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しおりを挟むとりあえず、挑戦して来た人達を治癒魔法で手足も回復させて、無詠唱の魔法使い達も結界玉から解放した。
この段階で反省して口の縫い付けが外れたのは七割って所だった。
ギルマスが報奨を低くして、差額を着服していた、という事は世界で統一されている組合の規約から外れる行いだった。
ギルドは冒険者の登録料や、受発注の手数料やクエストで得た獲物や、採取したものを買い取りまた、それらを市場で売る事により流通させて対価を得る。
高位ランクの者が多いギルドほど受発注金額は高くなりそれなりに難易度も上がるのだが、ここは難易度がBランク程度の物でも、Aランク価格にしていたそうだ。
「おい、お前本当にそんな事をしてたのか?」
ゲオルグがギルマスの聞いた。
だけど帰って来た答えは違っていた。
「……、悪かった、ラグノーツのお稚児さんは」
ドゴン!!!
「ぐぅっ!!!」
宣言通り、ゲオルグはギルマスの腹筋に力いっぱい拳を叩き込んだ。
「私に連絡する前に、稚児になどと!」
「いや待ってくれ、それは、足止めも兼ねて、それに本当にキアヌート様の魔力量が深刻な状態なんだ。
そこへこんなすごい子が来れば、分かるだろ?」
「分からないな」
「確かに、適正なランク評価をしていなかった。
マイナをAランクにしたのは、俺だ」
そりゃ、マイナ程度がAランクならそうなるよな。
でもなんだか納得は出来ていなかった。
ギルマスがそこまでとは思わなかったんだけど。
だって、マイナに妹だからって許せない事もあるって感じで怒ってたと思うんだ。
そしてカウンターのお姉さんが手配していた、ギルド組合の護衛?戦闘員?がギルマスとマイナを連れて行った。
「ゲオルグ、ギルマスの妹は大っ嫌いだからどうでもいいんだけど、ギルマスはそういう事をしたようには思えなかったんだ。
警戒心が足りないって言われてるから、相談してみるんだけどね?」
「はっはっは!!!
疑う事は大事な。
確かに、あいつは単純な所があって、お稚児さんの話は妹の為だったのだろうが、それ以外で報奨金を少なく渡したり、ランクを技量で見ないなんて事をするような奴じゃないと思ってる」
やっぱりか。
「誰か別の人が関わってるのかもね」
「あぁ、妹あたりか、別な者か」
カウンターのお姉さん、いったい何者なんだろう?
「その不正を報告って言うが、お前さんどこの人間だ?
ギルド組合から来たのか?」
無表情に見える彼女が少しだけ笑った。
「私はギルド組合のセレニア・ロッシでございます。
ラグノーツ様、兄のセバスチャンがお世話になっております」
え?セバスチャンの妹なの?
「あ、セバスの妹さん、でしたか。
お兄様にはいつもご迷惑をおかけしてしまっています」
「いえ、報告に上がって来る、アイスとかオコノミヤキとか、馴染みのない言葉が出て来て良く分かりませんが、兄が大分アホになってる事だけは理解できております。
ラグノーツ様にもお美しくなられて、ドアイス辺境伯様もさぞご自慢でございましょう」
セレニアはセバスチャンの妹というには、随分落ち着いていた。
ランクの上がり方がおかしい冒険者が、他のギルドやクエストでやらかす者が増えた事でそのランクを認めたギルドに調査に来たそうだ。
「なら、ゲオルグのSSランクも実は不正?」
「この国のギルドで昇格した訳じゃないから、どうだろうな?」
「ドラゴン討伐したんでしょ?」
「たまたまだ。
向こうが勝手に記憶を混乱して、自害した感じだしな」
それって僕が使った記憶操作?
そうか、使い方によっては本当に危ない魔法なんだ。
「その魔法って……」
「そうだ、ラグの記憶操作を改良して、魔物の精神に混乱を生じさせるようにしてみた」
自分で解除出来るくらいだから、作り直すのも朝飯前か。
「どうするの?
本当にギルマスやるの?」
「もし、何かあった時にラグを優先出来ないからやらない。
ギルドはここだけじゃないしね」
困るのはこの国に暮らす人達か。
「ギルマスなんて組合からすぐに派遣されてくるさ」
そう言われて、それもそうか、と納得した。
「セレニア、今夜にもセバスチャンとドアイス辺境伯が来られるだろう。
私たちはいつもの宿にいると伝えてくれ」
「畏まりました、ゲオルグ様」
綺麗に一礼した。
加担もしくは享受したであろう者たちは再度、ランクプレートに登録をし直しされて、適正なランクを与えられるという事で、受付は回復して反省した人たちが長蛇の列を作っていた。
「さて、何か食べよう」
さっきの食堂スペースでは、口の縫い糸が取れた冒険者たちが、謝罪をしようと待っているようだった。
「あの!ゲオルグさん!
本当にすみませんでした!」
勇気を振り絞った十代後半の冒険者が、ゲオルグに謝罪して来た。
「そうか、君は私に何かしていたのか……、私もまだまだだな」
「いえ、そんなつもりは」
「では、何をしたのか教えて貰えないだろうか?」
「あの、奴隷に出来るって知って挑戦してみたかったんです。
こんな子供なら勝てるって思って」
まぁ、それはそれで良いんだけど、だって子供なのは事実だし。
「で?」
「強いし、凄かったです」
「で?」
「あ、あの、ありがとうございました」
「それは、私に言う事だろうか?」
うん、やられたの僕だしね。
「あの、俺もゲオルグさんのパーティーに入れて下さい!」
お願いしたくなるよなぁ。
「君のランクが、という事ではなく、かなり失礼なので無理だ。
それにラグ意外とパーティーを組むことは無い」
どうしても僕に謝罪はしたくないって感じだった。
「俺だって経験を積めば強くなれます!」
これは、ゲオルグに惚れてる系?
「私は冒険者登録はしているが、伴侶のラグを守る事しかする気は無いので、他を当たってくれ」
最後は威圧の魔力を乗せて声を出していたけど、諦めそうも無いんだよね。
また纏わりつかれるのかと思ったら、うんざりした。
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