モブですけど!

ビーバー父さん

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「こんな像がここにあったのか」

「はい、この世界の神様です」

「ラグはここで、一人でいつもいたのか?」

「いつもじゃないですよ。
 でも、何か心が折れそうな時とか、一人になりたい時は来てるかも」

 神様がいるかもって思うと、一人の方が良いかなって思ったりしたし、さっきは神様がそこに居るのに、見てもらえない事が僕は悲しく思ったんだ。
 いるのに見えないって、どれだけ辛いだろうかって考えたら訳もなく泣きそうになった。
 
「千尋は優しいのね。
 あたしはもう慣れっこだから、大丈夫よん」

「慣れる訳ないし、慣れちゃダメだよ」

 そんなに寂しい顔して、言うなよ!

「ラグ、どうしたんだ?
 何を泣いてる?」

 ゲオルグには見えないんだから、こんな反応は当たり前なんだ。

「こんな所に神様一人で寂しいだろうなって、この像を見て思ったんです。
 僕は周りに沢山の人がいて、気にかけて貰って幸せだなって思ったんです」

「ラグは寂しいのか?」

 は? 何でそこに行きつくの?

「いえ、別に……」

 中身は一応二十六歳を経験してる成人男子だしな。

「今回の事は、」
「いえ、僕が先走った結果ですし、それに巻き込んでしまって申し訳ありません。
 十分反省しましたし、これからは極力大人たちには関わらない様にして、静かに過ごします」

 どっちかって言うと、モブとして生きるって決めてたのに、自分から首突っ込んでるって分かったからこの先は気配を消して生きて行くって再度決心したんだ。

「それに、こんなに目立つ人達といたら、結局僕も目立ってしまうから……」

 考えてみた。
 僕が一人で生活すればいいんじゃん。
 この国だともう知れ渡ってしまってる部分もあるから、他の国へ行こう。

「ラグ? 
 なんか変な事考えてないか?」

「ゲオルグ先生、明日は何が食べたいですか?」

「食事のメニューか」

「無ければ、僕これから仕込みたい物があるので、お先に!」

 神様が見えないゲオルグを置いて、二人で厨房へ向かった。

「神様って食べられる?」

「食べられるわよ。
 ラグが作る物ならね。
 要は見えてない人からの物は食べたり触ったり出来ないけど、お互いが見えるならそこにちゃんと存在してる事になるから触れるし、食べられるわよ?」

「そっか、ならね。
 丸鶏のオーブン焼きを作ろうと思うんです。
 僕、今夜でみんなといるのは最後にしたいと思うから、明日は朝から豪華に食べて欲しいなって」

「何で?」

「だって、悪目立ちしてるし、モブるならひっそり静かに一人で、が良いじゃない?」

「そのモブるって、千尋らしいけど……」

「そうは言っても、緑頭とミワは連れて行くけどね」

 内臓を抜いた丸鶏のお腹にしっかり味を付けた玉ねぎやキノコをぐいぐいと中に詰めて、塩コショウ、はちみつ、ローズマリーにガーリック、パプリカ、ナツメグをたっぷり肉にすり込んで一晩おいて置く。
 明日の朝、オーブンに入れて焼いて置けばセバスチャンがやってくれるだろうし。

「神様には特性の味付け卵です。
 どうぞ、筋肉にはタンパク質ですよ!
 それに、空腹になると筋肉が痩せちゃうんだって知ってました?」

「千尋~、美味しいわ~!!
 半熟で黄身が濃厚だし、ちゃんと味がついてる!!」

「じっくり漬け込んでますからね」

 神様のこんな顔見れたら、嬉しいもんだな。

「あ、蒸し鶏も作ってますから召し上がって下さい」

 神様にタンパク質とか、どうなんだ?と思わなくも無かったけど、美味しく出来たし。
 ゴマポン酢ダレみたいなちょっとイメージを変えて、蒸し鶏を食べさせた。

「この風味って何?」

「バジルとローズマリー、それにお得意のガーリックです。
 ニンジンとブロッコリーも蒸したので、一緒にどうぞ」

 ゴマポン酢ダレは醤油に柑橘系の汁、それに擂りおろしたたっぷりのゴマに、はちみつとトウガラシを入れて寝かして置いたもので、味のアクセントには良いと思うんだ。

 そして、蒸し鶏を作った時に出た肉汁でスープを作った。
 塩味の素朴なスープだけど、体も温まるしホッとするようなスープに仕上がった。

 

 
 朝、いや、夜中のうちに寝てるパパの横をすり抜けて、朝のご飯の仕様を手紙にしてセバスチャンに託す様に、ダイニングテーブルの上に置いた。

「ミワ、僕を乗せてくれる?」

「喜んで!」

 普段の二倍以上の大きさになって、僕を乗せてくれた。

「次はどこに行こう?」

「私はラグが美味しいものを作ってくれるなら、どこでも良いぞ!」

「私も、ラグ様の行く所へ着いていきますよ」

 中華系の国いや、馴染みの食材があるカシリスだ!

 きっと知ってる物がたくさんある方が、使い道も似てるだろうし、僕が目立つ事なんかない!
 きっとそうだ!
 それに、恋人とは食の好みが合わないとね!

 来た方の国境とは違う東へ向けて、ミワが疾走してくれた。


 
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