モブですけど!

ビーバー父さん

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「もう、あとはこの国の事だし、放って置けばいいさ」

 パパは疲れたと言わんばかりに、ソファーへ体を沈めた。

「ごめんなさい、僕が浅はかでした」

「うん、そうだね。
 ラグは全てを知ってる訳じゃないのに、知ってる風で話しを進めちゃってたよね?」

「はい、恥ずかしく思います」

 僕は顔を上げる事も出来なくて、俯いたまま謝罪をしていた。

「私は、とても助かりました。
 ですから、あまり叱らないで欲しい」

 王弟殿下は僕を庇ってくれた。
 それが、ちょっと捻くれた僕には素直に感謝できなかった。

「私が監督をするから、安心して下さい」

 ゲオルグはニヤリと笑って僕を見た。
 さっきの仕返しかよ!

「もう少し、学習します」

「頼んだよ、ラグ」

 パパに失望されたようで、悔しいけどバカだったと反省した。


 

 昼食と言うには遅すぎるし、おやつの時間くらいで、夕飯にも早すぎた。

 軽く小腹を満たす程度なら、作ったクラムチャウダーとパンで良いだろう。
 王弟ロックにはクラムチャウダーとサラダ、それに硬めのパンを、デザートはチーズケーキを出した。

 パパ達にも同じく軽く夕飯まで保てばいい量にした。

「イタダキマス」

 声が少なくて、寂しくならなかったと言えば嘘だけど、自分で決めた事だから。

「美味いなぁ、ラグ
 この貝の具が凄く濃厚で、こってりな感じなのに食べやすい!」

「お行儀は良くないですけど、硬めのパンにしたので、クラムチャウダーに浸して召し上がって下さい」

 フランスパンに似たのを浸すと、ジュワッとスープを吸い込んでドロンとした状態になった。
 それに噛み付くと、スープがジュッと出て口の端から溢れそうになった。

「これは、何でこんなに美味しいのですか?」

 王弟ロックが目を丸くして、僕を見た。

「ちゃんと料理すれば、美味しくなるんです。
 これは、この国の特産品をふんだんに使ってますから、どうぞ有益に使って下さい」

 王弟ロックは、静かに涙を流して、感謝すると言葉を漏らした。





 
 結局、王弟ロックを帰す場所が無くて、家に留まらせる事になった。
 
「明日にはテリアナ様とバインリフト様が決めて下さるそうなので、一晩だけですがゆっくりして下さい」

 目標はあっても自分の命がどうなるか、不安だと思う。
 それでも王弟ロックは、柔らかく微笑んで泣き言や誰かの所為にしたりしない。
 一番弱くバカに見えたのに、一番強くて賢かった。
 人の本質は難しい。

「ロック様、ここはお風呂も大きくて、温泉だから癒されますよ。
 入りに行きましょう?」

「温泉ですか?!
 凄いですね!」

 地下の温泉は相変わらずの広さだった。



 入ってビックリ、僕たち以外の全員がいた。
 緑頭も、ミワまで!
 結局全員で入る事になってるし!

「ラグ、来たのか」

「はい、ロック様をお連れしました」

 パパは僕とのやり取りに、一瞬躊躇いを見せたけど人前であると言う事実に、掛ける言葉を変えた。

「ロック殿、この温泉は素晴らしいですよ。
 このセバスチャンの家の持ち物なんですが、ロッシ家のこの温泉施設は毎回驚かされています」

 二人の会話を邪魔しない様に、僕はそっとその場を離れ、端っこからさらに地下へ下りる階段を下りて行った。

「ふぃ~、疲れた……
 神様、僕、僕失敗しちゃったよ」

「あら、千尋ったら。
 結構、凹んでるじゃない」

「え?」

 いつも夢の中でしか会えないと言うか、会わないのに!

「あらぁ、ここは私の像もあって頻繁に入りに来てるわよ~」

「あ、あぁ、そうですか」

 なんか夢の中じゃない神様にちょっと、照れる。

「凹んでる理由、あたしは知ってるけどぉ。
 誰にでもあるわよ、そんなの」

「でも、僕は本当に上っ面だけの人間なんだって。
 居たたまれなくなった」

「千尋ってまだ十四歳じゃない?
 いくら中身が二十六だかそのくらいだとしてもね」

「そうだけ、ど」

「失敗は今のうちに沢山しなさい!
 特に千尋は頭でっかちなんだから。
 あんな元カレに未だに引き摺られて~」

「そんな事ないよ。
 だた、子供だとかそういうワードが引っかかって過去に戻される感じはあるかな。
 でもそれだけだって思ってる。
 もう、涼の事は過去の事だ」

「そう? じゃぁ、ここに元カレがいても揺らぐことは無い?」

「そ、れは、正直分からない」

 ここに涼がいてくれて、僕だけを見てくれたら? そんなことは無いって分かってるけど、BLゲームの世界ならそんな涼がいてもおかしくないんじゃないかって思った。

「まぁ残念ながらそれはあり得ないけど」

「ふふ、そうだよね」

 ホッとしたような、がっかりしたような、変な気分だった。

「千尋の事を守って愛したいって人は沢山いるのにねぇ」

「僕は一人が良いって言ってるじゃない?
 僕だけを愛してくれる人」

「私が愛してると何度も言ってるがな?」

 神様と話してたら、ゲオルグが割り込んできた。

「あ!、こちらは」

「ん? 独り言にしては随分大きかったな」

 神様、他の人には見えないんだ。
 そっか……、それって寂しいよね。








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