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しおりを挟むセレニアが力強く僕に笑いかけ、さあ、ここから出ますよ、と言って上に向かって拳を突き出すと、地上まで大穴があいた。
地盤沈下レベルだろ、これ。
セレニアが何をするか分からなくもなかったけど!
壊す前にガードしてからやれよ!
何だよ、その無駄に強い拳は?!
物凄い音と、岩盤が崩れた事で狭い場所が更に狭く、ガレキで埋もれて行った。
「おい! セレニア!
お前はアホか!
まず先に足場作れよ!
周りに気を配ってから、そう言う事はやれ! そしてやる事を事前に言え!」
咄嗟に結界を張り、ガレキを粉砕させたけど、量が量なので足元がかなり大変な事になっていた。
「セレニア、お前はボアードか!!」
ボアード?
「ボアード娘?」
「ああ、ラグはそうか、ボアとブードの亜種で、真っ直ぐ突き進むボアードと言う魔獣がいるんだ」
「あ、成る程!」
猪突猛進ね。
「あはは~、やっちゃいました……」
受付嬢の時から随分ちがうよ?
こっちが素なのか?
「兄からも考える前に動く癖をどうにかしろと言われていまして、ギルドではなるべく感情とか表に出さないようにしていたんですけど、つい」
あの恋心はやはり精神支配を受けていたんだな、きっと。
奥深いどこかに潜んでいたものを、無理矢理引き出したんだろう。
そう信じていたかった。
「地上に出ましょう、ラグ様」
ミワが体を大きく出来る様に、狭くなってる原因のガレキや、粉砕した石ころを更に砂状まで細かくしてスペースを確保した。
ミワの体を大きくすると、僕達三人をその背に乗せて、地上へと駆け出した。
ほぼ、飛んでるような感じだけどね。
「ありがとう、ミワ」
勢いよく高く跳び上がると、街を見下ろす事が出来た。
空を飛ぶわけじゃないから、長く観察する事は出来なかったけど、広大な土地に畑や果樹園、取り囲むように建立している家なんかが見渡せた。
これだけの広さを維持するなら、確かにかなりの魔力が必要だな。
そこでやっと二人の魔力の事を思い出した。
「二人は、キアヌートに魔力を取られなかったの?!」
「盗られていないと思うが、セレニアは精神支配を受けていたから分からんな」
「特には」
魔力をあれだけ欲しがってたのに?
とにかく、この街から出る事が先決だった。
「緑頭、この土地の一番魔力が強いところはどこ?」
この魔力を全部吸い取ってしまえば、維持できなくて崩壊することも出来るだろう。
「ラグ、あの男が来た」
地下から脱出したのは良いが、これだけ派手にやったら来るわな。
セレニアめ。
「ラグノーツ、君ってずるいなぁ」
凄く爽やかに笑うキアヌートが気持ち悪かった。
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ」
「ここの結界を壊そうとしてるよね?
でもさ、そうしたら今までゆっくりと流れてた人の時が外の世界に追いつくって事じゃない?
俺は良いよ? 別に、この土地が無くなるんなら居てもしょうがないし。
あぁでも、そこの二人から貰った生命エネルギーがあるから、俺は良くても、あの二人が一気に枯れちゃうんだろうなぁ」
まさか! 魔力は奪わなかったけど、生命エネルギーを奪ったのか?
「魔力は徐々に提供してもらうつもりだったからねぇ。
それに子作りしてもらって、その子に魔力が沢山あったらいいし。
子供が生まれてから貰えばいいやって思ってたからな」
それは人形だ、バカめ!
「人形がいくら頑張っても子供なんか出来るわけないだろ!」
「あれ? ちゃんと伝わって無かった?
アンタたち、してたよね? セックス、すごーく気持ち良さそうに。
だから、」
嘘、嘘、嘘!!!
「うそだ、アレは人形だった!
藁で出来た人形だった!!
ゲオルグ、セレニア! そうだよね!」
「そうだ! 人形で目くらましをしたんだ!」
ゲオルグがちゃんと言ってくれた。
「だそうだ、女? お前もそうか?」
セレニアは真っ青になりながら、ガタガタと震え始めた。
何? どうしたの?
「あれ、は、幻覚で、ほんとう、ではなくて、」
どういう事?
「あははは!!
人形で目くらましをする前の話だよな?
女はずっと、この男が欲しかったんだ。
嗤えるぞ? ラグノーツの姿になって押し倒したくらいだ」
僕は血の気が引いた。
こんなに、人を憎いと思った事があっただろうか?
女だから? 子供が産めるから?
子供を愛情の引き換えにするの? 盾に取るの?
「そ、そっか、セレニアって、僕になり変わってでも、ゲオルグが欲しかったんだ」
恋心を握り潰したはずだったけど、潰す前に叶えちゃってたからあっさり引いたとか?
「ラグノーツ様!! 私はそんなつもりじゃ!」
「へぇ? じゃぁ、どんなつもりで? 僕たちが伴侶だって知っててしたの?」
どす黒い感情がそのまま魔力になって垂れ流し始めた。
「凄いぞ! ラグノーツ! お前の魔力が一番だ!!」
「ラグ!! 私はしていない! 惑わされるな!!」
あの人形がリアル過ぎたんだ。
「ラグ様、しっかりしてください!!
こんな下衆な男の言葉を信じてはいけません!」
「ラグ! 感情を抑えろ!!
そのままでは体が壊れる!!」
緑頭が普通の成人男性のサイズになって、物凄く怒っていた。
怠い、だるい、息を吸うのも辛い。
「バカ者! 魔力暴走を熾している!」
黒い炎が今にも走り出しそうだった。
「た、すけ、て」
ゲオルグに手を伸ばそうとすると、セレニアがゲオルグに後ろから抱きついて、あれはバケモノです! と叫んでいた。
あぁ、そっか。
蒼月の瞳って世界樹を再生するくらいだもん、バケモノだよなぁ。
「ラグ様!
おい、そこの女、お前がセバスチャンの妹だと言うから我慢していたが、今の暴言を許す事は出来ぬ!
その腹の中が腐っているお前こそが、バケモノの子を孕んだ証ではないか!!
ゲオルグ殿の子では無いな、そこの痴れ者の子か
臭くてたまらん、死者の臭いだ」
「そうか、そういう事か。
ラグ、今行く」
ゲオルグがセレニアの体を振りほどきざま、その腕を切り捨てた。
「セレニア、可哀相だが私ではなく、そこの爺さんを相手にしてたんだ
ラグのこの姿でセックスなど、私は無理だからな」
そうだ、大人になってからって。
ゲオルグは真面目で、そういう所は絶対譲らない。
まして、今の僕の姿なら尚更だ。
信じて良いんだ。
応援ありがとうございます!
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