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しおりを挟む魔力を持っていかれるのが止まったと思ったら、すっかり若返ったユグドラシルがはしゃいでいた。
「なぁなぁ、人の世界ではどうやって移動するのだ?」
「緑頭、説明してやれ」
ユグドラシルを相手にするのは、この魔力を持っていかれてる状態ではかなり辛かった。
「ユグドラシル様、ラグに面倒を掛けないでくれ」
「精霊王もラグノーツが大好きなんだな」
ニコニコと子供っぽい笑顔を浮かべて、遊園地にでも行くようなはしゃぎ方だった。
「ラグノーツの魔力は回復するから心配するでない。
私の中に取り込んだとしても、死ぬわけじゃない。
ゆっくりと世界樹の一部になって行くだけだったんだがな」
それは死んでるのと変わらないじゃないか。
まるで、丸飲みした蛇がゆっくりと消化をするような、そんな想像をした。
「悪趣味だな、アンタ」
「そうかの? ラグノーツの魔力は私のそれとは質が違う。
ずーっと飲み込んでいたいと思うのは当たり前じゃないかな?」
「糞爺、年寄は美味いものでも少しで満足するもんだ」
はしゃぐユグドラシルとは反対に、僕は寝転ぶように体を横たえ魔力が回復するのを待った。
「ラグ、私の魔力も分け与える」
緑頭が僕の額に金の輪をくっつけて、魔力を流してくれた。
ただ、魔力の系統が違うらしく、受け取れるのはほんの少しでしかなかった。
「緑頭、いいよ、大丈夫。
ほんのちょっとしか受け取れないから、お前の魔力は温存しておいてくれ」
「ラグ、すまん」
「守護者だろ、緑頭、頑張ってくれよ」
笑って言ってやると、力なく緑頭も笑った。
「ラグノーツ!! 早く行こうよー!」
「ちょっと、アンタの所為だろ?
まだまだ動けないんだよ!」
なんかブーブー言ってるけど、動けないのは動けないんだから仕方ないだろ。
「なら、ちょっと返す」
は? 返せるのかよ?
「それ、早く言ってくれよ」
緑頭が額をくっつけた様に、ユグドラシルも僕の額に自分の額をくっつけた。
おま、取る時はどっこも接触してなくてもバカスカ取ってった癖に、返すのはこれか。
「ほら、これでどうだ?」
ユグドラシルの体が少し老けたような気がした。
本当に僕の魔力で若返ったりするんだって、さっき目の当たりにしたのに、こんな風に返すだけでまた老けるとか、ちょっと可哀そうな気分になった。
ちょっとだけだけどな。
「あぁ、ま、ちょっと怠いけど、動けなくはないな」
「なら行くぞ! 早くしないと時間軸のズレが激しくなる」
「え? 時間軸がずれるってどういう事?」
世界樹の外へ出るために先頭をユグドラシルが歩きながら、時間軸のズレを話始めた。
「再生されると、時間が戻るんだ。
まぁ、ほんの少しだがな。
だが、再生が終わった今、その時間が進み始めてる」
あれか、浦島太郎的な時間のズレが起きてるのか?
「ラグノーツ、心配するでない、ほんのひと月ほどが今のズレだ。
だが遅くなればなるほど、ひと月がふた月になり、半年、一年、数年となる。
巻き戻る時間が十年くらいだとしたら、進む時間もそれだけ早い」
外に出たら、パパ達はもういないかもしれない?
そんな事絶対嫌だ!
「分かった、少しづつ、お前に魔力を渡せば、時間は巻き戻るだろ?」
「そうだな、だが、巻き戻ってもほんの数時間だ。
それなら早く行けばいいんだ」
緑頭が、それなら早く出しなさい、とユグドラシルをせっついた。
「行くよ~」
目の前の霧が晴れた様に真っ白な世界から、良く見慣れた世界が広がっていた。
「ここ、どこ?」
「ラグノーツが魔石を撒いた、あの土地だ」
見えない街の畑や建物が姿を消して、色彩豊かな花々が咲いていた。
「僕がこの世界から離れて、どのくらい時間が経ってるんだ?」
景色の変わり方が、不安を煽った。
「まだ、半年と言ったところだ」
見えない街の土地だとしたら、建物が無くなって畑から花畑になってるなんて。
不安を抱えたまま、ロッシの高台の屋敷へ向かった。
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