとしよう」

 首に手が掛かって首輪をさせられる前に、その手を弾いて首輪もろとも飛ばした。
 
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