モブですけど!

ビーバー父さん

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 ジョーハンの王都に入る前の街で、早馬をつなげる場所を探してから、休憩を取る事にした。
 既に昼過ぎで朝の軽い食事しかしていない僕は空腹なのも手伝って、もうフラフラだった。

「ラグ、降りれるか?」

「ん、無理、パパ」

「ほら、体を傾けて」

 ぐったりで、力が抜けて倒れ込む様にパパの首に抱きついて降りた。

 頭を撫でられて、抱きしめられたまま横抱きにされて、額や頬にキスをされた。
 それ程までに、可愛くて仕方ないと言うように、パパは僕を宝物みたいに大事に抱っこしたまま、食事ができる店に入ってくれた。

「パパ?」

「ん、ここで軽く何か食べたら、もう少し頑張れるかい?」

「ん、頑張る」

「いい子だ」

 お店に入るとざわざわしていた店内が、シンと静まり返った。
 パパは美中年だし背もすごく高いし、モテるだろうけど!
 僕のパパなんだからね!

「ラグ、お前が可愛いから皆んなから注目されちゃったな。」

 え、パパ、おかしいよ?
 親バカ通り越したよ、それ。

「パパ、早く食べて、進もう。
 夜にはベッドで寝たいよ」

 店の女主さんが、メニューを出しながらオススメはミートパイだと言った。

「ミートパイを一切れと、何でもいいから、スープを。
 それにホットミルクを
 私にはお茶を」

 何で一切れにしたんだろう?

「ラグ、多分だが初めて長旅に馬を使用したんだと思うんだが?」

「はい」

「あまりお腹に入れると、途中で吐いてしまうかもしれない。
 だから、スープと食べられればパイを食べなさい。
 あの早馬は正直今までのどんな馬より、揺れがひどい。
 それだけ筋肉が動き、早く力強いと言う事でもある。」

 そうなんだ。
 だから、一切れか。

「あと、ラグの作るもの程美味いとも思えないからな。」

 あ、それもか。
 ははは。

 女主が持ってきたミートパイは、冷えていて、余計にモサモサしていた。
 やっぱり肉まん作ろうって思ったよ。

「パパ、ミルクは美味しいよ。
 やっぱり酪農が盛んだからかな。
 凄く濃くて美味しい」

 温めてあるし、ホッとした。

「そうか、ラグ、あの馬ならあと少しだと思う。
 セバスならすぐに追いつくだろうし、大丈夫だろう。」

 セバスチャンがどんな後始末をしたのか分からないけど、僕の為にならない事はしないと確信していた。

「パパ、ミートパイはもう食べられないや。」

 そう言ってお皿を押すと、パパも苦笑いしながら飲んだら行こうと言った。
 ジョーハンからまだ離れたこの街で、ミルクがこれだけ美味しいと言う事は、王都ならもっと美味しい何かがあると、期待に胸が膨らんだ。

「そろそろ出よう」

「行く」

立ち上がろうとして、まだ膝と太ももが笑ってしまって、産れたての子鹿のような事に気づいた。
 その様子を見て、パパは笑いながら抱っこをしてくれた。
 
「お勘定を」

 女主はミートパイを小銅貨八枚と言い、ミルクを小銅貨五枚、お茶を小銅貨六枚、スープを銅貨一枚と言った。

「銅貨二枚と小銅貨九枚、安いね。」

 お茶は割と高級品だと思うんだけど。

「おや、坊や計算出来るのかい?
 お茶はね、斜面が多いこの国ならではだからかしらね。」

 酪農だけじゃないんだ。

「ありがとう、教えてくれて。」

 パパは僕を抱っこしたまま、店を出ると繋いだ馬の所で、下ろしてくれた。

「ラグ、体はどう?
 足がキツイなら抱っこしたまま、行くけど」

「危ないし、パパが片手で手綱を持たなきゃ行けなくなるよ!
 そんなのダメだから。」

 パパが先に乗って、僕を片手で引き上げて前に乗せてくれるんだけど、たしかに僕を片手で引き上げられるなんて、力も強いんだって分かる。
 でも片手ではダメだ。
 パパに何かあったら、泣くくらいじゃ済まなくなる。

 最初はゆっくり歩き出し、すぐに駆け足に、そして、疾走を始めた。

「ラグ、支えておくから、眠りなさい。
 揺れが酷くて寝心地は悪いだろうけど、着いたらやる事が沢山あるだろうから。」

 体を起こして、背中をパパに付けて凭れるようにすると、振動も軽減されたような気がした。
 
「うん、少し寝れたら寝る」

 なんて言った端から眠りに落ちた。
 結構僕は寝汚いのかもしれないな、と笑ってしまった。





「ラグ起きて、着いたよ」

「ん、うあ、もう?」

 パパは片手で僕を抱きしめたまま、本当に馬を走らせたみたいだ。
 しっかり抱っこ状態で寝ていた。

「あ、ごめんなさい、パパ!
 大丈夫だった?
 僕、寝ちゃって!」

「大丈夫だったよ。
 可愛いラグの寝顔を見ていたら、早く着かなきゃって頑張ったからね。」

 王都の街中に入っていて、ロッシ家の別宅の前だったようだ。
 手配されていた、ロッシ家の従僕がパパに鍵を渡して帰って行った。

「前の所と違って、街中でも一等地にあるな。
 ほら、おいで。
 中に入ると、吹き抜けになっていて、ちょっとしたパーティーが開けるな。」

 馬を家の裏の厩舎に繋いで、庭から入るとテラスが日当たりの良い場所にあり、まるでカフェのようだった。

「お店できそう」

「それもいいな。
 ラグの料理ならきっとみんな食べに来るな」

 でも、住居と一緒なのは、僕としては嫌だった。
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