46 / 219
45
しおりを挟むアイーラの別宅は別荘みたいだったけど、ジョーハンのはまるで社交場のようだった。
パーティーが開かれていたと想像出来る作りに、それに対応した厨房が備え付けられていた。
居室の数も十部屋以上あり、ホテル並みのアメニティが揃えられ、それぞれの部屋にバスルームとトイレが完備されていた。
ジョーハンってアレだ、ベルばらかよ!って感じなんだ。
なんかシャレオツな人たちが、お上品に時間を掛けてお食事を楽しむ、みたいな感じ。
なら、物凄く美味しいんじゃないだろうか?
「パパ!
ご飯食べに行こう!
行きたい!
どんなのが食べられるのか、行きたい!」
それに、スープをちょっと、とミルクしか飲んでなかった事を、お腹が思い出したからだ。
「パパもそう思っていたよ。」
ニコニコ笑うパパが僕を抱き上げたから、もう歩けるよと言うと、残念、としょぼくれた。
「なら、手を繋いで?」
パパは嬉しそうに、手を差し出してくれた。
キュッと力強いパパの手のひらが僕の手を包んで、その手をしっかり握り返した。
「ふふふ、嬉しいね」
「ああ、嬉しいな」
僕達は親子をやり直していたんだ。
大事な巻き戻せない時間を、いま、やっと始めていた。
露店や、お店を覗きながら歩くと、外にテーブルを出してお茶や軽食を楽しんでいるお客をよく見かけた。
そう言う屋外のテラスを作って提供しているお店が多かった。
食べ歩き出来るようなスタイルも豊富で、立ち飲み屋的なお店も数多く建ち並んでいた。
「パパ、この国はオシャレだし、色々な物が充実しているね。
勉強で聞いたことは、全然違うと思う。」
「そうだな。
実際書物になって、私達が知るときには既に色々な変革が起きていて、情報は古いのだろうな。」
この世界の女性はどこか中世的な長いドレスが多い中、この国はだいぶ短い丈だし、露出も適度にしている。
急に流行と廃れが繰り返されたような、混沌としている部分も垣間見えた。
先導している誰か、何かがあるのかもしれない。
「あの店はどうだい?」
「何のお店だろう?」
覗き込むと吊るした肉を削ぎ切り、その場で味付けをしてパンに挟んでいた。
ケバブ的な?サンドイッチ的な?その間の様な感じだった。
取り敢えず、一つだけ買って二人で分ける。
何の肉か分からないけど、硬くて味も塩が濃すぎて、イマイチ食べれなかった。
「うーん、やり過ぎて残念な感じ?」
「ああ、そんな感じだ。」
半分なら食べれる、と言うギリギリなサンドを食べ切ると、どこの店でも味が濃くて、硬い物が多かった。
唯一、魚は柔らかかったけど、塩がベースの味がほとんどで、勿体ないと言ったお店に食材だった。
見た目が発展しているだけで、食文化や、生活に根付くべき物が発展していなかった。
「意外と、スカスカな国なんだな。
酪農を下に見ているわけじゃ無いけど、もっと実用的な物が沢山あるんだと思ったのに。
まだ、あの離れた街の方が良かった。」
「私も同意見だ。
この国にあるべきものが無いような、そんな違和感だ。」
僕達は、市場で野菜や肉、魚、そしてキノコを買って帰った。
明日の朝は今日の塩を流す為にも、野菜スープにしようと決めた。
「なあ、ラグ、部屋も一緒じゃだめかな?」
「うん、いいよ!
僕もパパと一緒がいい!」
十四にもなって、パパはとか言ってた自分が、いつの間にかただの子供になっていた。
抱き枕と湯たんぽの役割をお互いに与えて、
ベッドへ入ると、おやすみと挨拶をして眠りに落ちた。
ん?
話し声がする?
夢ではなく現実?
隣で寝ていたパパはいない。
僕はそっと起き出して、声のする部屋を探した。
扉が閉まっていても、これだけ壁があるのに、僕が寝ていた所まで聞こえるのがおかしい、ああ、夢の中なんだ、そう理解してこの広い屋敷を歩いた。
「ちょっと!」
あ、これこの声。
「神様!
久しぶり!」
「久しぶりねぇ
少しだけ大きくなった?」
「十四の体だからね!」
「千尋、すっかり体に年齢が馴染んだわね。
あの教官、この国に来てるわよ。
気をつけなさい。」
「あ、すっかり忘れてた。」
「あれから記憶操作はあまり使ってないみたいね。」
「あの教官の事が教訓になったよ。」
「精霊王に緑頭はちょっと頂けないセンスだけど。」
「あんな五歳児寄越して!
そうだ、神様が保護者だろ!
ちゃんと躾けろよ!」
思い出し怒りが込み上げて来た。
「あ、あの子はまさか、あんな残念な子だとは思わなかったのよぉ~」
「やる事が雑過ぎるでしょ。」
「ごめんね~、でも、ほら育成ゲームだと思えば、ね?
そろそろ、好きな人出来た?
ハーレムもいいんじゃない?」
「まだ、別にそんな風な余裕はないな。
パパと和解できて、いま一緒にいるのが嬉しいし。
それに当分、パパが認める様な人が現れるとは思えないな。」
「そう?
まあ、千尋が幸せになるなら良いのよ。」
「どっちかって言うと、前世のことなんかより、今の状況を必死に生きてるよ。」
「あの教官の事があるから、ちょくちょく見にくるわね。
加護があるんだから、呼びなさいよ?
分かった?」
「ありがとう、困ったら呼ぶよ!」
ああ、このパターン。
今回はそこまで疲れてないのは、多分、モブとかそう言う所じゃなく、ラグとして生き方を受け入れてるからかも。
あれ?
パパがいない。
僕は今度こそ起き出して、パパを探した。
「パパー!!」
こんな広すぎる屋敷、やっぱり嫌だ!
「ラグ!どうした!?」
階段を駆け上がって来たパパの姿を見て、ホッとしてぎゅうっと抱きついた。
「ラグ、大丈夫?」
「ラグ様、おはようございます。」
パパの後ろからセバスチャンの声がして顔をずらして向こうを見ると、セバスチャンが腰を折って、笑っていた。
35
お気に入りに追加
2,340
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
学校帰りに待っていた変態オヤジが俺のことを婚約者だという
拓海のり
BL
「はじめまして、大嶋渉(わたる)君。迎えに来ました」
学校帰りに待っていたスーツをきちっと着たオヤジはヘンタイだった。
タイトル少しいじっています。
ヘンタイオヤジ×元気な高校生。
拙作『姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました』のスピンオフ作品です。これだけでも読めると思います。40000字位の短編です。
女性表現にこてこての描写がありますので、嫌な方は即ブラウザバックして下さりませ。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる