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しおりを挟むまだ夜も明けきらない内に、早馬で旅立った。
パパは僕を前に乗せて、後ろから手綱を引くと、ハッと気合を入れて馬を走らせた。
正直、かっこいいんだ。
僕のパパがこんなにカッコいいなんて知らなかった。
「パパ、いつ馬に乗る練習したの?!」
早馬は普通の馬より大きく、力強く大地を蹴り風の様に走り抜けて行く。
「妻と結婚したいと思った時だ。
ラグくらい、だったかなぁ。
元々は侯爵の次男で家格が釣り合わないと言われ、爵位を上げるか爵位を頂けるかの選択肢として、自分をスキルアップさせるしかなかったからな。
剣だけは、誰も認めてはくれなかったがな。」
凄い速さで景色が変わる中でパパの話しを聞いていると、どれだけ努力をしたのか、どれ程の我慢をしたのか、想像するだけで胸が痛くなった。
「ラグ、国境だ。
あそこを超えるとジョーハンに入る。
しかし凄いなこの早馬は!
普通なら国境まで三日はかかる距離をわずか半日とは、いや凄い。」
うん、凄い。
そして、それを休む事なく走らせたパパも凄いよ。
僕は、もう、お尻も内股も、ガクガクだから。
多分、馬からは降りれない。
でも掴まってる体力も限界だ。
「パパ、国境越えたら、休んでいい?」
「え、あ!
すまん!ラグ!
私はお前の体力も分かっていなかった。
父親失格だな。」
「ううん、パパ。
多分この馬、セバスが強化魔法も掛けてあるんですよ。
でも、僕、馬に乗るの初めてで、ちょっと、気持ち悪くなっただけです。」
振動の激しさに、三半規管がイカれたような気がする。
でも、休んでもいられないから、国境越えるまでは頑張るよ!
このアイーラに来て二年弱だけど、色々な事を思い出して、少しだけ涙が出そうになった。
入国管理とは反対の出国管理で手続きをしようとしていたら、引き止められた。
「ラグノーツ殿とお見受け致します。」
これは何か手が回っているのか?
「ホーク隊長以下、騎士団からの言葉を預かっています。」
あ、騎士団の皆んなが?
「『ラグ、異国へ行っても、追いかけて求婚するから覚悟しておいてくれ!』との事です。」
「ふ、あっははは!
じゃあ僕も伝言を。
『待ってられても、一週間が限界』そう伝えて下さい。」
「はははは!!
ラグノーツ殿、彼らの本気を甘く見てはいけませんよ?
私はお伝えしましたからね?」
かなり真顔で言われたけど、本気?
まあ、騎士団隊長らだし、一週間じゃ無理だって。
だけど、その心意気が嬉しいと思ったよ。
無事に出国できて、後はジョーハンを目指して早馬をパパが走らせた。
「駄犬、あのボンクラを噛み殺して来い。
緑頭、あの女を埋めて来い」
「おい、噛み殺したらあとが面倒だろうが。」
駄犬と呼ばれたセバスチャンの兄が否の声を上げた。
「この国で起きた事は、この国の責任になります。
ボンクラとあの淫売を始末しないと、ラグ様が危険になる可能性が高い。
意味は分かりますよね?」
緑頭は理解をし、駄犬は理解が追いつかなかった。
「ラグの容姿の詳細を知るあの王子と、ラグのスキルや知識を手に入れようとしたあの淫売から、情報が漏れると迷惑だ。
私も、ラグの美味しいお菓子やご飯が食べられなくなるのは困る」
緑頭がきちんと状況を把握している事に、セバスチャンは驚きを隠せなかった。
「駄犬は見せしめでボンクラの死体を派手にすれば良いだけの事です。
緑頭は、淫売を埋めてそこに薔薇の飴を生やしなさい。
これで、精霊界は許す、とね。」
駄犬は弟の恐ろしさに、ガタガタと震えた。
「駄犬、貴方が出来なくとも良いのですよ?
貴方がやった歯型と牙さえ残せば良いのですから。
ああ、爪痕も必要ですね。
まあ、爪と一緒にその腕の一本も頂きますよ?」
「やる!やるから!」
「ですよね、だって貴方、この先何になるか分かりませんものね。
足がつかないって、良いですよね。
暫くは人で過ごせば、逃げおおせますよ。」
王宮の二人の寝室に入り込むのは簡単だった。
処分が決まっていないが、重罪で国益にも影響する様な事をした王女とその婚約者だ。
逃げ出さない様には厳重に監視が付いていても、暗殺されようが知ったことではない、と言う王族の扱いが垣間見える警備だった。
婚約者だがボンクラはそれを止める事も諌める事もしなかった無能で、破棄と言う逃げ口に高を括っているのが、周りには分かっていて、それがまた王侯貴族から怒りを買っていた。
セバスチャンはその王侯貴族からの依頼でもある暗殺を、ラグの為にもなると言う考えから引き受けただけだ。
問題なく、国境を越えるための手段として。
翌朝、ベッドに横たわるボンクラ王子の死体と、王宮の中央の庭に大量の小さな薔薇の花を咲かせた王女の死体が発見された。
ボンクラは獣と思わしき傷痕と、四肢を引き裂かれていた。
王女は一見無傷だが、小さな薔薇の花が体から生えてその体を苗床にされていた。
薔薇は精巧な飴で出来ていたのは言うまでもなかった。
アイーラ国王はその日のうちに、王女は精霊の処罰を受け処刑された事を国民に告げ、ドアイス国へは、あくまで事故として報告された。
そう、獣が侵入し襲いかかった、事故である。
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