モブですけど!

ビーバー父さん

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 慎重に床板を剥いで、床下に開いた空洞へ下りて行くと、偶然出来た物では無いようだった。

 何代か前の養子の子か、もしかしたら意識を取り戻した誰かが掘ったのかもしれない。

 一人分がやっとの幅で前を体を小さくしたミワが、後ろを緑頭が見てくれていた。
 二人が薄く光ってくれているから、歩きやすくこの空洞の中をある程度のスピードを保って進むことが出来た。

「ラグ様、二人の匂いが強くなって来ました。
 近いかと思われます」

 ミワの優秀な鼻が、二人のが確実にここを通り、もしかしたらどこかで息を潜めている事を告げた。
 僕はそれが嬉しい筈なのに、さっきの人形の光景が頭を離れなかった。
 もし、人形だけじゃなく、本当に二人がそんな風になっていたら、僕はどうするんだろう?
 
 怖い。
 涼からは言葉だけだった。
『彼女が妊娠した』と。
 
 ゲオルグがもし、そうなっていたら?
 起こってもいない場面を想像して、苦しくなっているバカな自分がいた。

「ラグ様?
 どうしました?」

 ミワが、何かの気配を察して心配してくれる。 
 
「ごめん、大丈夫。
 ゲオルグを探さないと」

 匂いが強いと言った奥へ奥へと行くと、今度は上りになり割と急斜面を進んだ。

「匂いが新しいです!
 もう、近い」

「ゲオルグ! セレニア!
 いたら返事をして!」

 少し上の方で、小さな石が崩れて転がる音がした。

「ゲオルグ!! 僕だよ、ラグだ!!」

 必死に声に魔力を乗せて、なるべく小さな声で、でも遠くの方にも届く様にした。

「ラグなのか?」

「ウォン!
 ゲオルグ殿!」

 ミワが走って駆け寄ると、半裸のゲオルグとセレニアが抱き合っていた。

 うん、救護としての措置だ、絶対。
 そう言い聞かせて、二人の近くへと走る。

「ゲオルグ!!」
「ラグ! ラグ!!」

 ゲオルグはその胸に駆け込んだ僕を、しっかり抱き止めてくれて、必死にキスをした。
 本物だと確かめ合う様に。

「ラグ、ラグ、こんな所に」
「だって帰って来なかったから!!」

 まだ、この先が安全とかそんな事は何も保証されて無いのに、凄く安堵した。
 ゲオルグの匂いとその体温が、僕を安心させた。

「ラグノーツ様、申し訳ありません、この様な事になり、ゲオルグ様に助けていただきました」

 セレニアはそう言って頭を下げて、ゲオルグを見上げ近づくと、その手はゲオルグの腕に軽く触れていた。

「えっと、ゲオルグ、どうしてここに?」

「ギルマスの件もあったから、ギルドへ向かう途中でキアヌートと言う銀髪に赤い瞳の貴族から声を掛けられたんだ。
 ギルマスに面会を求めるなら、自分が一緒の方が何かと都合が良いから、融通も利くと。
 だが、断ろうとした時にセレニアがこちらへ気づいて来てしまって……
 盾にされてしまったんだ」

「足手纏いになってしまい」
「いや、セバスチャンの妹なら放ってはおけないから、真相を知るためにもと人質になって、ここへ来た。
 私の失態だ」

 お互いを庇い合うなんて、ゲオルグにしては珍しいけど、セバスチャンの妹となれば当たり前か。
 
「あの、上で人形を燃やしましたけど、その凄くよく出来ていて」

「ああ、お互い着ていた服を藁に着せて魔法を掛けたから、かなり精巧に出来たな」

「はい、凄く、そっくりでした」

 セレニアが頬を少し染めて目を伏せた。

「セレニア、気分を悪くしたらごめん。
 ゲオルグが好きなの?」

 我慢できずに聞いて、好きと言う答えが返って来たらどうしようと、後先も考えずに口に出してしまっていた。

「あの、すみま、せん」

 セレニアが泣き出してしまい、ゲオルグの腕を掴んでいる事が答えなのだと思った。

「離してくれないか?
 私は君を何とも思わない、ただ、セバスチャンの妹と言うだけだ。
 何故急に?」

「あ、なぜ、……?
 急、に? いえ、ずっと前から、学校、時代、から?」

 本人も混乱しているようだけど、多分、学校でゲオルグを知っている可能性は高くて、その頃には淡い恋心があったのかもしれない。
 ただ、それをキアヌートが魔法で増幅する様に仕向けたか、何かしらの精神支配を受けているのかもしれなかった。

「ゲオルグは僕の記憶操作を解除したくらいだし、何か分かってるんでしょ?」

「何となく、だな。
 ラグがやった様に記憶操作をしている。
 多分、気持ちの波を増幅する魔法だ」

「うん、僕もそう思った」

「感情の起伏をより激しくして、思い込む様にされているんだろう。
 だが、反対に嫌い憎いと言う感情が強くなれば、それは恐ろしいと思うぞ」

 身内でやり合う事になったら流石に、無傷では済まないだろう。

「セレニア、解除するよ、ごめんね」

 何に対しての謝罪なのか、この恋心を無惨に散らせる事への? いや、咲く前に潰してしまう事への謝罪だった。

 セレニアの綺麗な額に人差し指と中指クロスして当てると、フッと力が抜け膝をついて倒れ込んだ。
 ゲオルグが抱えるかと思ったら全く無関心に、倒れるままにしたからミワがその体で受け止めた。

「セレニア、僕が分かる?」

 薄っすらと目を開きながら、段々と焦点が合って、僕を見ると赤くなり次に真っ青になった。

「ラグノーツ様! 申し訳ありません!!
 このセレニア・ロッシ、死んでお詫び」
「やめてよ!
 精神支配と記憶操作されてたんだから、仕方ないし、死ぬくらいなら僕の為に尽くして?
 せっかく、サバの昆布巻きも、お刺身もカルパッチョも、煮付けも作ったのに、食べない気?!」

「え、それは!」

「そうだよ、まだセバスだって食べた事ない、料理だよ、どうする?」

 口に涎が、溜まり始めたのか、ゴクリと喉を鳴らした。

「これよりセレニアは命を掛けてラグノーツ様をお守り致します!!」

 うん、それだよ、それ。
 
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