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しおりを挟むアイーラの別宅は別荘みたいだったけど、ジョーハンのはまるで社交場のようだった。
パーティーが開かれていたと想像出来る作りに、それに対応した厨房が備え付けられていた。
居室の数も十部屋以上あり、ホテル並みのアメニティが揃えられ、それぞれの部屋にバスルームとトイレが完備されていた。
ジョーハンってアレだ、ベルばらかよ!って感じなんだ。
なんかシャレオツな人たちが、お上品に時間を掛けてお食事を楽しむ、みたいな感じ。
なら、物凄く美味しいんじゃないだろうか?
「パパ!
ご飯食べに行こう!
行きたい!
どんなのが食べられるのか、行きたい!」
それに、スープをちょっと、とミルクしか飲んでなかった事を、お腹が思い出したからだ。
「パパもそう思っていたよ。」
ニコニコ笑うパパが僕を抱き上げたから、もう歩けるよと言うと、残念、としょぼくれた。
「なら、手を繋いで?」
パパは嬉しそうに、手を差し出してくれた。
キュッと力強いパパの手のひらが僕の手を包んで、その手をしっかり握り返した。
「ふふふ、嬉しいね」
「ああ、嬉しいな」
僕達は親子をやり直していたんだ。
大事な巻き戻せない時間を、いま、やっと始めていた。
露店や、お店を覗きながら歩くと、外にテーブルを出してお茶や軽食を楽しんでいるお客をよく見かけた。
そう言う屋外のテラスを作って提供しているお店が多かった。
食べ歩き出来るようなスタイルも豊富で、立ち飲み屋的なお店も数多く建ち並んでいた。
「パパ、この国はオシャレだし、色々な物が充実しているね。
勉強で聞いたことは、全然違うと思う。」
「そうだな。
実際書物になって、私達が知るときには既に色々な変革が起きていて、情報は古いのだろうな。」
この世界の女性はどこか中世的な長いドレスが多い中、この国はだいぶ短い丈だし、露出も適度にしている。
急に流行と廃れが繰り返されたような、混沌としている部分も垣間見えた。
先導している誰か、何かがあるのかもしれない。
「あの店はどうだい?」
「何のお店だろう?」
覗き込むと吊るした肉を削ぎ切り、その場で味付けをしてパンに挟んでいた。
ケバブ的な?サンドイッチ的な?その間の様な感じだった。
取り敢えず、一つだけ買って二人で分ける。
何の肉か分からないけど、硬くて味も塩が濃すぎて、イマイチ食べれなかった。
「うーん、やり過ぎて残念な感じ?」
「ああ、そんな感じだ。」
半分なら食べれる、と言うギリギリなサンドを食べ切ると、どこの店でも味が濃くて、硬い物が多かった。
唯一、魚は柔らかかったけど、塩がベースの味がほとんどで、勿体ないと言ったお店に食材だった。
見た目が発展しているだけで、食文化や、生活に根付くべき物が発展していなかった。
「意外と、スカスカな国なんだな。
酪農を下に見ているわけじゃ無いけど、もっと実用的な物が沢山あるんだと思ったのに。
まだ、あの離れた街の方が良かった。」
「私も同意見だ。
この国にあるべきものが無いような、そんな違和感だ。」
僕達は、市場で野菜や肉、魚、そしてキノコを買って帰った。
明日の朝は今日の塩を流す為にも、野菜スープにしようと決めた。
「なあ、ラグ、部屋も一緒じゃだめかな?」
「うん、いいよ!
僕もパパと一緒がいい!」
十四にもなって、パパはとか言ってた自分が、いつの間にかただの子供になっていた。
抱き枕と湯たんぽの役割をお互いに与えて、
ベッドへ入ると、おやすみと挨拶をして眠りに落ちた。
ん?
話し声がする?
夢ではなく現実?
隣で寝ていたパパはいない。
僕はそっと起き出して、声のする部屋を探した。
扉が閉まっていても、これだけ壁があるのに、僕が寝ていた所まで聞こえるのがおかしい、ああ、夢の中なんだ、そう理解してこの広い屋敷を歩いた。
「ちょっと!」
あ、これこの声。
「神様!
久しぶり!」
「久しぶりねぇ
少しだけ大きくなった?」
「十四の体だからね!」
「千尋、すっかり体に年齢が馴染んだわね。
あの教官、この国に来てるわよ。
気をつけなさい。」
「あ、すっかり忘れてた。」
「あれから記憶操作はあまり使ってないみたいね。」
「あの教官の事が教訓になったよ。」
「精霊王に緑頭はちょっと頂けないセンスだけど。」
「あんな五歳児寄越して!
そうだ、神様が保護者だろ!
ちゃんと躾けろよ!」
思い出し怒りが込み上げて来た。
「あ、あの子はまさか、あんな残念な子だとは思わなかったのよぉ~」
「やる事が雑過ぎるでしょ。」
「ごめんね~、でも、ほら育成ゲームだと思えば、ね?
そろそろ、好きな人出来た?
ハーレムもいいんじゃない?」
「まだ、別にそんな風な余裕はないな。
パパと和解できて、いま一緒にいるのが嬉しいし。
それに当分、パパが認める様な人が現れるとは思えないな。」
「そう?
まあ、千尋が幸せになるなら良いのよ。」
「どっちかって言うと、前世のことなんかより、今の状況を必死に生きてるよ。」
「あの教官の事があるから、ちょくちょく見にくるわね。
加護があるんだから、呼びなさいよ?
分かった?」
「ありがとう、困ったら呼ぶよ!」
ああ、このパターン。
今回はそこまで疲れてないのは、多分、モブとかそう言う所じゃなく、ラグとして生き方を受け入れてるからかも。
あれ?
パパがいない。
僕は今度こそ起き出して、パパを探した。
「パパー!!」
こんな広すぎる屋敷、やっぱり嫌だ!
「ラグ!どうした!?」
階段を駆け上がって来たパパの姿を見て、ホッとしてぎゅうっと抱きついた。
「ラグ、大丈夫?」
「ラグ様、おはようございます。」
パパの後ろからセバスチャンの声がして顔をずらして向こうを見ると、セバスチャンが腰を折って、笑っていた。
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