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しおりを挟む「マスター、多分、私みたいな進化はマスターが名付けないとならない。
だから、アモはアモのまま」
アモはロッシ家のこになったから、まあ、正直どうでも良いや。
「エリ、もう、痛いことや心が傷つく様な事はない」
「ありがとうございます」
こうして二匹目のドラゴン騒動は幕を閉じた。
朝イチに出発するはずが随分ロスをしたけど、その後は順調に国境から海へ出て西へと向かう事が出来た。
三年前、ドアイスを出た時の船出は希望と不安が渦巻いていたけど、今は皆んながいる。
そして、碌に過ごしていない十五歳が半年弱しか残っていなかった。
「ラグ様、海風はあまり当たり過ぎない方が宜しいかと」
「ふふ、懐かしい気持ちになってたよ」
あの時は顔を隠して生きていくはずが、ゲオルグの為に晒した今この姿が、なんとも滑稽だった。
「アシッド、次の国に着いたら、僕はこの姿を隠して、平民になるから様を付けないように。
僕がアシッド様と呼ぶようにするからね」
元に戻るだけだ。
平民の料理人ラグノーツに。
「それがラグ様のお望みであれば」
「ありがとう、アシッド」
海だし、魚釣って新鮮な魚介類、と思ったけど鑑定はゲオルグだったんだよなぁ。
「うーん」
「如何なさいましたか?」
「うーん、あのさ誰か鑑定レベルの凄い人いないかなぁ?」
「ラグ様以上の方ですか?」
「僕は鑑定は苦手でさ。
魚とか肉とか食材の鑑定をしてくれる人がいないかなぁ。
以前はゲオル、あ、いや、僕がもっとレベルをあげれば良いんだろうけどね」
てへって笑って誤魔化した。
「ラグ様、まだ十五歳です。
あんなおっさんに持ってかれなくて、本当に良かった、と私どもは思っております。
この先、ラグ様を娶るに相応しい方がいらっしゃいます。
大体、旦那様も反対していたでは無いですか……。
それに魔法使いだったおっさんが、偉そうな事を言って、ラグ様に尤もらしく口説いて騙した様なもんなんですから!」
アシッドの思い出し怒りが、段々と頂点に達し始めていた。
「い? あ、アシッド?」
「はぁはぁ、失礼しました。
あまりの怒りに我を忘れました」
「大丈夫?」
「はい。
鑑定魔法が、と言うなら旦那様が高レベルでは?」
パパが?!
バーサーカーといい、パパの能力を侮っていたのかも。
「パパは、辺境伯としての動きをしないといけないし、出来れば他の人がいいかも。
僕が料理をするなら、代わりに買い出してもらわないといけないし」
アシッドは顎に手を当て、ふむ、と頷いてどの程度の鑑定レベルがあれば? と聞いて来た。
「一番は、魚や肉、食材の鮮度、そして毒や病気に寄生虫までの鑑定が出来れば!」
「寄生虫? ですか」
「うん、魚とか動物には体内にそう言った悪さをする虫がいるんだ。
大体はそれらの環境によるんだけど、毒なんかは摂取し続ける事で毒を持つ個体もいるからね」
「つまり、摂取しない者は毒を持たない事もある?」
「そうだよ。
だから、鑑定して欲しいんだ」
改めて説明すると、あまりにも変なことを言ってるなぁ。
「畏まりました。
私で良ければ、鑑定を致します」
「え!? アシッドって鑑定スキルあるの?」
「はい、旦那様程ではありませんが、元魔法使いのおっさんには負けないと自負しております」
アシッドが胸に手を当てて、綺麗に笑って見せた。
「元魔法使いか、ふふ。
こっちでも、三十過ぎたらそう言うんだ?」
「はい」
こうやって、少しずつ笑って話せる時が長くなって、いつか本人を前にしても心は動かなくなるんだろう。
「アシッド、これからは鑑定を宜しくね」
「はい、ラグ様」
海原を見ると、キラッと何かが光った。
水面に沢山の魚が何かから逃げるように、凄い勢いで泳ぎ船の底に当たるような衝撃があった。
ゴン! ゴン!
「何だ!? これは? 何が起きてるんだ!!」
「ラグ様、船室へ避難を!!」
「だめだ! アシッドも!」
船が大きく揺れる程の高波が上がり、その波の中から現れたのはクラーケンだった。
「ラグ様!!」
アシッドが叫んだ瞬間に波に煽られた船体が大きく傾いて、僕の体は宙に浮いた。
「あ!」
クラーケンが浮いた僕の体を掴もうとその吸盤が付いた腕を伸ばして来た時、その後ろから更にクラーケンを追い立てた藍色の立髪を持つ白い大きな馬、いや海馬に乗った集団がその腕を切り落とした。
「ラグ様! 今行きます!!」
アシッドが船の縁に足を掛けて飛び出そうとしたのとほぼ同時に、馬上の一人がその背から飛び上がり、投げ出された僕を抱きとめた。
「ほぅ、美しいな」
「あの、ありがとうございます」
「良い戦利品だ。
王への手土産が出来た」
抱きとめた人は、海馬と同じく藍色の髪に不思議な銀の瞳で、僕を見つめ不穏な言葉を告げた。
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