モブですけど!

ビーバー父さん

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「魔力が?」

「ラグの側にいるだけで、気持ちいい。
 世界樹の中にいるようだ。」

 緑頭って僕にお母さんを求めてるのか?
 中身の思考は五歳児並みだもんな。

「緑頭って精霊王として生まれてから、どのくらい?」

 寿命とか分かんないけど。

「私はラグが生まれたときに一緒に生まれて来たから、人間で言うなら同じ歳だ」

 え?それってなんか兄弟とか双子とか、何かそんな感じに思えるんだけど。

「多分、聖獣も同じだと思うぞ。
 私と同じように生れ落ちて、ラグの前に来る頃だと思うぞ。
 世界樹はこの世界で必要不可欠な者たちを捧げてくれるが、その大切な力が枯渇して再生してを繰り返すのが世界樹なんだ。
 再生を繰り返すことで永遠にこの世界を支えていられるんだ。
 そして蒼月の瞳は、世界樹をその力で再生させる者だ。」

「世界樹って、神の世界にあってこの大地を支えるように、根を張り巡らせているって言われてるよね?」

「うむ。
 世界樹は遥か次元の違う世界から、その根を伸ばしてこの大地を支えているんだ。
 私たち精霊はその根を介して、こちらへ来るのだ。」

 結構壮大な話だし、確かに重要だな。
 同い年のはずなのに、中身五歳児並みの方が問題な気がするけど、そこは、まぁ個人の成長度合いという事で目を瞑ろう。

「緑頭はラグの守護、というのは分かった。
 神というより、世界の意思でもあるんだろう。」

 パパがもっと納得しないで揉めるかと思ったのに、意外にすんなり受け入れていた。
 
「セバス、明日の事は頼んだぞ。」

「はい、旦那様。
 このセバスチャン、必ず」

 なんの?なんか黒い約束っぽい雰囲気!
 眠るのに寝室二つしかないというと、まぁ当然予測は出来たけど、パパは僕と寝ると言い出した。
 
「寝相悪かったら、ごめんなさい」
 
「大丈夫、抱っこして寝るから」

 抱き枕ですか。
 この執着は、今だけだろうと諦めて、一緒のベッドに入った。





「はぁ、ラグを抱っこして寝かしつけ出来るとか。
 夢に見てた。
 ほんと、夢に見たよ。」

「僕は愛されて無いんだと思って、反発心しかなかった」

 うっかり心に残っていた言葉を出してしまって、僕を抱きしめる腕に力が入ったのが分かった。

「うん、そうだよね。
 私は、ラグを抱きしめることも、頭を撫でることもしてこなかった。
 だけど、お前を可愛がることが、危険に晒すと分かっていて、凄く苦しかった。
 平民になると言った時、その方が安全だと思ったら、ほんの数年手放すだけだと自分を言い聞かせた。
 だが、家督を継がせる段取りが付いたら、もう、我慢できなくて国王に爵位返上を申し出ていた。
 王弟殿下より、国王の方が何倍もバカで助かったけどな。
 言いくるめて返上が、王弟殿下の所為で辺境伯になった。
 だが、領土は無いという事が国王の采配で決まった時に、勝ったと思った。
 これでラグと暮らせる、一緒に生きていけると。」

 そこまでパパは縛り付けられていた事を知らなかった。

「ねぇ、パパ。
 僕をずっと愛してくれていた?」

「当たり前だ。
 婚約も恩を売ってる風にするのも、反吐が出るほどだった」

「兄上達は、従兄弟だって知ってるの?」

「お前を無視していただろ?」

 その一言が答えだった。

「だからセバスをお前の世話係にさせて、守らせていた。
 何度か毒を盛られたりもした。
 だから、ボンクラが付けたその傷もあいつ等の仕業だろうと思っている。
 教師をしていた騎士は、三人と王弟殿下の騎士でもあったからな」

 あの時は手元が狂ったのかと思ったのに、命を狙われていたのか。
 婚約破棄をして良かった。
 思えば、変なことだらけだった。

「護衛すらいなかったのは、そういう事だったんですか?」

「王宮へ行くのにつけられなかった。
 だから、ロッシ家から影を雇っていた。
 セバスは王宮以外へは常にお前を守っていたんだ。
 免除試験の時も、この国へ入る船の中でも、それは聞いているだろう?」

「はい。 
 一体どこにと思いました。」

 パパの命令でそこまで?

「ふふ、セバスは私に言われなくても、お前を守っていたよ。
 二歳でお前の世話をし始めて、命の危険が何度かあった時、あいつが怒りで黒い炎を使って守ったのを見て確信した。
 闇魔法は、自分にも反動が来るからな」

 そんな事があったなんてちっとも知らなかった。
 闇魔法は、禁忌の呪もある。
 人を呪わば穴二つというのと同じだ。
 何かを犠牲にして発動するものが殆どで、強ければ強いほどその犠牲になる対価は大きくなる。
 だからめったに使うものはいない。
 使う覚悟が無ければ、リスクが大きすぎるからだ。

「僕は二人から常に守られていたんだ…
 親不孝をして」
「生きて、今笑ってくれる事の親孝行以上の事があるか、まだまだ子供だな。
 あと四年は世間的にも子供でいられるんだ。
 その間くらい、私の腕の中にいておくれ」

「うん、パパ」

 僕は抱きしめられるって事が、親孝行なんだと教わった。
 明日の早馬、がんばらないと。

「おやすみなさい、パパ」

「お休み、ラグ」

 初めてパパから貰う夜の挨拶だった。


 


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