モブですけど!

ビーバー父さん

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 ホーク達が戻って来て、王女の処分が未だに決められないそうだ。
 
 ボンクラめ!
 一緒に何か発言してりゃ追い詰めたのに。

「それとは別に、ラグと同じドアイスの公爵があの場にいらしてて、処罰の話をしている時に中々いい話をされて、気があってな。
 この厨房で嫌がらせをされたのがドアイスの者だと教えたら、頑張ってるラグ達に会いたいと言われてな。
 連れて来た。
 一緒に飲もうと。」

 まさか、まさか。

「ドアイス公爵様だ。」

 ホークが紹介したのは、間違いなく父上だった。
 僕は、ここで父上と呼ぶ訳にはいかないと我慢していたら、セバスチャンとヒューゴがここの連中は知り得た情報を漏らしはしない、と言われた。

「なあ、お前ら!
 ここからは、最重要事項だ!
 秘匿レベルは神にも教えられない事だと肝に銘じろ!
 いいな!?」

「おう!」

 一斉に応えられて、僕は父上に抱きしめられたんだ。

「父上、ちちうえ、
 僕は、がんばって、ます!」

「ああ、良くやってる」

 それ以上、言葉は出なかった。
 会いたかったとか、ごめんなさい、とか、本当は言わなきゃいけない事も、聞きたい事もたくさん、たくさんあったのに!
 
 髪を掻き分けられて顔をよく見せてくれ、と言われて、涙でぐちゃぐちゃな顔をさらした。

「ラグノーツ、随分大きくなったな。」

「ちちうえ、僕の身長はあんまり、変わりませんよ」

 泣き笑いをしながら、もう十四歳なのに、子供みたいで恥ずかしいと言った。

「セバス、ラグノーツをここまで守ってくれて感謝する。」

「旦那様、ラグノーツ様はここにいる皆さんに支えられて、本当に頑張ってました。」

 セバスチャンは父上に今までの事を掻い摘んで報告していた。
 大体、定期報告で知ってるはずなのに、目の前で改めて聞かれると恥ずかしくて堪らない。

「ドアイス公、ラグは貴殿の御子息なのですか?」

 事情を知らないホーク達、それに騎士団の人が固唾を飲んで聞いていた。

「私の可愛い息子だ。
 本来なら、手放す気など全くなかった。」

 父上も美中年で大きいけど、僕の身長は殆ど伸びてない。
 横に立たれると、まるで電柱に止まる蝉の様なんだけど。

「では、ラグはドアイスが家名?
 王族の一員?」

「継承権も家督を継ぐこともないがな。」

 何故か、屋敷では一度もされた事の無い、抱っこをされて、父上の膝にいた。

「あの、父上、こんなの恥ずかしいです。」

「何故だ?
 屋敷では間諜がいるから、お前を抱っこも出来なくて、私はどれだけ寂しかったか!」

「何で間諜が?」

「上の子達三人は、王弟殿下の子らで他所で出来た子を私達が育てた。
 妻との間に生まれた息子はお前だけなんだよ。
 妻との結婚はそれを理由に許された。
 そして家督を継がせる事を条件にな。」

 兄上達は従兄弟だったんだ。
 知らなかった。

「お前を可愛がれば、反逆の意思ありと取られる恐れもあった中で、あのボンクラとの婚約話をされて断れないのを良いことに、人質の様に王宮へお前を寄越せと再三言われていたのだ。」

 王宮から言われていたのは、セバスチャンから聞いて知ったけど、父上は本当に辛い立場だったんだと、可愛がられなかったんじゃなく、一番可愛がられていたんだと、納得した。

「大体こんな可愛くて綺麗な息子を、へのへのもへじみたいなボンクラにやれるか!!」

 そこで、改めて僕の顔を父上がのぞきこんだ。

「こんなに可愛い子の顔に傷付けやがってあのボンクラが!」

 僕のこめかみの傷をみて、父上が涙した。

 そして、手に持つグラスには、多分三七度の焼酎ストレートが入っている。
 これはアレですよ、お酒に呑まれちゃった人、いわゆる酔っ払いですよ。
 ほら、昼酒は効くっていうじゃないですか。
 
 うちの子可愛い、誰にもやらない、を呪詛の様に繰り返す父上に、僕の伴侶候補として認めて欲しいと申し出て、却下、とバッサリ切り捨てられていた。

 隊長達、猛者だな。

「ラグノーツ殿と結婚を前提に、お願いします!」

「私は今度こそ!
 ラグノーツが好きになった相手と添い遂げさせてやりたいんだ。
 だから、私に言っても無駄だ。」

 そろそろ、膝から降ろして頂けないだろうか、父上は抱きかかえたまま、隊長たちと掛け合い漫才みたいな事を繰り返していた。

「父上、梅水晶は僕が作ったんです。
 食べてみて下さい。」

 フカヒレは手に入ってないので、鳥軟骨を細く刻んで梅干しの果肉に、蜂蜜を隠し味に出汁なんかと和えて作った。
 去年、梅の実を緑頭が持って来たから、梅酒と梅シロップ、梅干しとたくさん漬けておいたから、また、色々出来る。

 梅干しを使った炊き込みご飯は、いい塩梅でさっぱり食べられるし、飲みの〆に出すつもりだ。

「やっと、ラグノーツの料理が食べられるな。」

「はい」

「コリコリ感が面白い上に、美味いな。
 酸っぱいのと、何か複雑な味わいがある」

 くいっと、グラスの焼酎を煽って、更に一口と、ペースが早くなって来た。

 セバスチャンに言って、途中でお酒を水に変えてあげて、お酒に呑まれちゃった父上に明日の朝ごはんはシジミのお味噌汁だなと、笑った。
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