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しおりを挟む市場を沢山見て回りたかったけど、今あるぶりとキンメダイを刺身で食べたくて仕方なかった。
さっき食べたのに。
きっと成長期で栄養を体が欲しがってるんだ!!
「ゲオルグ、ギルドに戻って厨房を借りれないかな?」
「うーん、ラグの料理を見せるのは得策ではない、ヴィラを借りるか買う方が賢明だと思うぞ」
確かに、僕の作る物って前世の記憶からだし、こっちでは馴染みが無い物だだから用心に越したことはないかもしれない。
「あのさ、お魚の掃除をしたいの」
空間魔法で時間が進んだりしないから、鮮度は保たれてるけどそういう事じゃないんだよ。
お腹に内臓が残ったままって言うのが、凄く感覚的に嫌なだけなんだけど。
「ヴィラを探そう」
そう言ってその足で向かったのは、ギルドなんかが集まってる案内所へやって来た。
扉を見上げて、そういえば門兵のおじさんが最初に教えてくれたんだ。
住む場所を案内所で決める前に、職業ギルドで仕事を紹介してもらって住み込みを探そうと思ってたから、案内所には行ってなかった。
「ヴィラじゃなくてもキッチンがあればいいし、それに……
パパ達来たらどうする?」
「既に既成事実はあるし、謝り倒して認めてもらうさ」
一瞬ゲオルグの土下座を想像して笑ってしまった。
結構ツボっていたら、セレニアが後ろから声をかけて来た。
「ラグノーツ様、ゲオルグ様、案内所に御用という事は滞在先を変更されるのですか?」
「あぁ、ラグが厨房が欲しいと言うのでな」
「そうですか、長く滞在される予定でしたら買った方が良いでしょうけど……」
セレニアはちょっと考え込んで、ロッシ家と言おうとしたところで、ゲオルグが制した。
「ロッシ家には頼るつもりはない。
これはセバスチャンに対しての礼儀だと思っている」
ゲオルグは、僕との事に公平性?を持たせようとしてる。
「空間魔法で、魚は鮮度が落ちる訳じゃないし、大丈夫だから無理に厨房とか考えなくて」
「私が食べたいだけなんだが?」
「すみません、私も、その、ラグノーツ様の作る物が食べてみたいのですが」
セレニアが遠慮がちに、そしてちょっと恥ずかしそうに言った。
初めて表情が出たような気がした。
「その、兄からの報告が、あの、この世の料理ではないとか、味が深く素晴らしいとそういった表現しかなくて、そのとてもきになっておりまして、お恥ずかしいのですがこの国でラグノーツ様と出会えるとは思ってもいませんでしたから、このチャンスを!!」
セレニアってセバスチャンの妹だな、確かに。
「ですから、その、私の家はいかがでしょう!!?」
意を決して、といった感じで顔を真っ赤にして誘ってくれた。
「セレニア、いいの?
キッチン借りちゃっても?」
「はい!」
嬉しそうに顔を上げて、返事を返してくれたのが僕も嬉しくて、ゲオルグにどう?って顔で見ると、頷いてくれた。
「セレニア、迷惑かけちゃうけど、使わせてね。
美味しい物作るから」
「いえいえ!
ラグノーツ様のお料理を頂けるんです!
あの兄に自慢してやりますとも!」
何が自慢になるのか分からないけど、セレニアの家のキッチンを使わせてもらう事にした。
「ここって、僕たちの宿から近いね」
「はい、冒険者ギルドで有事の際はすぐに駆け付けらるように、と」
「冒険者の常宿は大体そんな配置になっている」
冒険者ギルドを囲う様に建物が配置されている感じだった。
「お恥ずかしいですが、我が家へお越しいただきありがとうございます」
「とんでもない! 僕たちが押し掛けたようなものなんだから」
家に一歩入ると、ふわっとラベンダーのような香りが漂う女の人に家だった。
決して広いとかそんな感じではないけど、普通の家庭の普通の家っぽかった。
セレニアは令嬢だから、家を出て働く必要は無かっただろうに。
でもロッシ家だとそうじゃないのかもしれない、と考えを改めた。
影の頂点に立つロッシ家だから、セレニアもそういった役目を担っているのかもしれなかった。
実際、冒険者組合からの調査員だったみたいだし。
「こちらのキッチンをお使い下さい」
セレニアは仕事の途中だったからと言って、ギルドからの用事を済ませたら戻って来ると言って出て行った。
「お仕事から帰って来たら美味しい物、用意してあげたいね」
「そうだな、私もちょっと出てくるが、一人で出歩くなよ?」
「料理があるから、出歩きません!
