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しおりを挟む「私の大事なラグノーツ君に近づかないで貰えるかな?」
ゲオルグを引き留めたのはキアヌートと、蠢く様に這いよったセレニアだった。
嗤う顔は醜く歪んで、セレニアが呻いてる横で、この女は失敗だな、と吐き捨てた。
「クソッ!! 離せ!」
切り捨てられてもゲオルグに取りすがろうとするセレニアが、その足に無い手で絡みつこうとしていた。
「う、う、ゲオ、る、ぐ、さまぁ、酷いで、すぅ
わた、しはぁ、あな、たを、ずっと前から、愛して、いる、のに。
こんな、こんな、バケモノを、伴侶にする、なんて」
ミワが指摘した臭いは徐々に僕達にも分かるようになった。
それは彼女の時間だけが早送りされていたから、腐敗が進んで臭いが僕にも分かるようになっただけだ。
セックスしてすぐに子を孕んだかどうかなんて分かるはずない。
それが分かるくらい、彼女の時間が進んでいると言うことだった。
朦朧とする頭を振りながら、意識を集中しようとしてみるけど、難しくてセレニアの治癒をしてあげたくても、意識も感情すらも邪魔をして出来なかった。
セバスチャンの妹なのに、僕はやっぱりバケモノになってしまったんだ。
「ラグノーツ、いいぞいいぞ!! そのまま魔力を流してくれ!!」
こんな奴の思惑通りになるなんて、絶対嫌だ。
なのに……魔力が感情によって暴走したのなら平常心と思うけど、どんどん霞が掛かる様に意識が遠くなりそうだで、絡みつくセレニアを見ると余計に感情が昂って暴走が増した。
「ゲ、オル、グ、」
「ラグ、ラグ! 意識を手放すな!」
「ごめん、ゲオル、グ」
この暴走を止めるには、むしろ世界樹にこの魔力を差し出して、取り込まれてしまった方が良いんだ。
モブで生きるとか思っても、最初から無理だったんだよなぁ。
でも、好きな人と一生一緒にって言うのは叶いそうだ。
「神様、ごめん、みんなを、助けて……!」
腐っても神様、大量の光が僕を包んでくれて、早くあたしを呼びなさいよぉ、と言ってゲオルグの所まで運んでその腕に託してくれた。
「ゲオちゃん、千尋を任せたからね! ちゃんと暴走を熱いベーゼで収めてあげなさいねん」
ゲオちゃん!?
さすがBLの神様、破壊力パネェ!!
神様はゲオルグに絡みつくセレニアに憐みの目を向けて話しかけた。
「バカねぇ、アンタ。
女に甘えて、女であることが武器じゃないのよ。
この世界が異性恋愛しかない世界なら、それでも良かったでしょうけど。
この世界は、自由恋愛の世界なのよ?
何で人として努力しなかったのよ、残念」
そう言うと、セレニアを治療して腐った体を再生して、アンタあたしの千尋をバケモノって言ったから嫌いなのよ、と言い、それに女だしねと付け加えた。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!!!!」
自分の体が戻った事に歓喜の叫びを上げて、セレニアが喜んだ。
そして、その笑みはとても黒かった。
神様はキアヌートに向かって、下衆すぎるわね、と呟き後ろにいるセレニアにも忘れてた、と言って僕に向かって来ていたセレニアの拳を見て、振り返りながら言った。
「あ、千尋に変な事したらその体崩れるからね」
神様が告げた時には、既に僕に向かってあのバカ力を持った拳を振り下ろしていた。
「ガァァァ!!!」
その拳は僕に当たる前に砂の様に崩れて、何も無くなって行った。
「最期までバカだったわね」
勝手に神様は無償の愛を持ってるって思い込んでたけど、誰よりも非情なんだと分からせたこの表情を、僕は忘れない。
「キアヌートって言ったかしら?
アンタ、もうだいぶ前からダメなんでしょ。
生命エネルギー吸えてたのなんて百年くらい前まででしょ?」
「なんだ、貴様は、この力は何だ?!」
「なんだって、神様よ」
「バカな! こんな気持ち悪い奴が!」
「神様はオネェマッチョなだけで、気持ち悪くなんか無い!!
お前の方が、気持ち悪いわ! ハゲ!!」
僕は思わず叫んでしまって、暴走が黒い炎を走らせた。
キアヌートを攻撃しようとした黒い炎を、一瞬で握り潰したのは神様だった。
「千尋、この黒い炎は別な時に使いなさい。
来る時の為にね。
ありがとね、千尋」
抵抗するキアヌートをそのマッチョな体でぎゅうっとハグをすると、見る見るうちに年を取りシワシワになって、あっという間に体が崩れ落ちて、土になり砂になって搔き消えた。
「神よ、なぜもっと早く来て下さらなかったのだ!」
「精霊王、アンタね、自分の力もあるでしょ、それでも守護者なの?
もう、千尋が五歳児を寄越してって怒るのが分かるわぁ」
ふぅ、とため息をつきミワを見て、カッコいい聖獣ねぇって笑った。
僕はゲオルグに手を握られて、ぎゅうっと抱きしめてキスをしてくれた。
前に魔力暴走を熾した時のような、押さえ込むようなキスじゃなく、労る様なキスだった。
歯列から念入りに上顎、舌を撫でる様にそして魔力を落ち着かせた。
「大丈夫か? ラグ?」
「ゲオルグ、ゲオルグ!」
その胸に頭を押し付けて、この人の腕が僕のもので良かったと、心から安心した。
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