心配しないで、用事があるなら行ってきて」
「ギルマスの事があるから私はもう一度、ギルドへ行ってくる」
ギルドへ、か。
「浮気したら許さないからね?」
「ラグがそんな風に言うのは良いものだな」
ゲオルグは僕にキスを落として、ぎゅっと抱きしめて出て行った。
不思議。
あんなに逃げ回ったりしてたのに、ゲオルグとこんな風になったら、一緒にいないのが寂しいとか物足りないと思う様になってしまった。
飛び出した僕のあの時の気持ちが、ただのかまってちゃんだったんだろうなって思うけど、の王弟の事でこれ以上関わったらいけないって思ったんだ。
先走って掻き回して、責任も取れないのに。
蒼月になりたくないとか、モブにとか言いながら、何処かでそれを使う自分に酔っていたから。
逃げ出したんだ。
逃げれば一人になれるとか目立たないとか思った裏に、誰かに追いかけて来て欲しいってそんな気持ちがあったんだ。
反省しながらも段々と料理に集中し始めた。
息を止めるように包丁に集中して、大量に買ったサバを三枚に下ろしていく。
半分は昆布巻きに、そして半分を味噌煮とか塩漬けに出来るように漬け込んだ入りした。
昆布巻きは、幅広で厚めの昆布を水に漬けて柔らかくすると、三枚に下ろして骨を取ったサバを一センチほどにスライスして、昆布の端を水から出しながらサバを巻いては切って行く。
大体、三巻きくらいして昆布を切り、そこからまた次を巻く。
太さは親指と人差し指で丸を作ったより少し細いくらい。
それを沢山作る。
そして僕は針と白い糸を出して、一番最初のは昆布巻きの中のサバを意識して真ん中を刺して、糸をひと回りさせて固定しながら、次は最初に刺したのと同じように中のサバを意識して刺していく。
まるで中国のお祭りで鳴らす爆竹か、簾みたいな状態になったら鍋に下ろしたサバの骨を底に敷いて煮る。
味付けは砂糖と醤油のみ。
昆布とサバから良い出汁が出るから、後はずっと煮込むだけなんだ。
甘めに煮込むと日持ちもするし、白米と凄く合うんだ。
煮てる間に、ぶりとキンメダイを下ろして刺身にする。
ぶりは大きいから沢山身が取れるので、半身は刺身にしてぶりしゃぶでも食べられるように薄切りにして、残りはぶり大根にするように下ごしらえをした。
そのままだと臭みが抜けないままなので、塩を振ってふりの生臭い成分の多くを占める水分を出させて、軽く拭いてから、お湯とお酒が入った鍋で一度茹でておく。
中に火が通るほどじゃなくて、変な汁とか灰汁とかそんなのを落とす為だけに表面的にお湯で洗う感じ。
大根も一度下茹でしておくと味が沁みやすいから、同じようにしてる。
中には米ぬかがいいとかあるみたいだけど、ここではまだ手に入れて無いからそこまでは求められないので、我慢するしかなかった。
大きな鍋にお酒を入れて煮立たせておく。
ショウガをスライスして、鍋の中のお酒のアルコールを飛ばすように強火を通すと、そこにぶりと大根を入れて砂糖と醤油を入れて落し蓋をして煮込む。
今回煮込みばっかりだな、と思ったところで、刺身のままでは食べにくいかもしれないからカルパッチョにしてみた。
グレープシードオイルと、バジルとビネガーで作って〆る感じにした。
キンメダイのアラで味噌汁を作った。
結構な時間が経ったはずなのに、二人ともまだ戻ってこなかった。
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